産婦人科の進歩
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74 巻, 3 号
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研究
原著
  • 武藤 はる香, 山枡 誠一, 犬飼 加奈, 新堂 真利子, 石田 絵美, 島田 勝子, 楠本 裕紀
    2022 年 74 巻 3 号 p. 295-300
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    若年妊婦における子宮頸部細胞診異常の頻度と異常症例の経過を明らかにすることを目的として,後方視的に検討を行った.2013年7月から6年間に,子宮内妊娠を確認して妊娠継続の方針で管理した妊婦で,初診時に21歳未満であったものを対象として妊娠判明後の子宮頸部細胞診結果を調査し,異常症例についてはその後の経過を確認した.解析対象となった336例中,細胞診異常症例は17例(5.1%)で,ASC-US 13例(3.9%),LSIL 3例(0.9%),HSIL 1例であった.LSIL以上はすべて19-20歳であったが,ASC-USには14歳の症例も含まれていた.ASC-USのうち11例でHPV検査が施行され,8例で陽性であった.妊娠終了後に再検をされた12例中5例で異常を認めたが,早期に円錐切除を必要とした症例はなかった.妊娠中に細胞診異常を認めた症例のうち4例が受診途絶となり,産後のフォローが途絶えていた.若年妊婦における細胞診異常の頻度は約5%であった.妊娠終了後にも約半数で継続して異常を認めた.〔産婦の進歩74(3):295-300,2022(令和4年8月)〕

  • 舟木 馨, 谷 杏奈, 佐々木 紘子, 丸尾 猛, 川上 ちひろ
    2022 年 74 巻 3 号 p. 301-308
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    過多月経を呈する患者に対してマイクロ波子宮内膜焼灼(MEA)治療とlevonorgestrel-releasing intrauterine system(LNG-IUS)治療を比較し,適応症例の選択や治療効果について検討した.MEA治療を行った14例とLNG-IUSを初回挿入した98例を対象とした.アンケートは治療前,治療後1,3,6カ月,1,2,3,4,5年に行い,自覚症状の推移をみた.LNG-IUS挿入後の自然脱落に関してはカルテから情報を収集した.全般的な自覚症状は両群とも治療前に比較して治療後に有意な改善がみられた.1年目までの比較では,両群間で統計学的有意差はみられなかった.月経量,疲労感は,両群ともに治療前に比較して有意に改善した.月経持続日数はMEA群では治療後に改善を認めた.圧迫症状はLNG-IUS群で治療前に比較して有意に改善した.月経周期,不正性器出血は,両群ともに治療前後で有意な変化はみられなかった.治療開始前の疼痛スコアはMEA群に比較してLNG-IUS群で高い傾向であったが,両群とも治療後速やかに低下した.1年後までの検討では2群間で統計学的な差は認めなかった.LNG-IUSの自然脱出は,1年目までで約18%,2-5年目までそれぞれ23%,27%,29%,32%であった.子宮病変のない群では3カ月以後の自然脱落例はなかった.自然脱落例の大多数は子宮筋腫や子宮腺筋症合併例で,これらの子宮病変合併例では数年後に脱落する例が散見された.MEA,LNG-IUSは,ともに過多月経に対して低侵襲で有効な治療法であり,過多月経に過長月経を伴う症例にはMEAを,過多月経に圧迫症状を伴う症例にはLNG-IUSを選択するのが望ましいことが示唆された.それぞれの治療法の特徴を熟知して対応すれば女性のQOL向上に大きく寄与すると考えられる.〔産婦の進歩74(3):301-308,2022(令和4年8月)〕

  • 太田 早希, 寄木 香織, 志村 光揮, 垂水 洋輔, 片岡 恒, 古株 哲也, 森 泰輔, 北脇 城
    2022 年 74 巻 3 号 p. 309-317
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    漿液粘液性卵巣腫瘍(seromucinous tumor)は,2014年のWHO分類第4版で新たに設けられた組織学的分類である.歴史が浅いことから,臨床上の取り扱いについてはあまり知られていない.本研究では,漿液粘液性卵巣腫瘍の臨床病理学的特徴を明らかにすることを目的とし,当院で2015年から2019年の間に手術を実施し,漿液粘液性卵巣腫瘍と診断された症例を対象に後方視的に検討した.対象症例は12例で,そのうち境界悪性腫瘍が11例(91.7%)で同期間の境界悪性腫瘍全体の26.8%を占めていた.悪性腫瘍は1例(8.3%)のみで同期間の悪性腫瘍全体の1.1%であった.良性腫瘍の症例はなかった.年齢の中央値は44.5歳(23-71歳)と若年者が多く,未経産6例(50.0%)であった.MRI所見では10例(83.3%)で囊胞内に乳頭状の壁在結節を伴い,壁在結節はT2強調像で高信号を呈しADC mapで拡散低下を認めなかった.6例(50.0%)で背景に子宮内膜症性病変を認め,そのうち3例では術前にホルモン療法を実施していた.進行期についてはIA期7例,IC1期4例,IC2期1例であった.観察期間の中央値は24.5カ月(10-67カ月)で,全例術後に再発を認めず経過していた.40歳未満の5例では全て妊孕性温存手術を選択しており,そのうち1例が術後に妊娠,分娩に至った.漿液粘液性卵巣腫瘍は背景に子宮内膜症を合併することが多く,卵巣子宮内膜症性囊胞との鑑別が重要である.また,予後良好なI期の境界悪性腫瘍が多いことから,若年者には妊孕性温存手術が選択肢となり得る.〔産婦の進歩74(3):309-317,2022(令和4年8月)〕

