2013 年 25 巻 3 号 p. 79-90
本論文は, 14歳女子との約3年半にわたる心理療法のプロセスを呈示し, 解離性同一性障害への心理療法に対する理解および治療的アプローチについての検討を行った。この事例では, 解離症状の原因を治療することを重視する従来のアプローチとは異なり, 逆説的なプロセスをたどっている点に注目された。クライエントの交代人格である子ども人格は, ある種の偽物(fake)と考えられたが, それはセラピーの中で保持されていった。子ども人格が一面的に誇張され, 強められていったことが, 弁証法的にクライエントの解離された人格を内在化することを導き, 最後には自己関係が成立し, 解離は消失した。これは, 「振り返る自分」と「振り返られる自分」の解離を内にもった大人の意識の獲得と受容であると考えられた。