本研究は,日本における精神・行動障害を有する小児に対する漢方製剤処方の実態を明らかにすることを目的として,大規模レセプトデータを用いた解析を行った.産業医科大学産業保健データサイエンスセンターが収集した11の保険者データを用い,2020年から2022年の3年間における0~18歳の被保険者を対象とした.対象期間中の実人数358,347人のうち,ICD-10の精神および行動の障害(F00–F99)に該当する者は実人数26,453人であった.このうち漢方製剤が処方された者は実人数5,092人であり,精神・行動障害患者の約19%に漢方製剤が処方されていた.漢方製剤処方割合は年齢とともに増加し,15–18歳では約24%に達した.傷病別では,広汎性発達障害(F84)で約8%,多動性障害(F90)で約9%に漢方製剤が処方されていた.処方薬では抑肝散が全年齢層でもっとも多く,次いで甘麦大棗湯が多かった.本研究により,精神・行動障害を有する小児において漢方製剤が一定割合で使用されている実態が明らかとなり,特に神経発達症に伴う情緒・行動症状に対する補完的治療として用いられている可能性が示唆された.今後は臨床症状や併用薬を考慮した詳細な解析や臨床研究により,有効性と安全性の検証が求められる.