  • 安井 友紀, 田中 絢香, 岡藤 博, 八田 幸治, 高山 敬範, 潮田 至央, 橋本 奈美子
    2022 年 74 巻 3 号 p. 318-323
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    腹腔鏡下子宮筋腫核出術(LM)は,妊孕性温存を目的とした低侵襲手術であり,近年需要が高まっている.当院のLM後妊娠の周産期予後につき後方視的検討を行った.2015年1月~2019年12月の期間において,当院で管理したLM後妊娠のうち,妊娠37-38週で選択的帝王切開術を行った37例(LM群)を対象とした.同時期に当院で実施した帝王切開術378例のうち,同様に妊娠37-38週で選択的帝王切開術を行った子宮手術の既往がない骨盤位帝王切開群(NS群)32例,既往帝王切開群(RCS群)82例と比較検討を行った.分娩時母体年齢に関してLM群が中央値36歳とNS群に比べ有意に上昇していた(P=0.01).子宮筋腫合併例はLM群が9例(24.3%)とRCS群に比べ有意に多かった(P<0.001).手術時間はRCS群が中央値69分と他2群に比べ有意に延長していた(vs NS,P=0.0014,vs LM,P<0.001).術中出血量の中央値はNS群753 mL,RCS群704 mL,LM群810 mLであり,LM群がRCS群と比較して有意な増加を認めた(P=0.04).新生児体重やApgar score5分値,臍帯動脈血液ガス測定値について各群間で有意差を認めなかった.LM後の帝王切開術は術中出血量が増加するリスクが示唆された.LM後妊娠では帝王切開時に出血多量となる可能性を念頭に置き,慎重な周術期管理が必要と考えられる.〔産婦の進歩74(3):318-323,2022(令和4年8月〕

  • 下仲 慎平, 住友 理浩, 門元 辰樹, 酒井 美恵, 小原 勉, 鈴木 悠, 山ノ井 康二, 松村 謙臣
    2022 年 74 巻 3 号 p. 324-329
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    卵巣癌は腹腔内臓器や腹膜への播種を伴うことが多く,化学療法を含め集学的治療が重要である.腹腔内病変の制御に対し腹腔内化学療法の有用性は示されてきたが,毒性やその手技の煩雑さから一般的な治療法とはなっていない.今回われわれは,2001-2015年までに当院で初回治療が開始された上皮性卵巣癌症例42例のうち,2期以上で腹腔内化学療法を施行した23例を対象として,後方視的に腹腔内化学療法の有効性を検討した.腹腔内化学療法について,カルボプラチンはCalvertの式でarea under the blood concentration-time curve 6となる量を基本量として腹腔内投与を,パクリタキセルは175[mg]/体表面積[m2]を基本量として経静脈投与を行っていた.手術および腹腔内化学療法を含めた初回治療終了時の治療効果は,パクリタキセルに対するアナフィラキシーショックで死亡した1例を除き,complete response(CR)17例(77%),partial response(PR)1例(5%),progression disease(PD)4例(18%)であった.CR17例のうち,7例は無再発生存,10例が再発した.10例の再発症例のうち腹腔内再発は5例,リンパ節再発または遠隔転移のみで腹腔内に再発を認めなかった症例は5例であった.3年progression free survival(PFS)は48%で,中央値は37カ月であった.副作用について,grade3以上の好中球減少が12例(52%),カテーテル閉塞が3例(13%),腹痛が3例(13%),前述のアナフィラキシーショックが1例(4%)認められた.本研究では,比較的良好なPFSや腹腔内病変の制御率を認めたものの,有害事象の点からは,今後腹腔内化学療法には非常に慎重な検討が必要である.〔産婦の進歩74(3):324-329,2022(令和4年8月)〕

  • 味村 史穂, 辻 芳之, 星野 達二, 森 龍雄, 衣笠 万里
    2022 年 74 巻 3 号 p. 330-337
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    マイクロ波子宮内膜焼灼術(microwave endometrial ablation;MEA)は,子宮全摘を行わず低侵襲かつ簡便に過多月経を治療できる方法であり,今後もさらなる普及が予想される.MEA未経験の産婦人科専攻医が指導医のもとに,MEAを執刀した18例について技術習得をするうえでの経験をまとめた.X年1月よりX年12月までの1年間に子宮筋腫,子宮腺筋症,子宮内膜増殖症などで過多月経,貧血に悩みながらも子宮摘出を望まない患者15例と,それ以外に重篤な性器出血のため緊急止血のためMEAを行った3症例(透析患者,平滑筋肉腫,巨大な粘膜下筋腫による高度貧血)を加えた.機器はアルフレッド社AFM-713を用いた.通常の過多月経15例と緊急処置的MEAを必要とした3例とも全てで合併症なく過多月経も貧血もコントロールできた.MEA技術を習得するうえでいくつかのポイントが明らかとなった.その1つは,卵管口付近の子宮内膜を完全に焼灼することが難しく子宮鏡を用いて卵管口の方向を子宮外から推定することや,サウンディングアプリケーターのひねりを効かせて卵管角に軽く押し込むなどの工夫を要することが明らかとなった.また子宮が小さい症例ではMEA術後の疼痛が強く,鎮痛剤の追加を必要とする場合が多いことがわかった.MEAの技術を習得する過程でMEA未経験の医師が行った工夫についてまとめた.〔産婦の進歩74(3):330-337,2022(令和4年8月)〕

