産業医科大学雑誌
Online ISSN : 2759-646X
2019年の福岡県内の産科医療施設における母性健康管理指導事項連絡カードの使用状況
橋脇 冴弥 , 金城 泰幸, 荒牧 聡, 吉野 潔
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2026 年 48 巻 1 号 p. 1-6

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Abstract

労働力不足が問題となり両立支援に注目が集まり久しいが,未だに妊娠や出産を機に退職する女性は多い.妊娠中の体調変化を職場へ情報提供できるツールに母性健康管理指導事項連絡カード(以下,カード)が知られているが,「働き方改革実行計画」以降の使用状況に関する調査報告はない.今回,両立支援が注目されてきた2019年の産婦人科施設におけるカードの使用状況の調査を行った結果を報告する.2019年10月から12月にアンケート調査を実施した.質問事項は,回答者の属性(職種・経験年数・施設規模),カードを見たことがあるか,記載したことがあるか,カードと診断書の作成はどちらが多いか,改善が必要と思われる事項は何か,とした.回答者の職種別の割合を調べた.送付した医療施設は,大学病院5施設,総合病院6施設,単科施設16施設であった.151名から回答が得られ,内訳は医師67名,助産師47名,看護師37名であった.カードを見たことがない回答者は,医師13名(19%),助産師16名(34%),看護師16名(43%)であった.記載したことがない医師は25名(37%)であり,21名(31%)が診断書を作成すると回答した.改善するべき事項は,周知や啓蒙が15名,内容の充実が11名,料金の設定が1名であった.2019年の本調査においては,就労妊婦の母性健康管理を行う上でカードは有効なツールと考えられたが,事業所に対する周知や啓蒙,さらには内容の充実が課題であるとされた.

Translated Abstract

Support for work-life balance has been attracting attention in Japan due to the labor shortage; however, many women still leave their jobs after pregnancy or childbirth. The maternal health maintenance information card has been developed and used for maternal health care. The card is known as a tool to provide information about changes in maternal condition for the workplace from the obstetrician or midwife, but there have been no reports since a survey for use of the cards was conducted in 2008. We conducted a survey in 2019 after starting support for work-life balance to evaluate the utilization of the cards. The survey was conducted from October to December 2019. The healthcare settings to which the questionnaires were sent were 16 single-obstetrics facilities, 6 multi-department facilities, and 5 university hospitals. The questionnaires included respondent characteristics (job type, years of job career, and type of workplace), whether you had ever seen or heard of the cards, whether the card or the diagnostic form was more commonly used, and what items you thought needed improvement. Responses were received from 151 respondents, of which 67 were obstetricians, 47 were midwives, and 37 were nurses. Thirteen obstetricians, 15 midwives, and 16 nurses had never seen the cards. Twenty-five obstetricians had never heard of it, and 21 indicated that they would make a medical certificate. The items to be improved were information delivery and enlightenment for 15 respondents, form improvement for 11 respondents, and fee setting for 1 respondent. The card is an effective tool for maternal health care of working pregnant women; however, problems remain about information delivery and enlightenment and form improvement. Since this survey was conducted with regard to the old version of the card, it is necessary to continue a next survey for the new version.

はじめに

昨今の我が国においては少子高齢化のため労働人口が減少し,既存の労働力を維持することが課題となっている.女性の社会進出に目を向けると,20歳から30歳代の7割超の女性が就労しており,多くの女性が妊娠・出産を経験しつつ就労していることが想定される[1].2021年6月に施行された第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)における独身者調査では,「女性のライフコース」の理想像は,男女ともに「仕事と子育ての両立」が初めて最多となり,仕事を継続しながら出産・育児を迎えたいと考える人が増加傾向にあった[2].一方で,働く女性の約5割が出産や育児により退職していることも報告されており,働く女性の母性健康管理はまだ十分ではない[3].

