2017 年 29 巻 3 号 p. 39-49
本研究は,児童養護施設に暮らす,発達に遅れが見られた6歳の男児のプレイセラピーにおいて,ボールの蹴り合いが生じてくるまでのプロセスを検討した。プレイセラピーの開始時には自他未分化なところがあったクライエントは,2年間にわたる46回のセッションの経過において,セラピストと分離し,対峙し,そしてボールの蹴り合いを行うようになった。また同時に,蹴り合いそれ自体が,両者の分離を促進すると考えられた。以上のことから,プレイセラピーにおけるボールの蹴り合いは,クライエントが主体を確立し,他者との関係を構築していくプロセスに密接に関わる,重要な表現であると考えられた。