症例報告
  • 小川 史子, 奥野 雅代, 竹内 健人, 武木田 茂樹
    2022 年 74 巻 3 号 p. 338-342
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    劇症1型糖尿病はまれな疾患であるが,突然糖尿病性ケトアシドーシスを発症する重篤な疾患である.今回われわれは,妊娠中発症と分娩後発症の劇症1型糖尿病の2症例を経験したので報告する.症例1:30歳,1妊0産,妊娠経過に異常を認めなかった.妊娠36週2日,胎動減少で前医を受診したところ,胎児機能不全を認め緊急帝王切開が施行された.児は蘇生処置が行われたが死産となった.術後1日目に呼吸困難感を訴え当院に救急搬送された.検査所見で,高血糖(688 mg/dL),アシドーシス(動脈血液ガス:pH 6.971),ケトーシス(尿中ケトン体:4+)を認め,糖尿病性ケトアシドーシスと診断された.治療開始5日目にアシドーシスは正常化し,21日目に尿中ケトン体は陰性化した.症例2:42歳,4妊1産,妊娠・分娩経過に異常を認めず,経腟分娩された.分娩後経過も異常を認めず,産後5日目に退院となったが,産後7日目に口渇を訴えて来院された.検査所見で,高血糖(890 mg/dL),アシドーシス(動脈血液ガス:pH 7.130),ケトーシス(尿中ケトン体:2+)を認め,糖尿病性ケトアシドーシスと診断された.治療開始1日目にアシドーシスは正常化し,2日目に尿中ケトン体は陰性化した.2症例ともに発症時HbA1cは正常値で,発症時血清Cペプチド<0.05 ng/mL,グルカゴン負荷後血清Cペプチド<0.1 ng/mLとインスリンが枯渇しており,妊娠関連の劇症1型糖尿病と診断された.劇症1型糖尿病は妊娠中のみならず,産後発症があることを念頭に日常診療にあたることが重要である.〔産婦の進歩74(3):338-342,2022(令和4年8月)〕

  • 加嶋 洋子, 稲垣 美恵子, 北口 智美, 嶋村 卓人, 北井 沙和, 城 道久, 大木 規義, 吉田 茂樹
    2022 年 74 巻 3 号 p. 343-350
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    腹腔鏡下子宮全摘出術(total laparoscopic hysterectomy;TLH)は開腹手術に比べて侵襲が少なく,審美性に優れ出血量が少なく,さらに入院期間も短いため近年普及してきている.TLHでは,腹式子宮全摘出術と比較して尿管損傷の頻度が有意に高いと認識されている.今回,術前静脈性腎盂造影検査(drip infusion pyelography;DIP)で重複腎盂尿管であった症例に対し,術中に尿管ステントを留置し,TLHを安全に施行できた2例を経験したので報告する.症例1は49歳女性.子宮筋腫,過多月経,筋腫の増大のため当院に紹介受診となった.妊娠分娩歴は1妊1産(1回帝王切開).術前DIPで左尿管は2本あり,腸骨レベルで融合し以下は1本になっていたことより,左不完全重複尿管を疑い,尿管ステントを留置し手術を施行した.膀胱鏡で左右尿管口が1個ずつであることより,左不完全重複尿管と診断した.症例2は45歳女性.過多月経,貧血を主訴に前医を受診し,子宮筋腫の診断で手術加療目的に当院に紹介受診,GnRHアゴニスト5コース施行後手術の方針となった.妊娠分娩歴は3妊3産(3回帝王切開).術前DIP検査で両側完全重複尿管を疑い,術中に尿管ステントを留置し手術を施行した.2症例とも尿管ステント抜去後にインジゴカルミンを静脈投与し,膀胱鏡で膀胱損傷のないことおよび全尿管口から青色着色尿の流出を確認した.尿管損傷など合併症なく手術を終了している.尿路奇形が存在する場合,解剖学的な誤認から尿管損傷など重大な合併症につながる可能性があるため注意が必要であるが,術前DIP検査や術中膀胱鏡による尿路奇形の探索および尿管ステント留置が合併症回避に有用であると考えたため若干の文献的考察を含め報告する.〔産婦の進歩74(3):343-350,2022年(令和4年8月)〕

  • 飯藤 宰士, 藤田 太輔, 古形 祐平, 寺田 信一, 田中 良道, 田中 智人, 恒遠 啓示, 山田 隆司, 大道 正英
    2022 年 74 巻 3 号 p. 351-359
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    今回われわれは,手術を機会に腹腔内に播種したと考えられた肝臓子宮内膜症の1例を経験したので報告する.症例は42歳,未妊,前医で39歳時に両側卵巣子宮内膜症性囊胞に対して腹腔鏡下左付属摘出+右卵巣内膜症性囊胞摘出術を実施された後に経過観察されていた.また,手術に至るまでに上腹部の症状は認めず,手術時に腹腔内を観察されたが上腹部に異常所見は認めなかった.2年後,月経困難症の増悪とともに月経時の周期的な右上腹部痛が出現したため腹部骨盤造影MRI(magnetic resonance imaging)を撮影したところ,右上腹部痛に一致するように肝囊胞性病変を認めたため,GnRHアゴニスト(リュープリン3.75 mg)投与後にジエノゲスト内服で治療を開始した.GnRHアゴニスト(リュープリン3.75 mg)投与開始後撮影したMRIで病変の縮小を認め,右上腹部痛も軽減した.以上のことから肝臓子宮内膜症と考えられた.ジエノゲストを2カ月間内服後,月経困難症が増悪したため当院でGnRHアゴニスト(リュープリン3.75 mg)を追加投与後,手術に至った.術式は腹腔鏡下肝臓右葉部分切除+子宮全摘出+右付属器摘出術を実施した.術後経過も問題なく退院となった.術後の病理診断で右付属器周囲に異所性子宮内膜組織を認めたが,摘出した肝被膜囊胞からは異所性子宮内膜組織は認めなかった.GnRHアゴニスト(リュープリン3.75 mg)の治療が奏効したこと,右付属器周囲に異所性子宮内膜組織を認め,子宮内膜症既往手術歴があり,肝囊胞を開窓した際にチョコレート様の暗赤色の排液を認めたことより子宮内膜症が肝臓へ播種して発生した肝臓子宮内膜症と判断した.現在のところ更年期症状や再発症状も出現なく経過している.〔産婦の進歩74(3):351-359,2022(令和4年8月)〕

