産業医科大学雑誌
Online ISSN : 2759-646X
梨状筋内トリガーポイント注射により診断確定に至った小児梨状筋症候群の1例
五十嵐 亮太 福田 智文柴原 淳平石井 雅宏米田 哲深野 玲司
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2026 年 48 巻 1 号 p. 7-12

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Abstract

症例は13歳,女児.左腰臀部痛および左大腿部後面の痺れを主訴に受診した.画像検査や電気生理学的検査では明らかな異常を認めず,保存的加療にも反応が乏しかった.坐骨神経支配領域の疼痛が持続したため梨状筋症候群を疑い,診断目的で超音波ガイド下に1%メピバカイン塩酸塩を用いた梨状筋内トリガーポイント注射を施行したところ,直後より症状が著明に改善し,本疾患と診断した.梨状筋症候群は坐骨神経が梨状筋により圧迫されて発症する絞扼性神経障害であり,成人での報告はあるものの小児例は極めて稀である.小児の特発性坐骨神経痛に関する既報では梨状筋由来の神経絞扼の可能性が十分に検討されておらず,過去に特発性坐骨神経痛とされた症例の中に未診断の梨状筋症候群が含まれていた可能性がある.本症例は感染や外傷の誘因を欠いた非感染性小児梨状筋症候群として貴重であり,診断的治療としてのトリガーポイント注射の有用性が示唆された.

Translated Abstract

A 13-year-old girl presented with left gluteal pain and numbness in the left thigh. Imaging studies and electrophysiological tests revealed no significant abnormalities, and conservative treatment was ineffective. Since persistent pain along the sciatic nerve distribution led us to suspect piriformis syndrome, a diagnostic trigger point injection of 1% mepivacaine into the piriformis muscle was performed under ultrasound guidance, resulting in immediate symptom relief, confirming the diagnosis. Piriformis syndrome is a compressive neuropathy caused by entrapment of the sciatic nerve by the piriformis muscle. While relatively well-documented in adults, it is extremely rare in children. The possibility of piriformis-related nerve compression has not been adequately considered in previously reported pediatric cases of idiopathic sciatica, and undiagnosed piriformis syndrome may have been overlooked. This case, with no infectious or traumatic etiology, represents a rare example of non-infectious piriformis syndrome in a child. The clinical course highlights the diagnostic utility of trigger point injection in suspected cases. Piriformis syndrome should be considered in the differential diagnosis of pediatric sciatica after exclusion of structural abnormalities.

はじめに

梨状筋症候群(piriformis syndrome)は,坐骨神経が梨状筋により圧迫されることで発症する絞扼性神経障害であり,成人における報告は散見されるが,小児例の報告は乏しい.症状は坐骨神経の走行に一致する腰臀部痛や下肢の痺れ・感覚障害を呈する.診断は画像検査や電気生理学的検査で明確な所見を認めないことも多く,臨床症状の評価と鑑別疾患の除外,さらにトリガーポイント注射による診断的治療への反応性が重要となる[13].

今回我々は,感染症や外傷を伴わずに梨状筋症候群を発症した13歳女児例を経験した.小児の梨状筋症候群は稀であり,診断に苦慮したため詳細を報告する.

症例

13歳.女児.

主訴:左腰臀部痛および左大腿部後面の痺れ.

既往歴:12歳時に急性腰痛症.

家族歴:弟 脳性麻痺.

生活歴:普段より学業や趣味の関係で長時間の座位姿勢をとることが多かった.身体活動量は年齢相応だが,運動習慣はなかった.

現病歴:X月Y日より明らかな誘因なく腰痛が出現した.Y+4日には左臀部にも痛みが広がり,Y+5日には左足に加重をかけると疼痛が増悪するようになり,跛行が出現した.Y+6日には左大腿部後面に痺れを訴えるようになったため近医産婦人科・整形外科を受診するも診断には至らず,アセトアミノフェン内服で経過観察された.Y+14日に近医整形外科を再診し,骨盤部のX線検査および腰椎のMRI検査を施行されたが器質的な異常は指摘されなかったため,Y+16日に当科外来を受診した.保存的加療として疼痛に対しプレガバリン内服を開始したが改善せず,Y+23日に精査目的で入院した.

