本研究は,日本における精神・行動障害を有する小児に対する漢方製剤処方の実態を明らかにすることを目的として,大規模レセプトデータを用いた解析を行った.産業医科大学産業保健データサイエンスセンターが収集した11の保険者データを用い,2020年から2022年の3年間における0~18歳の被保険者を対象とした.対象期間中の実人数358,347人のうち,ICD-10の精神および行動の障害(F00–F99)に該当する者は実人数26,453人であった.このうち漢方製剤が処方された者は実人数5,092人であり,精神・行動障害患者の約19%に漢方製剤が処方されていた.漢方製剤処方割合は年齢とともに増加し,15–18歳では約24%に達した.傷病別では,広汎性発達障害(F84)で約8%,多動性障害(F90)で約9%に漢方製剤が処方されていた.処方薬では抑肝散が全年齢層でもっとも多く,次いで甘麦大棗湯が多かった.本研究により,精神・行動障害を有する小児において漢方製剤が一定割合で使用されている実態が明らかとなり,特に神経発達症に伴う情緒・行動症状に対する補完的治療として用いられている可能性が示唆された.今後は臨床症状や併用薬を考慮した詳細な解析や臨床研究により,有効性と安全性の検証が求められる.
This study used large-scale administrative claims data to clarify the actual status of Kampo medicine prescriptions for mental and behavioral disorders in children in Japan. We analyzed data from 11 health insurance societies collected by the Occupational Health Data Science Center at the University of Occupational and Environmental Health, Japan (UOEH). The study targeted insured individuals aged 0 to 18 years over a three-year period from 2020 to 2022. Among the 358,347 children in the population, 26,453 were diagnosed with mental and behavioral disorders (ICD-10: F00–F99). Of these, 5,092 patients (approximately 19%) were prescribed Kampo medicine. The prescription rate increased with age, reaching approximately 24% in the 15–18 age group. By diagnosis, Kampo medicine was prescribed for 8% of patients with pervasive developmental disorders (F84) and approximately 9% of those with hyperkinetic disorders (F90). Yokukansan was the most frequently prescribed formulation across all age groups, followed by Kambakutaisoto. This study reveals that Kampo medicine is utilized by a significant proportion of pediatric psychiatric patients, suggesting its potential role as a complementary treatment for emotional and behavioral symptoms associated with neurodevelopmental disorders. Future detailed analyses and clinical studies that consider clinical symptoms and concomitant medications are required to verify the efficacy and safety of Kampo medicine.
小児期における精神および行動の障害は,複雑な疾患スペクトラムを形成している.これらの障害の中でも,自閉スペクトラム症,注意欠如・多動症,限局性学習症などを含む「神経発達症」は主要な疾患群である[1].これらの疾患は単一の原因によって生じるものではなく,遺伝的要因と環境要因の複雑な相互作用,さらに神経生物学的発達の偏りが背景に存在すると考えられている[2].
近年,日本における疫学調査では,これらの疾患の有病率が持続的に増加していることが報告されている[3–6].この背景には,診断基準の精緻化(DSM-5-TRやICD-11の導入)や,保護者および教育現場における疾患理解と認識の向上が寄与していると考えられている[5, 7].例えば,日本の研究では,小児・青年期における注意欠陥多動性障害の診断率が2017年から2021年にかけて毎年増加していることが報告されている[4].また,日本のレセプトデータであるNational Databaseを用いた研究では,自閉スペクトラム症の生涯累積発症率が2009年から2014年にかけて上昇していることが示されている[7].さらに,Global Burden of Diseaseの研究によれば,日本における自閉スペクトラム症の年齢標準化有病率は1992年から2021年にかけて有意に増加している[5].
小児の精神および行動の障害の治療は,主に社会心理的支援と薬物療法に大別される[8, 9].治療の基本方針は,小児の特性を理解し,社会生活におけるミスマッチを軽減するとともに,生活および学習上の困難を緩和し発達を支援することである.社会心理的支援の代表的な方法として,応用行動分析(applied behavior analysis; ABA)やソーシャルスキルトレーニング(social skills training; SST)が挙げられる.これらの介入は個々の認知特性に応じて相補的に用いられ,社会生活における適応を促進し,自己肯定感や生活の質の向上に寄与する.
