2014 年 27 巻 1 号 p. 17-28
思春期は守り包まれた世界から産まれでて,心理学的誕生を果たすことが課題となる。心理学的誕生は一時になされるわけではないため,この時期,心理学的子宮と心理学的誕生の狭間を漂う子どもたちには“意識していること”と“実際の在り方”の間にズレが生じる。本論文では,このズレに着目して,不登校状態にあった思春期男児の事例を検討した。クライエントは,心理学的子宮から産まれでてしまったことを意識しながらも,実際の在り方としては,かつての家に戻ることや未来の希望や将来の可能性に包まれることを求めていた。そのようなクライエントが報告した夢は,「すでにこの世のものではないが,その現実を受け入れられずにいる地縛霊と出会う」というイメージによって,“意識していること”と“実際の在り方”のズレを直視することの重要性を示唆していた。最後に,思春期のクライエントとの心理療法においては,クライエントを守り育むのみならず,その守り育むもの自体が喪失される否定の契機を見守ることも重要になると考察した。