入院時現症:身長156.3 cm(+0.17 SD),体重50.6 kg(+0.36 SD).体温36.9°C,脈拍78/分,血圧119/68 mmHg,呼吸18/分.一般身体所見は特記事項なし.皮膚所見:発疹,白斑,母斑なし.神経学的所見:脳神経に異常所見なし.Manual Muscle Testingは腸腰筋・大腿四頭筋のみ5/5-,他は5/5.表在感覚は左L4-L5領域に疼痛,左S1領域に異常感覚を認めた(Figure 1).歩行時に左腰臀部痛の増悪を認め,疼痛性跛行を認めた.深部腱反射は左右とも亢進減弱なし.Freiberg徴候およびPace徴候ではいずれも軽度の疼痛を訴えた.自律神経障害なし.膀胱直腸障害なし.

Figure 1. Sciatic pain and numbness regions observed in the present case.

At the time of admission, the patient reported pain localized to the left L4–L5 dermatomes and numbness in the left S1 dermatome.

検体検査(Table 1):血算,生化学,感染症マーカーはすべて正常.髄液検査では細胞数および蛋白の上昇や糖の低下なし.

Table 1. Laboratory Findings on admission

<Hematology> <Biochemistry> <Serology>
WBC 5,800 l TP 7.3 g/dl CRP 0.01 mg/dl
Neu. 52.4 % Alb 4.4 g/dl ESR 8 mm/h
Lym. 40.9 % AST 21 U/l RF <5.0 U/ml
Mono. 4.3 % ALT 22 U/l ANA <40
Eos. 1.7 % LDH 139 U/l
Baso. 0.7 % ALP 78 U/l
Hb 12.7 g/dl γ-GTP 20 U/l <CSF parameters>
Plt 33.2x104 l BUN 8 mg/dl WBC count 2 l
Cre 0.46 mg/dl Neu. 0 %
Na 139 mmol/l Lym. 0 %
K 4 mmol/l Mono. 2 %
Cl 104 mmol/l Protein 20.7 g/dl
Ca 9.8 mg/dl Glucose 54.2 mg/dl

WBC: White blood cell, Neu: Neutrophil, Lym: Lymphocyte, Mono: Monocyte, Eos: Eosinophil, Baso: Basophil, Hb: Hemoglobin, Plt: Platlet count, TP: Total protein, Alb: Albumin, AST: Asparatate aminotransferase, ALT: Alanine amino-transferase, LDH: Lactate dehydrogenase, ALP: Alkaline phosphatase, γ-GTP: γ-Glutamyl transpeptidase, BUN: Blood urea nitrogen, Cre: Creatinine, Na: Sodium, K: Potassium, Ca: calcium, CRP: C-reactive protein, ESR: Erythrocyte sedimentation rate, RF: Rheumatoid factor, ANA: Antinuclear anti-body, CFS: Cerebrospinal fluid.

画像検査:腰部,股関節から大腿部の造影MRI検査では脊髄,筋肉および骨に特記所見なし,坐骨神経の走行異常なし.

生理機能検査:神経伝導検査では,運動神経は左右の正中神経,尺骨神経,脛骨神経および深腓骨神経においていずれも正常範囲内であった.感覚神経では左右の正中神経,尺骨神経および腓腹神経において異常所見は認められなかった.体性感覚誘発電位検査は左右後脛骨神経刺激において正常波形を示した.

臨床経過:入院後,腰椎椎間板ヘルニア,脊柱管狭窄症,仙腸関節炎,股関節疾患,坐骨神経炎,化膿性筋炎,腫瘍性病変などを鑑別疾患として精査を行ったが,いずれも否定的であった.

一連の検査で器質的異常所見が認められないにも関わらず左坐骨神経支配領域の疼痛が持続したことから,梨状筋症候群を疑った.梨状筋症候群の検査として誘発テストを実施したが,Freiberg徴候やPace徴候ではいずれも軽度の疼痛の訴えを認めたが明らかな陽性所見とは捉えなかった.その後も左腰臀部痛が強く,歩行困難が続いたため,麻酔科医と相談し,梨状筋症候群の診断的治療として1%メピバカイン塩酸塩を用いた梨状筋内トリガーポイント注射を施行する方針とした.Y+42日,超音波ガイド下に左梨状筋を同定し,筋膜下に局所麻酔薬1%メピバカイン塩酸塩8 mlを注入した.施行直後より疼痛と痺れが著明に改善し,歩行可能となったことから,梨状筋症候群と診断した.翌日以降も症状の再燃はなかったため,Y+44日にプレガバリン内服を中止した.再発予防のため梨状筋ストレッチを指導した上でY+49日に自宅退院した.その後,疼痛の再燃は認めていない.

考察

小児における梨状筋症候群の報告は極めて稀であり,既報の小児例は,化膿性筋炎や膿瘍形成を伴うもののみである.Todaら(2013)は,11歳男児において梨状筋の化膿性筋炎により坐骨神経痛を呈した症例を報告しており[4],Schotsら(2016)は9歳男児の殿部痛を主訴とした梨状筋の化膿性筋炎を[5],Barchiら(2023)も肺炎球菌による化膿性筋炎と膿瘍形成により坐骨神経痛をきたした小児例を報告している[6].したがって,本症例のような非感染性の梨状筋症候群は極めて特異である.