  • 日野 友紀子, 永井 景, 松浦 美幸, 重光 愛子, 佐々木 高綱, 山田 嘉彦
    2022 年 74 巻 3 号 p. 360-365
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    Bevacizumab(以下Bev)には腫瘍における微小血管の退縮と血管新生の抑制による抗腫瘍効果や,腫瘍組織で亢進した血管透過性を改善し,間質圧を低下させることで薬物の移行性が高まることによる併用薬剤の増強作用があるとされている.一方,その副作用としては頻度の高いものとして,高血圧や蛋白尿の他に消化管・肺・粘膜からの出血や創傷治癒遅延などが報告されている.weekly paclitaxel(以下wPTX)+Bev療法中に下腸間膜動脈に形成した仮性動脈瘤が破綻して結腸と交通し大量の下血を起こしてショック状態になった症例を経験したので報告する.症例は39歳,0妊0産,未婚女性,卵巣漿液性癌IIIc期であった.初回計7サイクルのdocetaxel+carboplatin療法とinterval debulking surgeryとして単純子宮全摘術,両側付属器切除術,骨盤・傍大動脈リンパ節郭清および,大網部分切除を実施し,complete surgeryを達成した.初回治療終了から7カ月でリンパ節と肺野に再発したため,各種抗癌剤治療を実施し,担癌状態で初回治療から5年が経過した.その後,wPTX+Bev療法を開始した.4サイクル目day15,大量の下血をきたし転倒,ショック状態であった.造影CT検査にて下腸間膜動脈形成された仮性動脈瘤が腫瘍を介して結腸表面に接しており,破綻したために,結腸内に持続的に出血していることが判明した.腫瘍は縮小しており,治療効果を認めていた.左結腸動脈分岐より末梢から下腸間膜動脈の動脈瘤より中枢をマイクロコイルで塞栓し止血した.Bev投与中の仮性動脈瘤の破綻による大量出血はまれだが,進行した病変を有する症例に投与する際には注意すべき病態であることが示唆された.止血方法としてはIVRが有用であると考えられた.〔産婦の進歩74(3):360-365,2022(令和4年8月)〕

  • 駿河 まどか, 川村 直樹, 村上 誠, 川西 勝, 徳山 治, 中村 博昭, 井上 健, 高濱 誠, 保本 卓
    2022 年 74 巻 3 号 p. 366-375
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    良性転移性平滑筋腫(benign metastasizing leiomyoma;BML)は,病理組織学的に良性の子宮平滑筋腫が肺などに遠隔転移をきたすまれな病態である.今回,子宮筋腫術後7年目に多発肺転移をきたし病理学的にBMLと診断されたが,緩徐ながら増大し肺静脈内への伸展も認められたため集学的治療を要した症例を経験したので報告する.症例は71歳女性,2妊2産.63歳時に他院にて子宮筋腫の診断で腹式子宮全摘出術および両側付属器摘出術を受け,病理組織診断は平滑筋腫で悪性所見は認めなかった.70歳時に多発肺腫瘤を指摘され,診断確定目的で主席腫瘤に対して胸腔鏡下左肺部分切除術を実施した.病理組織診断は平滑筋腫でPET/CTにてもFDGの集積もみられないことからBMLと考えられた.その後残存肺腫瘍に対し無治療で経過観察していたが,閉経後の低エストロゲン環境下でありながら増大傾向を示し悪性(低悪性度)の可能性も否定できないため,74歳時に経皮的ラジオ波焼灼療法および強度変調放射線治療を施行した.その後77歳時の造影CTで肺転移病変の左上肺静脈内伸展が指摘され,docetaxel+gemcitabine併用療法4サイクル施行したが,縮小効果が得られず肺静脈・左心房閉鎖による急変の可能性が危惧された.多発肺転移は増大傾向ではあるが緩徐であり,左上肺静脈に伸展した腫瘤が摘出されれば年単位の予後が期待できるため,当院呼吸器外科で左上葉切除術および左上肺静脈形成術を施行した.摘出標本の病理組織診断は平滑筋腫で,明らかな悪性所見を認めず静脈内平滑筋腫症(intravenous leiomyomatosis;IVL)と考えられた.現在も肺転移病変に対して慎重に経過観察中である.BMLは病理組織学的には良性とされているが,本例は肺転移だけでなく静脈内伸展等悪性腫瘍に類似した経過を複数認めており,臨床的には悪性または悪性化のポテンシャルを有する平滑筋腫瘍として慎重に対応すべきものと考えられた.〔産婦の進歩74(3):366-375,2022(令和4年8月)〕

