化学災害時に一般住民の避難を促進する要因を特定する研究は限られている.本研究の目的は,災害緊急時避難支援の担当になりうる自治体職員・製造業作業者との比較を通して,危険性・有害性を持つ化学物質による災害時において一般住民が避難行動をとる意思に対し,どのような要因が影響しているかを明らかにすることである.Web質問紙調査とし,目標人数は,一般住民として北九州市民150人,主に福岡県在住の自治体の職員150人,製造業の従業員200人とした.目的変数を「化学災害時に避難行動をとる意思」,説明変数を「化学災害の経験」,「災害発生時に悪天候でも避難」,「消防署の対応の知識」,「化学物質の有害性の知識」,および「避難が必要との認識」,などとした.ロジスティック回帰分析およびフィッシャーの正確確率検定の結果から,一般住民では,「年齢」が高いこと,「化学物質の有害性の知識」が少ないことが避難意思を高めていた.一方,自治体職員では「化学災害の経験」があることが,製造業従業員は「消防署の対応の知識」があることが,避難意思を低くしていた.一般住民においては,「化学物質の有害性の知識」があることが避難行動を抑制する結果となったが,有害性の化学物質の曝露を低くするためには,有害性物質の濃度等に依存した避難をすべき条件の明確化が今後の研究に求められることが示唆された.