抄録
骨盤放線菌症は,その臨床経過が悪性腫瘍と類似しているため,診断に苦慮することが少なくなく,手術によって初めて診断が得られる場合も多い.しかしながら,放線菌症に対する治療の基本は大量のペニシリン投与であり,外科的治療が必要でないことも多いため正確な診断が必要とされる.今回,骨盤放線菌症を保存的に治療し得た1例を経験したので報告する.症例は53歳,1経妊1経産.20年前より子宮内避妊具(IUD)を留置していた.下腹部痛と体重減少を主訴に受診した.内診にて右付属器に圧痛があり,傍結合組織に硬結を触知した.血液検査にて白血球増多,貧血,CRP高値を認めた.子宮頸部および内膜の細胞診にて悪性所見を認めなかった.CT,MRIにて右付属器に周囲が強く造影される多胞性嚢胞性腫瘤があり,直腸壁の肥厚と右水腎症を伴っていた.IUDを抜去し,周辺に付着した組織片のグラム染色にて放線菌様の菌体を認めた.骨盤放線菌症を疑いペニシリン投与を開始したところ腫瘤の縮小を認めた.ペニシリン1カ月間投与後,アモキシシリンを半年間継続し,骨盤内病変の消失を確認した.治療終了後1年経過し,再燃を認めていない.〔産婦の進歩65(2):133-138,2013(平成25年5月)〕