一方,薬物療法は必要に応じて補助的に用いられる.例えば注意欠陥多動性障害では,中枢神経刺激薬(メチルフェニデートなど)や非刺激薬(アトモキセチンなど)が用いられ,不注意や多動性の改善を目的とする.自閉スペクトラム症においても,強い不安や易刺激性などの症状に対して薬物療法が検討されることがある.近年,神経発達症を含む小児の精神・行動障害において薬物療法の使用は増加しており,日本のレセプトデータを用いた研究でも,18歳以下のうつ病患者に対する処方の増加や[10],COVID-19流行前後における抗不安薬および睡眠薬処方の増加が報告されている[11].
小児の神経発達障害に対する薬物療法では,西洋医学的薬剤が標準治療として確立されている.一方,日本では漢方製剤が補完的に用いられているという独自の臨床実態がある[12, 13].日本の臨床現場では,易刺激性,不安,睡眠障害,癇癪などの周辺症状に対する補助療法として漢方製剤が使用されることがある[14–16].その背景には,西洋医学的薬剤に伴う食欲低下,不眠,錐体外路症状などの副作用や,成長過程にある小児への薬物投与に対する保護者の不安や抵抗感があることが指摘されている[17].また,漢方製剤は精神症状のみならず身体症状や周辺症状にも作用するため,精神科領域において比較的受け入れられやすい傾向が報告されている[16].
日本における神経発達障害を有する小児に対する漢方製剤の使用実態を詳細に示したデータは限られている.特に,どのような症状や病態に対して漢方製剤が選択されているのか,また処方される具体的な漢方製剤の種類については,体系的に整理された報告が少ない.したがって,臨床現場における漢方製剤の実際の使用状況を明らかにすることは,小児神経発達障害に対する補完的治療の実態を理解するうえで重要である.
本研究の目的は,大規模なレセプトデータを用いて,精神および行動の障害を有する小児における漢方製剤処方の実態を明らかにし,日本における小児精神領域での漢方製剤処方の位置づけを検討することである.
本研究では,産業医科大学産業保健データサイエンスセンターが収集した11の健康保険組合のレセプトデータを用いた.対象期間は2020年から2022年までの3年間とした.2022年時点での被扶養者を含む加入者数は1,380,344人であった.健康保険組合別では,最小は8,261人,最大312,156人であった.本研究の対象となる母集団は,この期間における被保険者世帯に属する0~18歳の児童・青年358,347人(実人数)である(Table 1).
| 年齢階級 | 対象年における人数 | 全期間の実人数 | ||
|---|---|---|---|---|
| 2020年 | 2021年 | 2022年 | ||
| 0–4歳 | 61,437 | 60,670 | 57,470 | 94,890 |
| 5–9歳 | 82,315 | 84,049 | 83,095 | 123,079 |
| 10–14歳 | 83,771 | 86,277 | 85,567 | 127,372 |
| 15–18歳 | 63,913 | 66,545 | 67,831 | 108,384 |
| 合計 | 291,436 | 297,541 | 293,963 | 358,347 |
母集団のうち,レセプト上に「精神および行動の障害(ICD-10コード:F00–F99)」の病名が記録されている者,実人数26,453人(7.4%)を抽出した(Table 2).さらに,これらの対象者のうち漢方製剤の処方が確認された者,実人数5,092人(19.2%)を本研究の分析対象とした.漢方製剤の特定には,電子レセプトに記載されたレセプト電算処理システム用コードを用い,医薬品名称から148の漢方製剤を同定した.
| 0–4歳 | 5–9歳 | 10–14歳 | 15–18歳 | 延べ人数 | 実人数 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 母集団人数 | 179,577 | 249,459 | 255,615 | 198,289 | 882,940 | 358,347 |
| 精神および行動の障害 | 5,654 | 14,209 | 13,122 | 11,288 | 44,273 | 26,453 |
| 漢方処方人数 | 476 | 1,200 | 1,975 | 2,721 | 6,372 | 5,092 |
| 割合 | 8.4% | 8.4% | 15.1% | 24.1% | 14.4% | 19.2% |
また,「精神および行動の障害」の病名を有する者について,ICD-10分類に基づき「知的障害<精神遅滞>(F70–F79)」,「心理的発達の障害(F80–F89)」,「小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害(F90–F98)」,「広汎性発達障害(F84)」,「多動性障害(F90)」に分類した.各病名について対象期間中の延べ人数および漢方製剤処方人数を算出し,病名別の漢方製剤処方割合を求めた(Table 3).さらに,各病名について処方された漢方製剤を集計し,処方頻度の高い上位10処方を年齢別に整理した(Table 4–9).