梨状筋症候群は主症状が坐骨神経痛であるが,小児において坐骨神経痛自体が稀であり,その頻度に関する疫学データは乏しい.小児の腰痛症例の中でも坐骨神経症状を呈するものはごく一部にとどまり,さらに画像検査や電気生理学的検査において明確な異常が認められない場合,臨床的には「特発性坐骨神経痛」とされることが多い.実際,Srinivasanら(2011)は30年間で経験した小児の坐骨神経障害53例のうち,4例を特発性坐骨神経障害と報告している[7].この報告では,梨状筋由来の神経絞扼の可能性についての言及はなかった.小児の特発性坐骨神経痛に関する既報の多くにおいても,梨状筋症候群の関与は十分に検討されていない.そのため,これまでに特発性と分類された小児症例の中には,実際には未診断の梨状筋症候群が含まれていた可能性がある.さらに,坐骨神経痛は保存的治療により自然軽快することも多く,小児においても一過性の坐骨神経痛と判断され,詳細な精査が行われないまま経過観察とされる症例が一定数存在すると推測される.

梨状筋症候群は画像検査や電気生理学的検査で異常を伴わないことが多く,成人においても診断が困難な疾患である.近年MRI Neurographyや神経伝導検査,針筋電図検査などによる診断が試みられているが,これらは標準的な診断法としては未確立であり[810],特に小児においてその有用性は限定的である.

古典的な診断法として,梨状筋の緊張を高めることで坐骨神経の圧迫を誘発する各種の誘発テスト(Freiberg徴候[11],Pace徴候[12],Beattyテスト[13],FAIRテスト[14],SLRテストなど)も補助診断として用いられるが,感度・特異度には限界がある[1].本症例においても誘発テストでFreiberg徴候やPace徴候の導出を試みたが,軽度の痛みを訴えるにとどまり診断の決め手にはならなかった.その一方,梨状筋内トリガーポイント注射による疼痛軽減の有無を確認する方法は,比較的感度が高いとされており,診断の決め手となることが報告されている[12].本症例においても梨状筋内トリガーポイント注射後に速やかに症状が消失したため,梨状筋症候群と診断できた.

梨状筋症候群の治療法としては,軽症例は安静や消炎鎮痛薬内服,ストレッチなどの理学療法で改善することもあるが,症状が持続する例では前述した局所麻酔薬やステロイドによる梨状筋内トリガーポイント注射が行われ,難治例では外科的切除術が選択される[23].外科的切除に関しては前述の保存的治療に6か月以上反応せず,梨状筋症候群が強く疑われる症例に対して梨状筋切除術,坐骨神経剥離術,梨状筋膜切除などが行われるが,小児例の報告はなく適応には慎重になるべきである[1516].本症例では梨状筋内トリガーポイント注射により症状が速やかに改善し,再発も認めなかったため外科的治療は不要であった.また,梨状筋症候群の発症リスクとして坐骨神経の解剖学的異常や長時間の座位姿勢が報告されている[1].本症例では坐骨神経の走行に異常は認めなかったが,学業や趣味より座位時間が長い生活習慣が梨状筋症候群の発症に関与していた可能性がある.退院後は再発予防を目的に梨状筋ストレッチを中心とした理学療法を指導し,良好な経過を得た.

以上より,小児における坐骨神経痛の原因精査においては,器質的疾患を除外した後に梨状筋症候群を鑑別に挙げ,その診断および治療の選択肢として梨状筋内トリガーポイント注射を考慮することが重要であると考えた.

結語

小児においても梨状筋症候群は発症する可能性があり,跛行や腰臀部痛を訴える症例では本疾患を鑑別として念頭に置くことが重要と考えられた.他疾患を十分に除外した上で,診断的治療として梨状筋内トリガーポイント注射を考慮すべきである.

利益相反

なし.

著者の貢献

五十嵐亮太は症例の診療,論文の概念化,執筆,校正で貢献した.

福田智文は症例の診療,論文の概念化,校正で貢献した.

柴原淳平は症例の診療で貢献した.

石井雅宏は論文の校正で貢献した.

米田哲は症例の診療,論文の校正で貢献した.

深野玲司は論文の概念化,執筆,校正で貢献した.

データの利用可能性

研究中に生成または分析されたすべてのデータはこの公開された論文に含まれている.

References
 
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