箱庭療法学研究
Online ISSN : 2186-117X
Print ISSN : 0916-3662
ISSN-L : 0916-3662
研究報告
南米移民二世の軽度認知症女性の箱庭にみるアイデンティティの葛藤と老年期の心理社会的発達過程
森 里子
著者情報
ジャーナル 認証あり

2023 年 35 巻 3 号 p. 29-40

詳細
抄録

箱庭療法における体験が軽度認知症高齢者に対してどのように治療的な働きをしているのかについて,心理的葛藤に取り組む点および老年期の心理社会的発達の点から考察し,理解を深めることが本論の目的である。その目的のため,アイデンティティの葛藤が施設での生活にて不適応を引き起こしていた南米移民二世T氏による約3年4か月にわたる箱庭療法の過程について記述し,考察を行った。軽度認知症高齢者を対象とした箱庭療法の過程では,自身の手を動かして作成したイメージとの対話を通して心理的葛藤の解消を進めることが可能になり,E. H. Eriksonの提唱した心理社会的発達過程の第8段階における心理社会的危機において「統合」を得て,さらに第9段階「老年的トランセンダンス」へと進むことができ,軽度認知症高齢者は正常な心理社会的発達を遂げることが可能であると考えられた。

著者関連情報
© 2023 日本箱庭療法学会
前の記事 次の記事
feedback
Top