| ICD-10分類 | 延べ人数 | 漢方薬処方を受けた延べ人数 | 病名に対する処方割合 |
|---|---|---|---|
| F00–F99 精神および行動の障害 | 44,273 | 6,372 | 14.4% |
| F70–F79 知的障害<精神遅滞> | 1,982 | 121 | 6.1% |
| F80–F89 心理的発達の障害 | 22,183 | 1,611 | 7.3% |
| F84 広汎性発達障害 | 14,760 | 1,232 | 8.3% |
| F84.0 自閉性障害(古典的自閉症) | 2,990 | 215 | 7.2% |
| F84.1 非定型自閉症 | 180 | 8 | 4.4% |
| F84.2 レット症候群 | 8 | 0 | 0.0% |
| F84.3 その他の小児期崩壊性障害 | 0 | 0 | |
| F84.4 特定不能の広汎性発達障害 | 0 | 0 | |
| F84.5 アスペルガー症候群 | 291 | 26 | 8.9% |
| F84.9 広汎性発達障害,詳細不明 | 11,575 | 991 | 8.6% |
| F90–F98 小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害 | 7,885 | 727 | 9.2% |
| F90 多動性障害 | 6,300 | 571 | 9.1% |
| F90.0 注意欠陥多動性障害(ADHD) | 6,048 | 556 | 9.2% |
| F90.1 多動性障害(Hyperkinetic disorder) | 5 | 0 | 0.0% |
| F90.9 多動性障害,詳細不明 | 269 | 15 | 5.6% |
| 0–4歳 | 5–9歳 | |||
|---|---|---|---|---|
| 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 4,303 | 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 9,141 | |
| 漢方製剤を処方された患者数 | 434 (10.1%) | 漢方製剤を処方された患者数 | 989 (10.8%) | |
| 処方された漢方製剤の種類,人数べース(上位10) | 処方の実人数 | 処方された漢方製剤の種類,人数べース(上位10) | 処方の実人数 | |
| ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 150 | ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 325 | |
| ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 133 | ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 179 | |
| ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 29 | ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 93 | |
|
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
28 |
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
89 | |
| ツムラ葛根湯加川きゅう辛夷エキス顆粒(医療用) | 21 | ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 47 | |
| ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 21 | ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用) | 42 | |
| ツムラ麻黄湯エキス顆粒(医療用) | 17 | ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用) | 37 | |
| ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用) | 16 | ツムラ麻黄湯エキス顆粒(医療用) | 32 | |
| ツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用) | 14 | ツムラ麦門冬湯エキス顆粒(医療用) | 27 | |
| ツムラ麻杏甘石湯エキス顆粒(医療用) | 10 | ツムラ葛根湯加川きゅう辛夷エキス顆粒(医療用) | 24 | |
| 10–14歳 | 15–18歳 | |||
|---|---|---|---|---|
| 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 8,594 | 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 7,952 | |
| 漢方製剤を処方された患者数 | 1,656 (19.3%) | 漢方製剤を処方された患者数 | 2,260 (28.4%) | |
| 処方された漢方製剤の種類,人数べース(上位10) | 処方の実人数 | 処方された漢方製剤の種類,人数べース(上位10) | 処方の実人数 | |
| ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 353 | ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 322 | |
| ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 149 | ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用) | 291 | |
| ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 139 | クラシエ半夏厚朴湯エキス錠 | 142 | |
| ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用) | 133 |
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
139 | |
|
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
126 | ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 117 | |
| クラシエ半夏厚朴湯エキス錠 | 93 | ツムラ補中益気湯エキス顆粒(医療用) | 109 | |
| ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 88 |
ツムラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒 (医療用) |
99 | |
| クラシエ五苓散料エキス錠 | 61 | ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 91 | |
| ツムラ苓桂朮甘湯エキス顆粒(医療用) | 54 | ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 90 | |
| ツムラ桂枝加芍薬湯エキス顆粒(医療用) | 49 | ツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用) | 88 | |
| 0–4歳 | 5–9歳 | |||
|---|---|---|---|---|
| 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 280 | 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 529 | |
| 漢方製剤を処方された患者数 | 18 (6.4%) | 漢方製剤を処方された患者数 | 29 (5.5%) | |
|
処方された漢方製剤の種類,人数べース (上位10) |
処方の実人数 |
処方された漢方製剤の種類,人数べース (上位10) |
処方の実人数 | |
| ツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用) | 5 | ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 7 | |
| ツムラ大建中湯エキス顆粒(医療用) | 3 | ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 4 | |
| ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用) | 3 | ツムラ麻黄湯エキス顆粒(医療用) | 3 | |
| ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 2 | ツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用) | 3 | |
|
ツムラ葛根湯加川きゅう辛夷エキス顆粒 (医療用) |
2 |
ツムラ小柴胡湯加桔梗石膏エキス顆粒 (医療用) |
2 | |
| ツムラ麻黄湯エキス顆粒(医療用) | 2 | ツムラ麦門冬湯エキス顆粒(医療用) | 2 | |
| ツムラ十全大補湯エキス顆粒(医療用) | 1 | ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用) | 2 | |
| ツムラ排膿散及湯エキス顆粒(医療用) | 1 |
ツムラ葛根湯加川きゅう辛夷エキス顆粒 (医療用) |
2 | |
| ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 1 |
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
2 | |
| ツムラ桔梗湯エキス顆粒(医療用) | 1 | ツムラ麻杏甘石湯エキス顆粒(医療用) | 1 | |
| 10–14歳 | 15–18歳 | |||
|---|---|---|---|---|
| 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 320 | 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 250 | |
| 漢方製剤を処方された患者数 | 25 (7.8%) | 漢方製剤を処方された患者数 | 23 (9.2%) | |
|
処方された漢方製剤の種類,人数べース (上位10) |
処方の実人数 |
処方された漢方製剤の種類,人数べース (上位10) |
処方の実人数 | |
| ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 5 | ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用) | 3 | |
| ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用) | 3 | ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 3 | |
| ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 3 | ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 2 | |
|
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
3 | ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用) | 2 | |
| ツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用) | 2 | クラシエ十味敗毒湯エキス細粒 | 2 | |
| ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 2 | ツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用) | 2 | |
| コタロー麻黄附子細辛湯エキスカプセル | 1 | ツムラ大建中湯エキス顆粒(医療用) | 2 | |
| ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 1 | クラシエ十味敗毒湯エキス錠 | 2 | |
| ツムラ白虎加人参湯エキス顆粒(医療用) | 1 | クラシエ五苓散料エキス錠 | 1 | |
| クラシエ五苓散料エキス錠 | 1 | クラシエ葛根湯エキス錠T | 1 | |
| 0–4歳 | 5–9歳 | |||
|---|---|---|---|---|
| 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 3,327 | 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 5,835 | |
| 漢方製剤を処方された患者数 | 166 (5.0%) | 漢方製剤を処方された患者数 | 410 (7.0%) | |
|
処方された漢方製剤の種類,人数べース (上位10) |
処方の実人数 |
処方された漢方製剤の種類,人数べース (上位10) |
処方の実人数 | |
| ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 37 | ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 127 | |
| ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 29 | ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 56 | |
| ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 16 | ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 36 | |
|
ツムラ葛根湯加川きゅう辛夷エキス顆粒 (医療用) |
15 |
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
33 | |
| ツムラ麻黄湯エキス顆粒(医療用) | 10 | ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 30 | |
| ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用) | 10 | ツムラ麻黄湯エキス顆粒(医療用) | 24 | |
| ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 8 | ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用) | 24 | |
| ツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用) | 8 | ツムラ麦門冬湯エキス顆粒(医療用) | 18 | |
|
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
7 | ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用) | 14 | |
| ツムラ麻杏甘石湯エキス顆粒(医療用) | 7 | ツムラ桔梗湯エキス顆粒(医療用) | 12 | |
| 10-14歳 | 15-18歳 | |||
|---|---|---|---|---|
| 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 3,665 | 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 1,739 | |
| 漢方製剤を処方された患者数 | 427 (11.7%) | 漢方製剤を処方された患者数 | 295 (17.0%) | |
| 処方された漢方製剤の種類,人数べース(上位10) | 処方の実人数 | 処方された漢方製剤の種類,人数べース(上位10) | 処方の実人数 | |
| ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 104 | ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 39 | |
| ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 32 | ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用) | 27 | |
|
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
29 | ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 18 | |
| ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 29 |
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
17 | |
| ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 26 | ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 16 | |
| クラシエ五苓散料エキス錠 | 21 | ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 13 | |
| ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用) | 18 | ツムラ桂枝加芍薬湯エキス顆粒(医療用) | 13 | |
| ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用) | 15 | クラシエ五苓散料エキス錠 | 13 | |
| クラシエ十味敗毒湯エキス錠 | 14 | クラシエ桂枝加芍薬湯エキス錠 | 12 | |
| クラシエ葛根湯エキス錠T | 13 | クラシエ四物湯エキス錠 | 12 | |
| 0–4歳 | 5–9歳 | |||
|---|---|---|---|---|
| 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 1,501 | 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 3,824 | |
| 漢方製剤を処方された患者数 | 87 (5.8%) | 漢方製剤を処方された患者数 | 294 (7.7%) | |
|
処方された漢方製剤の種類,人数べース (上位10) |
処方の実人数 |
処方された漢方製剤の種類,人数べース (上位10) |
処方の実人数 | |
| ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 18 | ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 91 | |
| ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 18 | ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 39 | |
| ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 8 | ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 27 | |
| ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用) | 7 |
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
25 | |
|
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
6 | ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用) | 17 | |
|
ツムラ葛根湯加川きゅう辛夷エキス顆粒 (医療用) |
5 | ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 14 | |
| ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 5 | ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用) | 12 | |
| ツムラ麻黄湯エキス顆粒(医療用) | 4 | ツムラ麻黄湯エキス顆粒(医療用) | 12 | |
| ツムラ小柴胡湯エキス顆粒(医療用) | 3 | ツムラ麦門冬湯エキス顆粒(医療用) | 12 | |
| ツムラ大柴胡湯エキス顆粒(医療用) | 3 | クラシエ抑肝散加陳皮半夏エキス細粒 | 10 | |
| 10–14歳 | 15–18歳 | |||
|---|---|---|---|---|
| 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 2,806 | 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 1,458 | |
| 漢方製剤を処方された患者数 | 348 (12.4%) | 漢方製剤を処方された患者数 | 258 (17.7%) | |
| 処方された漢方製剤の種類,人数べース(上位10) | 処方の実人数 | 処方された漢方製剤の種類,人数べース(上位10) | 処方の実人数 | |
| ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 88 | ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 35 | |
| ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 27 | ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用) | 18 | |
|
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
25 | ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 15 | |
| ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 23 | ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 14 | |
| ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 21 |
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
14 | |
| ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用) | 16 | ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 13 | |
| ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用) | 13 | クラシエ四物湯エキス錠 | 12 | |
| クラシエ小青竜湯エキス錠 | 13 | クラシエ桂枝加芍薬湯エキス錠 | 12 | |
| クラシエ五苓散料エキス錠 | 12 | ツムラ桂枝加芍薬湯エキス顆粒(医療用) | 11 | |
| クラシエ桂枝加芍薬湯エキス錠 | 12 | ツムラ四物湯エキス顆粒(医療用) | 11 | |
| 0–4歳 | 5–9歳 | |||
|---|---|---|---|---|
| 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 334 | 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 2,101 | |
| 漢方製剤を処方された患者数 | 18 (5.4%) | 漢方製剤を処方された患者数 | 178 (8.5%) | |
| 処方された漢方製剤の種類,人数べース(上位10) | 処方の実人数 | 処方された漢方製剤の種類,人数べース(上位10) | 処方の実人数 | |
| ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 6 | ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 55 | |
| ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 6 |
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
23 | |
| ツムラ麻杏甘石湯エキス顆粒(医療用) | 2 | ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 20 | |
|
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
2 | ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 14 | |
| ツムラ麻黄湯エキス顆粒(医療用) | 2 | ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 10 | |
| ツムラ辛夷清肺湯エキス顆粒(医療用) | 1 |
ツムラ葛根湯加川きゅう辛夷エキス顆粒 (医療用) |
9 | |
| ツムラ紫雲膏 | 1 | ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用) | 6 | |
| ツムラ排膿散及湯エキス顆粒(医療用) | 1 |
ツムラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒 (医療用) |
6 | |
| ツムラ黄耆建中湯エキス顆粒(医療用) | 1 | クラシエ小青竜湯エキス錠 | 5 | |
| コタロー麻黄湯エキス細粒 | 1 | ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用) | 5 | |
| 10–14歳 | 15–18歳 | |||
|---|---|---|---|---|
