2013 年 52 巻 6 号 p. 364-370
東京電力福島第一原子力発電所事故で放出された放射性物質の環境影響は甚大であり,その影響の多くは大気拡散と沈着に起因する.本稿では,大気中の天然および人工の放射性核種の起源および影響の主要部分を踏まえ,評価方法と我々の理解度を省みた. 今回の事故では放射性物質の概略の放出量は評価されているが,不確かさは大きい.放射性物質による影響は,大気中での長距離輸送と降水に伴う沈着により遠隔地でも発現し,大きな社会影響を及ぼすことが事故の経験から指摘でき,湿性沈着過程の理解とモデルの精度の向上が必要である.SPEEDI の予測結果は現実に比較的近いものであり,事故初期から関係機関に提供されていた.しかし,予測結果は一部の限定的な目的に使用されただけで,本来の住民の放射線防護目的では使用されず,課題を残した.