男女雇用機会均等法には職場における母性健康管理が規定されており,妊娠した女性労働者が医師等から医学的な判断に基づく就業上の指導を受けた場合に,事業主は勤務の軽減等の措置を講じなければならないとされている. 医療機関から事業主へ指導内容を伝達することを目的として,1997年に導入されたものが母性健康管理指導事項連絡カード(以下,母健カード)である[4].母健カードの導入から1年が経過した1999年に森らによって行われた母健カードの活用状況調査では,母健カードを「知っている」と回答した産科医療施設は77.4%であった[5].母健カード導入開始時は現在のように母子健康手帳に綴られておらず,母健カードを発行するためには医療機関に常備している書類を使用するか女性労働者が産科医療機関へ母健カードを持参する必要があった.その後,2002年1月に厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長より(雇児母第0115001号)「母子健康手帳の様式の改正について」が通知され,母子健康手帳に母健カードの様式が掲載された.2007年に報告された厚生労働省委託事業の「企業における妊産婦の健康管理体制に関する実態調査報告書」では,医師および助産師の母健カードの認識・使用状況について調査された.医師の86.7%,助産師の76.3%が母健カードを「知っている」と回答し,医師の60.4%,助産師の31.5%が「発行したことがある」と回答している.1999年から2007年にかけて,母健カードに対する医師の認知度は大きく変わらなかった.

2017年3月には労働力不足を背景に「働き方改革実行計画」が示され,その中で治療と仕事の両立支援の重要性が強調された.周産期領域においても両立支援の活性化は望まれており,母健カードの活用が引き続き期待されている.一方,2008年以降に母健カードの活用状況を報告した論文はない.今回,働き方改革以降の周産期における両立支援を評価するため2019年に実施した母健カードの使用に対するアンケート調査の結果を報告する.今回の調査対象となる母健カードは,2021年7月に改定される以前の旧版の母健カードであるが,働き方改革が示され,両立支援が重要視された時期における母健カードの使用状況を把握することに意義があると考え報告する.

方法

2019年10月から12月に福岡県内の産婦人科を標榜する医療施設に対してインターネットによるアンケート調査を実施した.アンケート配布の対象施設と医療圏は,大学病院の本院や分院(以下,大学病院)を福岡県,他科も併設している医療施設(以下,総合病院)を北九州保健医療圏と飯塚保健医療圏,産婦人科のみの医療施設(以下,単科施設)を北九州保健医療圏と直方・鞍手保健医療圏のそれぞれの施設とし,合計27施設であった[6].質問事項は,(1)回答者の属性を職種(医師,助産師,看護職),経験年数,施設規模(大学病院,総合病院,単科施設),(2)母健カードを見たことがあるか,記載したことがあるか,就業配慮が必要な妊婦がいた場合に母健カードを作成する意向があるか,(3)使用上の問題点の有無と問題点を有する場合の自由記載で構成した.使用上の問題点については以下のように分析した.はじめに著者2名で参加者ごとの自由記載欄の文脈に留意しながら繰り返し読み,意味内容の類似性や相違性を比較しキーワードを抽出した.抽出したキーワードは,「周知」「啓蒙」「啓発」「内容」「理解」「料金」「指導」「教育」「認識」「認知」「項目」「存在」「浸透」であった.キーワードをカテゴリ化し,「周知」「内容」「料金」に3つに分類できた.それぞれのカテゴリに以下のキーワードが含まれていることを確認した.「周知」には「啓蒙」「啓発」「理解」「指導」「教育」「認識」「認知」「存在」「浸透」,「内容」には「項目」がそれぞれ含まれた.上記に含まれるキーワードのない自由記載については,内容を吟味してカテゴリに分類した(例:“必要性が伝わりにくい”を「周知」に分類,“つわりで自宅療養を追加”を「内容」に分類,“簡単に記入できる”を「内容」に分類など).最後に分析の客観性を保つため,残りの著者2名で同様のカテゴリ分類を行い,分析の再現性があることを確認した.

アンケートの結果から(2)の3項目を以下のように定義し,その割合を求めた.

(a)認知率:母健カードを見たことがあるものの割合

(b)経験率:母健カードを記載したことがあるものの割合

(c)意向率:今後も母健カードの作成意向があるものの割合

得られたデータは単純集計し,認知率,経験率,意向率を求めた.医師と助産師に対しては認知率,経験率,意向率,看護職に対しては認知率についてそれぞれ経験年数別に求め比較分析した.Fisherの正確検定で有意差を認める場合はBonferroni検定を用いて経験年数ごとの有意差を評価した.統計解析ソフトはEZR(Ver 4.0.2)を用い,有意水準は5%とした[7].

なお,本研究は産業医科大学倫理委員会の承認を得ている(ER25-019).