| 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 2,029 | 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 961 | |
| 漢方製剤を処方された患者数 | 251 (12.4%) | 漢方製剤を処方された患者数 | 177 (18.4%) | |
| 処方された漢方製剤の種類,人数べース(上位10) | 処方の実人数 | 処方された漢方製剤の種類,人数べース(上位10) | 処方の実人数 | |
| ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 58 | ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 27 | |
| ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 23 | ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 18 | |
|
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
20 |
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
10 | |
| ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 16 | クラシエ五苓散料エキス錠 | 8 | |
| ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 15 | ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用) | 7 | |
| ツムラ桂枝加芍薬湯エキス顆粒(医療用) | 11 | ツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用) | 7 | |
| クラシエ葛根湯エキス錠T | 11 | ツムラ加味逍遙散エキス顆粒(医療用) | 7 | |
| ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用) | 8 | クラシエ十味敗毒湯エキス錠 | 6 | |
| クラシエ五苓散料エキス錠 | 7 | ツムラ桔梗湯エキス顆粒(医療用) | 6 | |
|
ツムラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒 (医療用) |
7 | クラシエ桂枝加芍薬湯エキス錠 | 6 | |
| 0–4歳 | 5–9歳 | |||
|---|---|---|---|---|
| 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 157 | 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 1,516 | |
| 漢方製剤を処方された患者数 | 11 (7.0%) | 漢方製剤を処方された患者数 | 124 (8.2%) | |
| 処方された漢方製剤の種類,人数べース(上位10) | 処方の実人数 | 処方された漢方製剤の種類,人数べース(上位10) | 処方の実人数 | |
| ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 6 | ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 33 | |
| ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 4 |
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
17 | |
| ツムラ麻杏甘石湯エキス顆粒(医療用) | 1 | ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 15 | |
|
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
1 | ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 7 | |
| ツムラ紫雲膏 | 1 |
ツムラ葛根湯加川きゅう辛夷エキス顆粒 (医療用) |
7 | |
| ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用) | 6 | |||
| ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 6 | |||
| クラシエ小青竜湯エキス錠 | 5 | |||
| クラシエ抑肝散加陳皮半夏エキス細粒 | 4 | |||
|
ツムラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒 (医療用) |
4 | |||
| 10–14歳 | 15–18歳 | |||
|---|---|---|---|---|
| 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 1,691 | 全患者数(漢方製剤以外の処方を含む) | 825 | |
| 漢方製剤を処方された患者数 | 201 (11.9%) | 漢方製剤を処方された患者数 | 150 (18.2%) | |
| 処方された漢方製剤の種類,人数べース(上位10) | 処方の実人数 | 処方された漢方製剤の種類,人数べース(上位10) | 処方の実人数 | |
| ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 41 | ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) | 22 | |
| ツムラ甘麦大棗湯エキス顆粒(医療用) | 16 | ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 16 | |
| ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用) | 14 | クラシエ五苓散料エキス錠 | 8 | |
| ツムラ小建中湯エキス顆粒(医療用) | 14 | ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用) | 7 | |
|
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
13 | ツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用) | 7 | |
| クラシエ葛根湯エキス錠T | 11 | クラシエ桂枝加芍薬湯エキス錠 | 6 | |
| ツムラ桂枝加芍薬湯エキス顆粒(医療用) | 9 | クラシエ十味敗毒湯エキス錠 | 6 | |
| ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用) | 7 |
ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒 (医療用) |
6 | |
| クラシエ小青竜湯エキス錠 | 7 | ツムラ桔梗湯エキス顆粒(医療用) | 5 | |
| ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用) | 6 | ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用) | 5 | |
本研究は産業医科大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:ER24-052).本研究は既に作成されている匿名化されたレセプトデータを用いた二次解析であるため,個々の患者からのインフォームドコンセントは不要とされた.なお,本原稿の一部については,文法および表現の明確化を目的として生成AIツール(ChatGPT, GPT-5.3)を用いた校正を行った.最終的な内容については著者が確認し,責任を負う.
Table 1に,各年での年齢構成と実人数を示す.本研究に用いた保険者における対象者は,各年とも0–18歳の対象者が約29万人,研究対象期間である3年間で実人数358,347人のデータを得た.
Table 2に,対象者のうち,「精神および行動の障害(ICD10コード:F00–F99)」に該当する病名がある者の年齢階級別の人数を示す.0–18歳までにおいて,延べ882,940人に対して,44,273人(5.0%)が該当した.年齢別では,0–4歳では3.1%,5–9歳では5.7%,10–14歳では5.1%,15–18歳では5.7%であった.
同じくTable 2に,「精神および行動の障害」の病名のある者のうち,漢方製剤の処方がある者の年齢階級別の人数を示す.精神および行動の障害に該当する者のうち,14.4%が漢方製剤を処方されていた.年齢が上がるにつれ,漢方製剤処方割合は増加し,0–4歳では8.4%,5–9歳では8.4%,10–14歳では15.1%,15–18歳では24.1%であった.
