2020 年 33 巻 1 号 p. 39-49
本研究では,思春期女子クライエントとの心理臨床面接に基づいて,化粧という行為の意味について検討した。このクライエントは,傷ついた内面を隠すために化粧を用いていた。特に,カラーコンタクトの着用は,視線でのやりとりからクライエントが己を守る意味を担っていたようであった。面接の進展と共に化粧は「飾る」意味だけでなく「慈しむ」意味も獲得し,クライエントが自他の表層だけでなく内面も意識しはじめたことがうかがわれた。重要な他者から見捨てられる体験を幾度も重ねてきたこのクライエントは,セラピストとの間でも同様の体験を重ねる危機に瀕した。しかし,終わりが意識されることで,内心を語る機会が面接の場に生まれることになり,このことが治療的に働いたと考えられる。