  • 西川 実沙, 堀江 清繁, 山脇 愛香, 成瀬 勝彦, 川口 龍二
    2022 年 74 巻 3 号 p. 376-382
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    SHiP(spontaneous hemoperitoneum in pregnancy)は,妊娠中に非外傷性の腹腔内出血をきたす疾患であり,発症頻度は少ないが,母児共に重篤な結果をもたらす可能性が高い.そのため,妊婦の急性腹症を診る際には鑑別に挙げるべき疾患の1つである.今回われわれは,妊娠8カ月にSHiPを発症した2例を経験したので報告する.症例1は30代の初産婦であり,近医に切迫早産で入院していたが,妊娠29週4日に下腹部痛が出現し子宮収縮が抑制困難となったため母体搬送となった.徐々に下腹部痛は増強し,MRI検査で急性虫垂炎を疑う所見を認めた.試験的腹腔鏡検査を行ったが,腹腔内には多量の凝血塊が貯留していたため,開腹手術へ移行した.子宮底部右側から右卵巣堤索にかけて静脈が怒張し,子宮前壁と右卵巣堤索から静脈性の出血を認めた.圧迫と組織接着剤で止血を行い,児の状態が安定していたため妊娠継続し,妊娠35週6日に経腟分娩に至った.児は以後も順調に発育している.症例2は30代の1経産婦であり,子宮筋腫合併妊娠のため当院で妊婦健診を受けていたが,妊娠30週5日に突然の腹痛と嘔吐で時間外受診となった.超音波と胎児心拍数陣痛図で繰り返し精査したが異常を認めず,原因の究明には至らなかった.しかし,入院から9時間後,突然母体の意識レベルが低下し,胎児心拍が50 bpmと低下したまま回復せず全身麻酔下に超緊急帝王切開術を行った.腹腔内には多量の血性腹水が貯留し,児を娩出後,出血源を検索すると子宮右背側に形成された動脈瘤の破綻を認めた.動脈瘤の近傍には子宮筋腫を認めた.出血部位は結紮により止血を行い,児は速やかに新生児科医師により蘇生処置が行われ,新生児集中治療室に入院となった.妊婦の急性腹症の原因を検索する際に,SHiPを念頭に置くことが,検査および治療の介入につながり,母児の予後改善につながることが期待できる.〔産婦の進歩74(3):376-382,2022(令和4年8月)〕

  • 田村 紗也, 北野 照, 上田 匡, 江本 郁子, 天野 泰彰, 宇治田 麻里, 小田垣 孝雄, 安彦 郁
    2022 年 74 巻 3 号 p. 383-390
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    子宮体癌に対し免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor;ICI)のpembrolizumab投与中にCOVID-19に感染し,全身症状が遷延した1例を経験したので報告する.症例は48歳2妊2産,前医で子宮頸癌ⅣB期と診断され化学療法施行後に再発した.当科へ転院後,手術を施行した.体下部を主座とし頸部へ浸潤する明細胞癌と類内膜癌の混合癌であり,子宮体癌ⅣB期と診断した.術後化学療法を施行したが,増悪した.microsatellite instability検査陽性のためpembrolizumabを投与したところ完全奏効となった.Pembrolizumab 20サイクルday15に上気道炎症状と発熱を認め,PCR検査によりCOVID-19感染と診断された.微熱が持続した後,pembrolizumab 20サイクルday48に40℃以上の発熱と全身のリンパ節腫大を自覚した.Pembrolizumabの副作用や腫瘍の再発を疑ったが,COVID-19 PCR検査が陽性であり,入院となった.造影CTで両肺底部胸膜下に線状影,両肺上葉主体に多発性にスリガラス陰影と粒状影,頸部リンパ節腫大を認めた.ICIによる免疫賦活状態がCOVID-19の症状の遷延をきたしたと考え,dexamethasoneを投与した.速やかに解熱し,入院10日目に退院となった.退院後のCTでリンパ節は縮小していた.pembrolizumab投与を再開し,以後症状の再燃や子宮体癌の増悪なく経過している.COVID-19肺炎の本態はウイルス感染を契機とした免疫による肺胞傷害であるとされているが,ICI投与は免疫細胞の活性化をきたすことから肺炎を増悪させる可能性がある.ICI投与患者にCOVID-19肺炎が判明した場合はステロイド投与が有効である可能性が示唆された.〔産婦の進歩74巻(3):383-390,2022(令和4年8月)〕

  • 奥 楓, 吉田 彩, 中川 冴, 神谷 亮雄, 辻 祥子, 角 玄一郎, 北 正人, 岡田 英孝
    2022 年 74 巻 3 号 p. 391-398
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,不妊治療の一環として子宮腺筋症核出術が増加している.子宮腺筋症核出術後妊娠では,子宮破裂の頻度が高いとの報告もあり厳重な妊娠管理が必要となる.今回われわれは,妊娠中の経時的なMRI検査により,無症候性不全子宮破裂を発見し母児共に救命しえた症例を経験したので報告する.症例は35歳1妊0産.他院で腹式子宮腺筋症・筋腫核出術および骨盤内子宮内膜症病巣除去術の既往歴があり,術後1年4カ月で顕微授精,凍結融解胚移植により妊娠成立した.その後,当科に周産期管理目的で紹介され妊娠22週より管理入院とし,妊娠16週,25週,32週にそれぞれMRIを撮影して子宮筋層の評価を行った.妊娠16週では腺筋症核出部位に一致する子宮底部から後壁にかけての筋層の菲薄化を認めた.25週でも同様の所見であった.32週ではさらに筋層の菲薄化が進行し,卵膜が腹腔内へ膨隆していた.母体は無症状であったが,子宮破裂を疑い,妊娠32週1日に緊急帝王切開術を実施した.術中所見で子宮腺筋症核出部位に一致して直径2 cmの筋層欠損を認めたが,大腸と癒着した子宮漿膜に欠損を認めなかったため不全子宮破裂と診断した.癒着剝離後,破裂部位の子宮筋層をトリミングし縫合修復術を行った.母児共に術後経過は良好であった.術後3カ月のMRIでは,筋層菲薄化は認めていない.子宮破裂のリスクが高い子宮腺筋症核出術後妊娠の管理においては,妊娠中の経時的なMRI検査は,切迫子宮破裂や無症候性子宮破裂を発見しうる有用な検査と考えられる.〔産婦の進歩74(3):391-398,2022(令和4年8月)〕

