2021 年 73 巻 3 号 p. 265-270
妊娠に伴う一過性の尿崩症を呈する例は30,000出生に1とされており,その臨床症状は低張性多尿症と多飲症を特徴とする.今回われわれは,重症妊娠高血圧腎症を併発した妊娠一過性尿崩症の1例を経験したので報告する.症例は27歳,1妊0産であり,自然妊娠成立し前医で妊婦健診を受けていた.妊娠37週4日,胃部不快感および皮膚掻痒感を認め,前医を受診した.血液検査で肝機能異常と腎機能異常を認め当院へ搬送となった.搬送時は血圧上昇なく,肝機能異常および重度の腎機能異常のため同日緊急帝王切開術とした.術後より血圧上昇を認め,重症妊娠高血圧腎症と診断した.術後1時間より400 ml/時の排尿を認め,術後1日目の尿量は9100 ml/日と多尿を認め,多飲を認めたため,妊娠一過性尿崩症と診断した.以後,輸液加療を行い,尿量は減少し術後13日目に母児共に退院となった.妊娠高血圧腎症は腎機能障害を伴うため尿量が減少することが多いが,本症例のように多尿を認めた場合は,尿崩症を念頭に置いた管理が必要である.〔産婦の進歩73(3):265-270,2021(令和3年8月)〕