Table 3に傷病別の漢方製剤処方の状況を示す.処方割合が多い順では,「小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害(F90–F98)」では9.2%,「注意欠陥多動性障害(F90.0)」も9.2%,「広汎性発達障害(F84)」で8.3%であった.
Table 4からTable 9に,各傷病別に,処方された漢方製剤の上位10位までを年齢別に示す.「精神および行動の障害(F00–F99)」(Table 4)については,全年齢階級において抑肝散の使用が最多であった.次いで15–18歳以外では甘麦大棗湯が使用されていた.15–18歳では,2番目に半夏厚朴湯,3番目に抑肝散加陳皮半夏が多く処方されていた.「知的障害<精神遅滞>(F70–F79)」(Table 5)については,0–4歳以外の年齢階級では実人数が少ないが,抑肝散が比較的多く使用されていた.「心理的発達の障害(F80–F89)」(Table 6)については,抑肝散と甘麦大棗湯が多く使用されていた.また15–18歳においては,17%の患者が漢方製剤の処方を受けていた.15–18歳では,抑肝散,半夏厚朴湯,小建中湯,抑肝散加陳皮半夏の順であった.「広汎性発達障害(F84)」(Table 7)では,抑肝散や甘麦大棗湯が多く使用されていた.「小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害(F90–F98)」(Table 8)では15–18歳では,18.4%の患者が漢方製剤の処方を受けていた.「多動性障害(F90)」(Table 9)においても,15–18歳では,18.2%の患者が漢方製剤の処方を受けており,抑肝散,五苓散が多く使用されていた.
本研究では,レセプトデータを用いた大規模解析により,精神および行動の障害を有する小児における漢方製剤処方の実態を明らかにした.「精神および行動の障害」の病名を有する小児の約14%において漢方製剤が処方されており,処方割合は年齢とともに増加していた.特に15–18歳では約24%が漢方製剤の処方を受けていた.また,処方薬の内訳では,いずれの年齢階級においても抑肝散がもっとも多く,甘麦大棗湯,半夏厚朴湯も多かった.
本研究の結果は,小児精神科領域において漢方製剤が一定の割合で使用されていることを示している.小児の精神・行動障害では,薬物療法に対する副作用への懸念や長期投与への抵抗感が存在することから,補完的治療として漢方製剤が選択される可能性がある.また,年齢とともに処方割合が増加していたことは,思春期における情緒・行動症状の複雑化や,臨床症状に応じた治療選択の多様化を反映している可能性がある.既存研究と比較すると,レセプトデータベースを用いた研究では,全漢方製剤処方の約4%が精神・行動障害(F00–F99)に関連していたと報告されている[13].また,単施設の後方視的研究では,精神科患者の約7%に漢方製剤が処方されていたことが示されている[18].本研究は小児に対象を限定した大規模解析であり,小児精神科領域における漢方製剤処方の実態を明らかにした点に特徴がある.
処方薬の内訳では,抑肝散がすべての年齢層でもっとも多く処方されていた.抑肝散は古くから乳児の「疳の虫」や夜泣きに対して用いられてきた処方であり[19],近年では神経発達症に伴う易刺激性や衝動性に対して使用されることが報告されている[17].薬理学的には,興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の放出抑制,セロトニン1A受容体の刺激による攻撃性の抑制,セロトニン2A受容体の抑制などを介して,神経興奮や攻撃性を抑制する可能性が示されている[19].広汎性発達障害の小児20例に抑肝散を12週間投与した前向きオープンラベル試験で,易刺激性や多動症状の有意な改善が認められた[17].本研究において抑肝散の処方頻度が高かったことは,興奮や衝動性などの症状に対する臨床的有用性が経験的に認識されている可能性を示唆している.
次いで処方頻度が高かった甘麦大棗湯は,不安や情緒不安定に対して用いられる処方であり,突然の泣き出しやパニックなどの症状に対する鎮静効果が期待されている.また,児の体質や併存症状に応じて抑肝散加陳皮半夏や柴胡加竜骨牡蛎湯などが選択されることも報告されている[12, 16].さらに,チック症などでは保護者も同時に服用する「母子同服」のような家族中心の実践が行われることもあり,児および家族のQOL向上に寄与する可能性が指摘されている.
