2016 年 29 巻 2 号 p. 77-86
更級日記は今から千年前,平安時代のある女性が書き残した日記である。更級日記には14歳から47歳までの期間,作者の見た一連の夢が記録されており,これをユング心理学の観点から見るとき,作者の個性化プロセスの興味ある記録となっていることがわかる。最後の夢においては夢に阿弥陀仏が現れ,作者の最後の日に彼女を浄土に連れて行くことを確約する。これは最初の夢における予言の成就であった。心理学的にいえば,この日記は,夢に対して関心を払い続けることの重要性,さらに夢に対してアクティヴな態度をとることの重要性を示すものである。