2023 年 35 巻 3 号 p. 3-13
本論文では,双極性障害と解離性同一性障害の診断を受け,自身の症状を主訴に来談した54歳女性との面接過程を報告した。当初,Clには身体症状と共に,解離傾向と希死念慮が見られたが,その背景には,Clの両親と古いしきたりの残る地域との関係と,Cl自身の自我の脆弱さがうかがえた。Clは自身の夢について,身体感覚のインパクトからその印象深さを語っていた。一連の夢を検討すると,夢自我の強化と共に,現実場面でもClが主体性を増し,解離していた様々な記憶を思い出しながら,心的エネルギーを回復していく過程が示唆された。また,夢自我に生じる身体感覚に焦点を当て,物語性のない夢を扱う視点や,中年期以降にこれからの自分を生きるテーマとの関連から,その意味を考察した。