結果

大学病院5施設,総合病院6施設,単科施設16施設にアンケートを送付し,151人がアンケートに回答した.回答者の属性をTable 1に示す.もっとも回答者数が多かった属性は,総合病院に勤務する医師で31名(21%)であった.続いて産婦人科単科施設の助産師が29名(19%),産婦人科単科施設の看護職員が28名(17%)であった.

Table 1. Characteristics of respondents

医師 助産師 看護職
1–5年目 大学病院 1名 3名 1名
総合病院 2名 3名 2名
単科施設 1名 5名 7名
計 4名 11名 10名
6–10年目 大学病院 4名 3名 0名
総合病院 7名 2名 3名
単科施設 1名 6名 2名
計 12名 11名 5名
11–20年目 大学病院 6名 3名 2名
総合病院 6名 2名 1名
単科施設 1名 8名 4名
計 13名 13名 7名
21年目– 大学病院 7名 1名 0名
総合病院 16名 1名 0名
単科施設 15名 10名 15名
計 38名 12名 15名
合計 67名 47名 37名

母健カードに対する認知率,経験率,意向率をFigure 1に示す.医師の3つの指標を経験年数で分けて比較すると,経験年数11–20年の群でもっとも高い値であった.助産師の認知率でもっとも高い値を示した群は6–10年目であったが,経験率は11-20年でもっとも高い値であった.医師の経験率は1–5年目を除いて50%を超えたが,意向率はいずれの経験年数でも50%以下であった.医師の認知率,経験率,意向率を経験年数別に比較すると,認知率(P=0.01)と経験率(P=0.02)において有意差を認めた.有意差のある経験年数は認知率(P=0.04),経験率(P=0.04)ともに「1–5年目」と「11–20年目」であった.助産師の経験率はいずれの経験年数でも50%以下であった.助産師の認知率,経験率,看護師の意向率に関しては経験年数毎の有意差を認めなかった.意向率の分析では,医師で母健カードを作成すると回答したものが12名(18%),診断書と回答したものが51名(76%),そもそも作成しないと回答したものが4名(6%)であった.助産師で母健カードと回答したものは5名(11%)であり,医師の診断書発行と回答したものは15名(32%)であった.

Figure 1. Rates of acknowledgement, writing experience and intention to write according to job type and years of job career.

Significant P-value was estimated using the Fisher exact test for four groups divided by years of experience and Bonferroni correction for each pair.

母健カードの使用上の問題点の有無とその内容についてTable 2に示す.使用上の問題点は,周知や啓蒙,内容の改定,料金設定の3つに分類できた.周知や啓蒙については,医療従事者,事業者,妊婦など特定の対象を指摘したものではなく,対象を限定しない周知・啓蒙を課題とする意見が多かった.一方では,産婦人科医が作成した母健カードに対する事業所の理解が乏しいことへの不安や母健カード作成に関わる医療者への教育の不十分さなど,具体的な内容を記述した問題も指摘されていた.このような問題点の存在のため,周知や啓蒙,内容の改定を問題として考えている医師の半数以上が診断書を発行すると回答していた.

Table 2. Number of the respondents who pointed out problems in writing the maternal health maintenance information card

医師 27名
 周知  15名 (14名が診断書を発行すると回答)
 内容  11名 (7名が診断書を発行すると回答)
 料金  1名 (1名が診断書を発行すると回答)
助産師 18名
 周知  14名
 内容  4名
看護職 6名
 周知  3名
 内容  3名

考察

母健カードは主治医等が行った指導事項の内容を妊産婦である女性労働者から事業主へ的確に伝えるための情報伝達ツールであり,保健指導を行う助産師も指導事項を含めた記載が可能である.診断書と母健カードは,それぞれ医療従事者と事業主との間のコミュニケーションに利用されるツールである.診断書は医師の自由記載により成り立つが,母健カードは記載項目が事前に定められている点で大きく異なる.母健カードは,妊婦・産褥婦の症状や診断のみならず,就業上の措置やその措置が必要な期間の記載を求めており,周産期における両立支援に特化したツールである.

