産婦人科の進歩
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原著
当科で経験した卵巣子宮内膜症性嚢胞関連卵巣癌の3症例と文献的考察
城 玲央奈村上 幸祐甲斐 冴高矢 寿光中井 英勝辻 勲松村 謙臣
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2019 年 71 巻 3 号 p. 237-246

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抄録

本邦では,卵巣子宮内膜症性嚢胞(以下,内膜症性嚢胞)から明細胞癌に代表される内膜症関連卵巣癌が発生するリスクを念頭に置いた管理が行われている.「内膜症性嚢胞の癌化」に関して,内膜症性嚢胞と診断されてから卵巣癌と診断されるまでの経過を多数例で追跡し検討した報告は少ない.本研究では,内膜症性嚢胞と診断されてから卵巣癌と診断されるまでの経過を追跡できる当院の症例,および過去の文献から症例報告を抽出し,内膜症性嚢胞と卵巣癌の発生の関係性について調べることを目的とした.内膜症性嚢胞と診断されてから卵巣癌と診断されるまでの経過を追跡できた症例は,当院の症例3例,文献の症例51例の54症例であった.発癌は40歳代がもっとも多く,また嚢胞径も癌診断時のほうが有意に大きかった.内膜症性嚢胞と思われる病変が確認されてから,卵巣癌と診断されるまでの期間の中央値は36カ月であった.約75%の症例が5年以内に発癌しており,全例が10年以内に発癌していた.嚢胞のフォロー開始から比較的早期に発癌した症例が多く,年数の経過とともに減少する傾向がみられた.「内膜症性嚢胞の癌化」の原因として提唱されている仮説に基づけば,暴露期間が長くなるほど発癌率は上昇していくはずである.また,一般的に腺癌が発生してから画像で検出可能なサイズになるまでは5年以上かかることが知られており,今回の検討で得られた結果と矛盾する.内膜症性嚢胞を有する患者に発症した卵巣癌の発生機序に関しては,今後さらに検討が必要であるとともに,内膜症の癌化に関する本邦発の質の高いエビデンスを構築し,内膜症性嚢胞の管理方針をつくる必要がある.〔産婦の進歩71(3):237-246,2019(令和元年8月)〕

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© 2019 近畿産科婦人科学会
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