病名別にみると,心理的発達の障害(F80–F89)は小児の精神・行動障害のなかで頻度が高く,そのうち7.3%が漢方製剤の処方を受けていた.その中でも,広汎性発達障害(F84)は頻度が高く,そのうち8.3%が漢方製剤の処方を受けていた.心理的発達の障害(F80–F89)における処方薬の内訳では,全年齢層において抑肝散の処方割合がもっとも高く,次いで甘麦大棗湯,五苓散が処方されていた.また,多動性障害(F90)においても約9%が漢方製剤の処方を受けており,処方薬は抑肝散,甘麦大棗湯,五苓散が多かった.抑肝散は神経の過敏性や情緒不安定を鎮める目的で使用されると考えられる.一方,甘麦大棗湯は不安や突然の泣き出しなどの症状の緩和を目的として使用されることが多い.これらの処方は比較的穏やかな作用を有することから,小児の情緒不安や睡眠問題などに対して臨床現場で用いられている可能性がある.
本研究では,小児の神経発達障害において漢方製剤が日常臨床で処方されている実態が明らかになったが,一方で,漢方製剤の診療ガイドラインでの位置づけやエビデンスには課題がある.特に,小児神経発達障害に対する漢方製剤の有効性を検証した大規模な無作為化比較試験や体系的レビューは限られており,標準治療としての位置づけを明確にするための科学的根拠は十分に蓄積されていない.また,小児の神経発達障害では治療の目標が症状の緩和にとどまらず,日常生活への適応や社会機能の改善も含まれるため,一律のアウトカムを設定することが難しいことも,漢方製剤の効果を評価する上での課題の一つと考えられる.今後は,臨床現場での使用実態を踏まえつつ,より質の高い臨床研究の蓄積が求められる.
本研究の強みとして,第一に,母集団に対する悉皆性がある.本研究は11の保険者データを用いている.そのため,悉皆性が高く,母集団の処方実態を広く反映している点が挙げられる.第二に,本研究はレセプトデータを用いた real-world data に基づく解析であり,臨床試験とは異なり,日常診療における医師の臨床判断に基づく処方実態を反映している.第三に,疾患と個別の漢方製剤の処方パターンを明らかにした点にある.特に抑肝散や甘麦大棗湯の具体的な処方パターンを明らかにした点も本研究の長所である.
一方,Limitationとして,第一に,本研究は保険病名を用いているため,処方と病名が正確に1:1で対応するものではない.また,必ずしも臨床診断を正確に反映しているとは限らない.また,併用されている薬剤については,本研究では分析していないため,漢方製剤同士や,特に漢方製剤以外の薬剤との併用などについて,今後の検討が必要である.第二に,本研究は臨床症状や併存症について考慮できていない.漢方製剤の処方は補完的な治療であることが想定されるため,主となる治療法や,併存症との関連については不明である.第三に,漢方製剤は,製薬企業の違いにより,同名製剤であっても,適用効能,構成生薬および含有生薬比率,剤形,用量が異なるため,注意が必要である.
本研究はレセプトデータを用いた大規模解析により,精神および行動の障害を有する小児における漢方製剤処方の実態を明らかにした.その結果,小児精神科領域において漢方製剤が一定の割合で使用されており,とくに抑肝散や甘麦大棗湯が幅広い年齢層で処方されていることが示された.これらの結果は,漢方製剤が小児の神経発達障害や情緒・行動症状に対する補完的治療として臨床現場で一定の役割を担っている可能性を示唆するものである.今後は,診断や症状,併用薬などの臨床情報を考慮した詳細な解析や,前向き研究・無作為化比較試験などによる有効性および安全性の検証を進めることで,小児精神科領域における漢方製剤の適切な位置づけを明らかにしていくことが期待される.
本研究は,産業医科大学倫理委員会の承認を受けて実施した(ER24-052).本研究は既に作成されている匿名化されたデータを用いるため,患者からのインフォームドコンセントを要さない.
本研究は既に作成されている匿名化されたレセプトデータを用いた二次解析であるため,個々の患者からのインフォームドコンセントを要さない.
概念化:藤野,水城
資金獲得:藤野
調査:藤野,水城,藤本,山本,大久保
監督:藤野,永田
原案執筆:藤野,水城
執筆 – レビューと編集:藤野,水城,藤本,永田,大久保
本研究の実施に当たり,株式会社ツムラ研究開発本部ツムラ先端技術研究所の浅川剛様,和田友様,渡邉悟様から漢方薬に関する専門的な助言を受けた.
本研究は,株式会社ツムラと産業医科大学の共同研究契約に基づいて資金提供を受けた.
本研究は,株式会社ツムラと産業医科大学の共同研究契約に基づいて実施された.
本研究の特性上,収集データの開示は行わないものとする.