今回の調査は2017年3月に示された「働き方改革実行計画」以降の母健カードの使用状況の変化を調べることを目的とした.回答が得られた医師の母健カードの認知率は81%であったが,経験率は63%,意向率は18%まで低下した.助産師の認知率は66%,経験率は15%であった.母健カードの普及のため母子健康手帳への掲載や都道府県労働局による周知活動が行われてきたが,過去の活用状況調査と比較して活用状況に大きな変化はなかった.医師の認知率,経験率には「1–5年目」と「11–20年目」で有意差があり,母健カードの普及のためには産婦人科専攻医への教育が課題として挙げられる.問題点の自由記載欄には,書き手側の医療者に対する周知のみならず,母健カードの作成依頼元である女性労働者と受け手側の事業者の周知についても指摘があった.健やか親子21の課題に「妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と不妊への支援」が掲げられ,女性労働者に対する母健カードの周知が改めて評価されている.「母性健康管理指導事項連絡カードを知っている就労している妊婦の割合」は,2000年の6.3%から2013年の43.3%まで改善したが,目標値である100%には到達しなかった[8].事業者に対する評価は,2006年の厚生労働省委託事業「事業所における妊産婦の健康管理体制に関する実態調査」で報告されている.母健カードによる措置を事業所で実施するにあたり「問題点がある」と回答したのは,母健カードの提出を受けたことがある50事業所のうち9事業所(18%)であった[9].具体的な内容として「指導された内容が漠然として実施しにくい」「時間短縮などの措置についての判断が難しい」などが挙げられた.母健カードは簡便である一方で,具体的な内容が事業者に伝わりにくい,または事業所内で措置を実施しにくいという問題点が考えられた.今回アンケート調査の対象となった旧版の母健カードは,症状・疾患とそれに対応する標準措置が1つに限定されていた.アンケート調査の自由記載欄の分析では,症状・疾患に対して措置の選択肢が限られていることを母健カードの問題点として挙げる人もいた.2021年に母健カードは新書式に改定され,就業上の措置の選択の幅が広がった.改定により事業者への伝達が改善していると期待されるため,今後,改定後の書式についても評価が必要である.

最後に今回の調査に関する研究限界について記述する.アンケートの配布を福岡県内の産科医療施設に限定した.そのため今回の調査結果は,日本全国の母健カードの使用状況を代表するデータではない.またアンケートを配布した医療従事者数に対する得られた回答数やそれらから得られる回答率が確認できていない.そのため得られた3つの指標に対する解釈については注意が必要である.

結語

就労妊婦の母性健康管理を行う上で母健カードは有効なツールであるが,医療従事者,事業所,妊婦に対する周知,内容の充実が課題としてあげられた.新しい書式へ変更後の運用について,再度評価が必要である.

謝辞

アンケート調査にご協力を頂いた医療施設の皆さまに深謝申し上げます.

利益相反

なし

データの利用可能について

研究中に生成され,分析されたデータセットは,合理的な要求に応じて責任著者から入手可能である.

References
  • 1.  内閣府男女共同参画局(2013):男女共同参画白書 平成25年版 女性の年齢階級別労働力率の世代による特徴.https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h25/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-00-10.html (閲覧日2024年8月14日)
  • 2.  国立社会保障・人口問題研究所(2022):第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査).https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/doukou16_gaiyo.asp (閲覧日2024年9月22日)
  • 3.  厚生労働省(2019):(参考資料)働き方改革の背景 仕事と家庭の両立をめぐる現状.https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000190582.pdf (閲覧日2024年8月14日)
  • 4.  厚生労働省(1997):妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針.https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73997856&dataType=0&pageNo=1 (閲覧日2024年8月14日)
  • 5.  森晃爾,長井聡里,酒井一博,久永直見,大久保利晃(2001):ポスター抄録「母性健康管理指導事項連絡カード」活用状況調査(1)認識調査.産衛誌43臨増:535
  • 6.  福岡県(2018):福岡県の周産期医療体制 福岡県内の周産期母子医療センター等配置図.https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/720111_62065645_misc.pdf (閲覧日2024年8月14日)
  • 7.   Kanda  Y(2013): Investigation of the freely available easy-to-use software ‘EZR’ for medical statistics. Bone Marrow Transplant48:452–458
  • 8.  厚生労働省(2013):「健やか親子21」最終評価報告書(参考資料1~6).https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11908000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Boshihokenka/0000034789.pdf (閲覧日2024年8月14日)
  • 9.  財団法人女性労働協会(2007):厚生労働省委託事業「事業所における妊産婦の健康管理体制に関する実態調査報告書」.https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/document/data/0_5_5.pdf (閲覧日2024年8月14日)
 
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