Second Language
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寄稿「2018年J-SLA秋の研修会」
日本人児童の第2言語としての英語冠詞の習得
山田 一美
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2019 年 18 巻 p. 71-88

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抄録

本研究は, Article Choice Parameterの予測が日本語を母語とする子どもの英語学習者の個別データを説明できるのかどうかを検証したものである.Ionin, Ko, and Wexler(2004)およびIonin, Zubizarreta, and Philippov(2009)では, 英語学習者の冠詞の選択を説明するために不安定仮説(Fluctuation Hypothesis)が提案された.Ionin et al.(2009)の実験ではロシア語を母語とする子どもの英語学習者がArticle Choice Parameterにアクセス可能である一方, 当該パラメータの2つの設定(限定および特定)の間で解釈が揺れていることが明らかになった.後続の研究であるYamada and Miyamoto(2010)でも, ロシア語と同様に冠詞を持たない日本語を母語とする子どもの英語学習者が, [-限定, +特定]の文脈で誤って定冠詞を選択している場合が観察され, Fluctuation Hypothesisを支持する結果が得られた.Zdorenko and Paradis(2008)における子どもの英語学習者の振る舞いでも同様の結果が得られている.しかし, Hawkins et al.(2006)およびTrenkic(2008)ではArticle Choice Parameterの理論的なステイタス, あるいはその妥当性が不明確であると主張されている.さらに, Yamada and Miyamoto(2010)における子どもの英語学習者の個別データが未分析であることから, 本稿では, 個別データもArticle Choice Parameterの枠組みで説明が可能であるのかどうか検証した.その結果, 子どもの冠詞の解釈が全体の結果として示されたように一様ではなく, 実際は個々に異なることが明らかになった.この学習者間にみられる解釈の多様性はACPでは十分な説明がなされない.本稿では, 素性を用いた分散形態論(Distributed Morphology)(Halle & Marantz, 1993; Harley & Noyer, 1999)の枠組みで, 英語学習者の冠詞の素性構成の習得過程が説明可能であることを示唆する.

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© 2019 日本第二言語習得学会
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