産婦人科の進歩
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症例報告
帝王切開術後に発症し,摘出子宮で子宮型羊水塞栓症と診断し得た1例
小谷 知紘堀 謙輔安藤 亮介中塚 伸一渡邉 均七堂 志津香田島 里奈伊藤 公彦
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2018 年 70 巻 1 号 p. 24-30

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抄録

症例は30歳の初産婦である.顕微授精にて妊娠成立し,妊娠経過に特記すべき異常は認めなかった.39週時の恥坐骨骨折による開排困難のため,40週3日に帝王切開術を実施した.術直後より性器出血が増加し,帰室時して術後1.4時間後までの総出血量は2959mlに達した.緊急に子宮動脈塞栓術を実施するも非凝固性の出血は持続し,DICの病態を呈したため,臨床的羊水塞栓症と診断し,同日に単純子宮全摘出術を実施した.術中出血は2468mlであった.翌日,貧血の進行と腹腔内圧の上昇を認め,造影CTで左付属器領域での造影剤の血管外漏出を認めたため,術後腹腔内出血の診断にて,緊急開腹止血術を実施した.術中出血は4219mlであった.創は開放創とし,ICU内で鎮静のうえ,挿管管理のまま腹腔内ガーゼ充填および持続陰圧吸引にて術後管理を行った.その後の経過は良好で,術後2日目に創閉鎖を実施した.術後3日目にイレウス症状を認めたが,保存的加療にて改善した.帝王切開から術後35日目に退院となった.総輸血量は,赤血球濃厚液36単位,新鮮凍結血漿90単位,血小板製剤90単位であった.母体血清中のZnCP-1およびSTN値はともに基準値内であったが,摘出子宮組織のC5a受容体染色で子宮頸部および体部の間質に多数の陽性細胞を認め,アナフィラキシー様反応が発生したことが示唆されたことと,ZnCP-1染色で血管内に一部陽性像を認め,羊水の子宮血管への流入が示唆されたことより,金山らが唱える子宮型羊水塞栓症と診断した.本症例は,帝王切開術後に大量出血を認め,臨床的羊水塞栓症の診断基準を満たしたことで本疾患を疑い,早期から集学的治療を行うことで後遺症なく救命し得た1例であった.分娩後の大量出血を認めた際は常に本疾患を念頭に置き,早期の臨床診断に基づいた集学的な治療介入が重要である.〔産婦の進歩70(1):24-30,2018(平成30年2月)〕

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© 2018 近畿産科婦人科学会
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