  • 山本 円, 西村 美咲, 西岡 香穂, 曽和 正憲, 西森 敬司
    2022 年 74 巻 3 号 p. 399-403
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    今回われわれは,ペニシリン系抗菌薬により薬疹を発症したために,アセチルスピラマイシンで加療した妊娠梅毒の1例を経験したので報告する.症例は19歳,初産婦.自然妊娠成立し,当院を受診された.妊娠10週の妊娠初期検査でrapid plasma reagin test(RPR法)定性,treponema pallidum hemagglutination test(TPHA法)定性のいずれも陽性であった.妊娠12週の梅毒定量検査でRPR64倍,TPHA20,480倍と高値であり,症状はなく,潜伏梅毒と診断した.感染時期は不明であった.妊娠12週よりアモキシシリン1500 mg/日を処方したが,内服8日後に四肢に蕁麻疹を発症し,薬疹と診断し薬剤の変更を行った.妊娠15週よりアセチルスピラマイシン1200 mg/日を8週間投与した.内服後,RPR抗体価が治療前の1/4以下に低下したため治療効果ありと判定し,以降は経過観察を行った.妊娠41週0日に自然陣痛発来し,同日経腟分娩に至った.児は3644 gの男児,Apgar scoreは9/10点(1分値/5分値)であった.児の先天梅毒の感染は否定的であった.本症例ではアセチルスピラマイシンの投与により梅毒の母子感染を防ぐことができた.しかしアセチルスピラマイシン投与による妊娠梅毒の治療効果についてはエビデンスに乏しい.今後,ペニシリンアレルギー患者に対する妊娠梅毒の治療法確立のため,さらなる症例の蓄積と検討が必要であると考える.〔産婦の進歩74(3):399-403,2022(令和4年8月)〕

  • 今竹 ひかる, 小山 瑠梨子, 水野 友香子, 岡本 葉留子, 小池 彩美, 大竹 紀子, 上松 和彦, 吉岡 信也
    2022 年 74 巻 3 号 p. 404-411
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    若年女性の大動脈解離発症はまれであるが,妊娠中は循環動態や大動脈壁の変化により大動脈解離のリスクが高まるため,Marfan症候群等の基礎疾患をもつ妊婦ではとくに注意が必要とされている.今回,妊娠中にStanford A型大動脈解離を発症し,後に基礎疾患が判明した2症例を経験したので,文献的考察を踏まえて報告する.症例1は43歳,2妊0産,妊娠30週3日に突然発症の胸背部痛のため近医へ救急搬送され精査目的に当院へ転院搬送となった.経胸壁超音波検査でStanford A型大動脈解離の診断となり,帝王切開と同時に上行・弓部大動脈全置換術と大動脈基部置換術(生体弁)を施行した.退院後の遺伝子検査の結果,Loeys-Dietz症候群と診断された.症例2は28歳,1妊0産,妊娠中期に突然発症の背部痛を自覚していたが自然軽快したため受診せず,その後は妊娠経過に問題なく妊娠40週3日に経腟分娩となった.産褥2日目より労作時息切れを自覚し,退院翌日の産褥6日目には動悸も認めるようになったためかかりつけ産婦人科病院を受診,心不全の精査加療目的に当院へ転院搬送となった.慢性期のStanford A型大動脈解離の診断となり,心不全治療後の入院7日目に自己弁温存大動脈基部置換術,僧帽弁弁輪形成術を施行した.退院後の遺伝子検査の結果,Marfan症候群と診断された.〔産婦の進歩74(3):404-411,2022(令和4年8月)〕

  • 西本 昌司, 山崎 友維, 山中 啓太郎, 冨本 雅子, 安積 麻帆, 鷲尾 佳一, 笹川 勇樹, 寺井 義人
    2022 年 74 巻 3 号 p. 412-417
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    子宮内膜症の悪性化はよく知られているが,子宮腺筋症からの悪性化はまれであり,報告例は少ない.今回われわれは,子宮頸部に発生した子宮腺筋症由来の類内膜癌の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.57歳の女性,健診でCA19-9高値にて精査目的に前医受診.MRIで子宮背側に囊胞性腫瘤を認め,PET-CTでも子宮頸部からダグラス窩にFDGの集積を認めた.腹膜癌,子宮頸癌などを疑われ,精査・加療目的に当院紹介受診となった.子宮頸部・体部細胞診,子宮頸管・内膜組織診でも明らかな悪性所見なく,コルポスコピーで明らかな異常所見を認めなかった.有意な所見は画像検査のみであり,悪性腫瘍を念頭に審査腹腔鏡下手術を施行した.術中所見はダグラス窩閉鎖し,子宮後壁と直腸は強固に癒着しており癒着剥離時に一部腫瘍成分の露出を認めた.準広汎子宮全摘+両側付属器切除+直腸合併切除+骨盤内・傍大動脈リンパ節郭清+直腸端々吻合+回腸人工肛門造設を施行した.病理組織検査で子宮内膜面には腫瘍は認めず,筋層内に腺筋症を認め,腺筋症内にendometrioid carcinoma G1の腫瘍を認めた.子宮漿膜面に腫瘍は露出していたが,腸間膜への浸潤は認めず.卵巣転移はなく,右傍大動脈節,右閉鎖節にリンパ節転移を認めた.腫瘍は子宮体部から頸部にかけて主座のため,子宮体癌IIIC2 pT3bN2M0の診断とした.子宮腺筋症発生の子宮体癌を疑った場合,PET-CTが早期診断の一助になるが,最終的には手術による病理組織診断が必須であるため,術前に診断がつかない頸部腫瘍を疑った場合,このような頸部腺筋症の悪性転化の可能性を念頭に審査腹腔鏡下手術によるアプローチは有用だと考えられた.〔産婦の進歩74(3):412-417,2022(令和4年8月)〕

