抄録
乳牛ふん尿のメタン発酵消化液の固液分離固分(以下:分離固分)を原料とした敷料は,ふん尿由来であるため乳房炎発症の危惧といった衛生面の課題がある。本研究では,分離固分を敷料利用している酪農場において,敷料調製過程の分離固分と敷料利用時の衛生状態を,大腸菌を指標に調査した。
分離固分は,2日分堆積し,これを2日ごとに移動・再堆積(切り返し)し計4回切り返した後,敷料として利用された。
2日ごとの切り返しにより分離固分の温度は夏期45~80 ℃,冬期40~70 ℃で推移し,年間を通して4回目の切り返し前までに55 ℃以上を延べ100 h 以上持続した。分離固分の大腸菌数は,分離直後の102 ~103 CFU/g-wet から牛床投入前には試料の9割以上が検出限界以下まで減少した。以上から,分離固分の好気性発酵は大腸菌除去に有効であった。
敷料の大腸菌数は牛床投入前の検出限界以下から投入後2~3 h で102 ~104 CFU/g-wet まで急増し,投入後22~23 h では104 ~105 CFU/g-wet となった。また,調査開始時に除去しなかったブリスケット部材前に堆積した未利用敷料の大腸菌数は投入後約12 h で103 ~104 CFU/g-wet まで増加した。以上から,短期間の発酵処理をした分離固分敷料の大腸菌に対する増殖抑制効果は確認されなかった。
敷料利用時の牛舎内平均気温と新しい敷料が投入される前の敷料平均大腸菌数の関係は,牛舎内平均気温1.6~23.7 ℃の範囲で高い正の相関があり(r =0.918),22.7 ℃以上では大腸菌性乳房炎が発生するとされる106 CFU/g-wet 以上になると推定された。
分離固分敷料には,①投入時の水分が約78 %と高い,このことにより,②水分が高いほど大腸菌数が少ない傾向がある,
③牛舎内気温が低いと水分が高く大腸菌数が少ない,④牛舎内気温が高いと水分が低く大腸菌数は多い傾向がある,という特徴が明らかとなった。