2017 年 29 巻 3 号 p. 51-64
本論文は,特別養護老人ホームにおける二つの箱庭調査事例について述べたものである。それぞれの事例は長期に渡り,同じ見守り手のもとで行われた。また筆者らは,認知症を抱える作り手と,見守り手との関係性について焦点を当て,検討を行った。一つ目の事例では,作り手はアイテムを横一列に並べ,毎回同じような箱庭を制作していたが,同じ見守り手との制作を通して否定的な表現がなされたり,アンビバレントな感情が表出されたりすることで,作り手らしい制作の場となっていった。二つ目の事例では,作り手は“商売人”としての見守り手にお金を支払わなければならないことを気にするが,徐々に“買い手”としての作り手が“商売人の先輩”としての作り手へと変化し,それは,作り手が最も主体的な瞬間であるようだった。これら二つの調査事例から,認知症を抱えた高齢者は作り手自身の箱庭を制作するとともに,見守り手との安定した関係性を求めるような心の動きが見られることが示された。さらに,そのような見守り手との関係性の中で,認知症を抱える高齢者の主体的な在りようが見られたことは重要な点であると言えるだろう。