  • 福谷 優貴, 伊藤 美幸, 下園 寛子, 瀬尾 晃司, 野溝 万吏, 矢野 阿壽加, 藤井 剛, 佐川 典正
    2022 年 74 巻 3 号 p. 418-424
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    腟中隔を合併した双角双頸子宮に発症した子宮腺筋症に対し全腹腔鏡下子宮全摘術を施行した.症例は47歳,妊娠歴はない.月経痛を主訴に前医を受診し子宮腺筋症と腟中隔を指摘された.ジエノゲストによる薬物療法が無効であったため手術を希望し,当院へ紹介された.当科初診時に腟縦中隔を認め,腟腔の大きさは左右差があり左側腟腔は著明に狭く腟鏡診は困難であった.右側腟腔からの腟鏡診では子宮腟部を1つ視認でき,経腟超音波検査では子宮腺筋症を認めたが,子宮奇形の診断には至らなかった.術前の骨盤MRI検査で初めて双角双頸子宮の診断に至った.全腹部造影CT検査とCT Urographyでは両側に正常な腎臓を認め,尿管走行異常などの腎尿路系の奇形はないと評価した.子宮腺筋症に対する根治術として全腹腔鏡下子宮全摘術を選択した.手術にあたっては,最初に腟中隔を切除した後,コルポトミーカップを装着した子宮マニピュレーターを用いて,全腹腔鏡下子宮全摘術を施行することができた.子宮奇形症例に全腹腔鏡下子宮全摘術を施行した既報と併せて,安全な手術を施行するうえでの留意点について考察した.〔産婦の進歩74(3):418-424,2022(令和4年8月)〕

  • 遠藤 理恵, 片岡 恒, 垂水 洋輔, 青山 幸平, 古株 哲也, 寄木 香織, 長峯 理子, 森 泰輔
    2022 年 74 巻 3 号 p. 425-432
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    卵巣成熟奇形腫の悪性転化の頻度は約1%程度とされている.発生する組織型としては約80%が扁平上皮癌であり,腺癌は約7%といわれているが,腸型腺癌への悪性転化は現在までに15例の報告と非常にまれである.また悪性転化は約70%が40歳以上に起こると報告されており,若年発症の報告は少ない.今回われわれは,卵巣成熟奇形腫が腸型腺癌に悪性転化した若年症例を経験したので報告する.患者は22歳,未妊.下腹部膨満感を主訴に近医を受診し,超音波検査で卵巣悪性腫瘍の可能性を指摘されたため,当科紹介受診となった.骨盤MRI検査で右卵巣由来と思われる長径15 cmの充実成分を伴う多房性囊胞性腫瘤を認めた.腫瘍右側は長径5 cmの成熟奇形腫を疑う腫瘍が存在し,腫瘍左側は多房性の粘液性腫瘍が疑われた.いずれの囊胞にも比較的大きな充実成分が存在し,PET-CTで同部位にFDGの異常集積を認めた.以上の所見から,成熟奇形腫および粘液性腫瘍が合併する境界悪性から悪性の右卵巣腫瘍が疑われた.妊孕性を考慮し,腹式右付属器摘出術を施行した.腫瘍内部には白色から黄白色の充実性領域が認められ,一部で被膜の破綻がみられた.病理組織学的に壊死細胞や粘液を有する管状腺癌であり,背景には成熟性のある非角化重層扁平上皮や皮脂腺が認められ,成熟奇形腫の像を呈していた.以上から成熟奇形腫の悪性転化と診断し,十分な話し合いのうえで卵巣悪性腫瘍手術(単純子宮全摘術+左付属器摘出術+骨盤・傍大動脈リンパ節郭清+大網部分切除術)を実施した.進行期はIC2期(FIGO2014),pT1c2N0M0(UICC第8版)と診断した.術後補助療法としてTC療法を4サイクル実施し,術後1年5カ月経過しているが,再発は認めていない.若年者における成熟奇形腫の悪性転化の報告は少なく,予後や妊孕性温存の可能性の理解のためにさらなる検討が必要である.〔産婦の進歩74(3):425-432,2022(令和4年8月)〕

