産婦人科の進歩
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症例報告
妊娠8カ月に発症した子宮周囲血管破綻による腹腔内出血(SHiP)の2例
西川 実沙堀江 清繁山脇 愛香成瀬 勝彦川口 龍二
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2022 年 74 巻 3 号 p. 376-382

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抄録

SHiP(spontaneous hemoperitoneum in pregnancy)は,妊娠中に非外傷性の腹腔内出血をきたす疾患であり,発症頻度は少ないが,母児共に重篤な結果をもたらす可能性が高い.そのため,妊婦の急性腹症を診る際には鑑別に挙げるべき疾患の1つである.今回われわれは,妊娠8カ月にSHiPを発症した2例を経験したので報告する.症例1は30代の初産婦であり,近医に切迫早産で入院していたが,妊娠29週4日に下腹部痛が出現し子宮収縮が抑制困難となったため母体搬送となった.徐々に下腹部痛は増強し,MRI検査で急性虫垂炎を疑う所見を認めた.試験的腹腔鏡検査を行ったが,腹腔内には多量の凝血塊が貯留していたため,開腹手術へ移行した.子宮底部右側から右卵巣堤索にかけて静脈が怒張し,子宮前壁と右卵巣堤索から静脈性の出血を認めた.圧迫と組織接着剤で止血を行い,児の状態が安定していたため妊娠継続し,妊娠35週6日に経腟分娩に至った.児は以後も順調に発育している.症例2は30代の1経産婦であり,子宮筋腫合併妊娠のため当院で妊婦健診を受けていたが,妊娠30週5日に突然の腹痛と嘔吐で時間外受診となった.超音波と胎児心拍数陣痛図で繰り返し精査したが異常を認めず,原因の究明には至らなかった.しかし,入院から9時間後,突然母体の意識レベルが低下し,胎児心拍が50 bpmと低下したまま回復せず全身麻酔下に超緊急帝王切開術を行った.腹腔内には多量の血性腹水が貯留し,児を娩出後,出血源を検索すると子宮右背側に形成された動脈瘤の破綻を認めた.動脈瘤の近傍には子宮筋腫を認めた.出血部位は結紮により止血を行い,児は速やかに新生児科医師により蘇生処置が行われ,新生児集中治療室に入院となった.妊婦の急性腹症の原因を検索する際に,SHiPを念頭に置くことが,検査および治療の介入につながり,母児の予後改善につながることが期待できる.〔産婦の進歩74(3):376-382,2022(令和4年8月)〕

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