  • 清瀬 ますみ, 北井 美穂, 矢野 紘子, 山口 聡
    2022 年 74 巻 3 号 p. 433-439
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    術後のMycoplasma hominis感染症は産婦人科領域での報告が散見される.Mycoplasma hominisはゲノムサイズが最も小さい原核生物で,細胞壁をもたないため,グラム染色で同定することはできず,細胞壁合成阻害薬であるβ-ラクタム系抗菌薬に耐性を示す.術後感染症の予防のため,術前後にセフェム系抗菌薬を用いることが多いが,Mycoplasma hominisには有効でない.術後に感染を起こし,培養検査を行っても培養に時間がかかること,グラム染色で同定できないこと,さらに本菌を同定するためにはDNA解析や生化学的性状などの詳細な確認が必要となるため,診断がつかずに治療が遅れることがある.今回,若年女性が子宮頸癌に対する子宮広汎全摘術後に腹痛,発熱の症状を認め,β-ラクタム系抗菌薬を投与したが症状の改善を認めなかった.培養検査を提出したものの菌が同定されず,CTガイド下ドレナージや開腹下ドレナージを施行したものの症状の改善を認めなかった.最終的にMycoplasma hominis感染症を疑い,適切な培養を行うことでMycoplasma hominisによる骨盤内感染と診断された.通常のmycoplasma属に効果のあるエリスロマイシンやアジスロマイシンなど14員環,15員環のマクロライド系抗菌薬が無効であるため,クリンダマイシン投与によって改善を認めた2例を報告する.〔産婦の進歩74(3):433-439,2022(令和4年8月)〕

  • 山中 彰一郎, 森田 小百合, 大野木 輝, 小川 啓恭, 吉田 昭三
    2022 年 74 巻 3 号 p. 440-446
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    妊娠中の貧血は発生頻度の高い合併症であるが,その多くは鉄欠乏性貧血である.今回,妊娠後期に発症した巨赤芽球性貧血の症例を経験したため報告する.症例は31歳,2妊1産.既往歴や家族歴に特記事項はなかった.妊娠後期より当院で妊婦健診を行った.妊娠36週1日で実施した血液検査ではWBC 4700/μL,Hb 9.7 g/dL,MCV 101.0 fL,Plt 132,000/μLであり,貧血に対し鉄剤を投与した.その後の妊娠経過に異常を認めず,妊娠38週2日に自然経腟分娩となった.分娩時の出血量は376 gであり産後の経過は安定していたが,産後3日目の血液検査にてWBC 4800/μL,Hb 6.9 g/dL,MCV101.5 fL,Plt 57,000/μLと重度の貧血と血小板減少を認めた.末梢血液像では幼若白血球を認め腫瘍性疾患なども考慮したが,諸検査の結果,血液中葉酸値が測定感度以下であることにより,葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血と診断した.産後5日目から葉酸15 mg/日の内服とメコバラミン1500 μg/日の内服を開始した.産後12日目に貧血と血小板減少は改善し,産後40日目には正常値となったため治療を終了した.妊娠中の正常値は非妊時と異なることがあり,貧血を評価する際には巨赤芽球性貧血の可能性を留意して診療にあたるべきである.また,妊婦の血小板減少では葉酸欠乏症を鑑別疾患として考慮すべきである.〔産婦の進歩74(3):440-446,2022(令和4年8月)〕

  • 須賀 清夏, 筒井 建紀, 田中 稔恵, 中尾 恵津子, 繁田 直哉, 清原 裕美子, 大八木 知史
    2022 年 74 巻 3 号 p. 447-453
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,産褥大量出血に対する保存的治療として,子宮動脈塞栓術(uterine artery embolization;UAE)が実施する機会が増加している.一方,UAE施行後の月経や将来の妊孕性への影響についてはまだ十分に評価されていない.今回われわれは,2010年1月から2020年12月までに当院でUAEを施行した産科症例のうち,経過を追跡し得た11症例において,UAE実施後の月経への影響を後方視的に検討した.塞栓物質は全例ゼラチンスポンジを使用した.塞栓部位は全例両側子宮動脈のみに行い,卵巣動脈に塞栓を施行した症例はなかった.7例の産科的出血,4例のretained products of conception(RPOC)に対してUAEを実施し,全例に月経の再開を認めた.月経再開した症例のうち,2例は妊娠に至った.本検討ではUAE実施後も全例で月経再開を認めており,UAEによる月経再開への影響は認めなかった.〔産婦の進歩74(3):447-453,2022(令和4年8月)〕

  • 白神 裕士, 久松 洋司, 北 正人, 佛原 悠介, 木田 尚子, 吉村 智雄, 濱田 円, 岡田 英孝
    2022 年 74 巻 3 号 p. 454-460
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル 認証あり

    Cellular angiofibroma(CAF)は血管筋線維芽細胞腫と紡錘形細胞脂肪腫の両方の組織像を呈する新たな概念として,1997年にNucciらにより提唱された良性の疾患で,女性では外陰部に好発する.切除後にも再発する場合があるが症例報告は少なく,再発のリスクや治療に関しては不明な点が多い.症例は47歳女性で7年前に他院で左バルトリン腺囊胞の診断に対して造袋術が行われた.2年後に同部位に腫瘤の再発があり,当科で摘出術を行い術後病理診断でCAFと診断した.切除断端は一部陽性であったが,CAFには断端陽性でも再発しない報告があるため患者と相談のうえ経過観察とした.その5年後,腫瘤の再発があり生検でCAFと診断した.MRIでは腫瘤は肛門や直腸に近接していたが,完全切除と機能温存を目的として消化器外科医と共同で手術を行い,肛門挙筋や直腸固有筋層の一部を合併切除して断端陰性の摘出を行い,術後は直腸・肛門機能障害なく術後17カ月無再発で経過している.本論文ではCAFの術前鑑別診断,手術方法などについて文献的考察を含めて報告する.〔産婦の進歩74(3):454-460,2022(令和4年8月)〕

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