Second Language
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PART I
特別寄稿 第23回 国際年次大会 (J-SLA 2023)
  • ヘザー ゴード
    2024 年 23 巻 p. 5-27
    発行日: 2024/12/15
    公開日: 2025/03/01
    ジャーナル フリー

    本稿では、第二言語学習者が方略的であることを示す。第二言語学習者はネイティブスピーカーに気づかれない場合、音節末子音や子音からなる屈折形態素の産出を、母語文法を利用して最適化していると指摘する。まず研究1では、中国語を母語とする英語学習者の2グループによる、屈折形態素の「s」と音節末の「s」の産出を調査した。「可変的削除」グループは方略的であり、可能な限り母語の表象を用いて、屈折形態素の—sを約半数のケースで発音する。どちらのグループも単一形態素からなる語の末尾の「s」は一貫して発音するが、方略性の低い「全削除」グループでは、彼らの構築した英語文法に屈折形態素を表象し、産出する手段を持たないため、屈折形態素のsが産出されない。研究2および3では、英語母語話者に近い能力を持つ中国語話者と中上級の英語能力を持つビルマ語話者を対象に、音節末の「s」と「1」の産出を比較した。どちらの研究においても、第二言語学習者は習熟度に関係なく方略的であることが示された。置換や削除による修正が英語話者に気づかれやすい音節末の「s」の場合には、彼らは母語の文法を活用するが、誤りがそれほど問題とならない音節末の「1」の場合は、最適化にあまり注意を向けずに置換や削除を行う。研究4では、英語母語話者に近い能力を持つ日本語話者を対象に、語末の子音の産出を調査した。日本語では語末に調音点素性のない鼻音しか許されないが、英語ではさまざまな子音が許される。その結果、学習者は彼らの母語にある語中の長子音の表象を語末の子音に転用することで、英語に適した形に見えるが、実際には母語の文法に基づいた方略を用いていることが示された。

PART II
寄稿「2023年J-SLA初夏の研修会」
  • 小町 将之
    2024 年 23 巻 p. 31-36
    発行日: 2024/12/15
    公開日: 2025/03/01
    ジャーナル フリー

    生成文法の極小主義的な探究では, 個別文法に対する記述的妥当性, 普遍文法 (Universal Grammar: UG) に対する説明的妥当性, そして系統発生 (言語進化) の妥当性を同時に満たすことが求められている.これらを同時に満たす「真に説明的な」理論の追求の中で提唱された極小主義の強いテーゼ (The strong minimalist thesis: SMT) には, 規律的機能 (the disciplinary function) と促進的機能 (enabling function) と呼ばれる二つの役割がある (Chomsky, 2024).この論文では、SMTが成立する論理を概観しながら, 近年強調されるSMTの促進的機能が, どのようにして新たな見方を提供してくれるのかを考察する.

  • 遊佐 典昭
    2024 年 23 巻 p. 37-53
    発行日: 2024/12/15
    公開日: 2025/03/01
    ジャーナル フリー

    生成文法に基づいた第二言語獲得研究 (GenSLA) は, 普遍文法 (UG) の研究に大きく依存している.言語固有の属性を最小限にする試みである極小主義 は, GenSLAに対して大きな影響を与えると思われる.本稿は, 極小主義とGenSLA, パラメータの問題, 刺激の貧困の問題を考察しながら, SLAにおける論理的問題と発達問題を考える.特に, パラメータに関して, wh句の第二言語獲得を素性の観点から扱ったMiyamoto et al.(2024) を紹介する.さらに, 入力とインテイクに関する最近の研究動向を紹介し, 構造依存性に違反した規則は第二言語獲得において利用されないことを示す.

  • 稲田 俊明
    2024 年 23 巻 p. 55-76
    発行日: 2024/12/15
    公開日: 2025/03/01
    ジャーナル フリー

    動的文法理論は, 言語発達の移行過程と習得結果は途中段階の文法の影響を受けるので, Chomsky (1968, 1986) などの「瞬時獲得モデル」はその特性を正しく説明できないと主張する.まず, 動的理論による習得モデルを概説し, 初期段階にはない規則や構文と文法拡張の具体例について解説する.次に, 第二言語習得においてもこの理論が有効であることを示すために, L2話者の日本語の文末表現の誤用の問題を検討する.L2話者の誤用が, 母語のL1文法に関わらず, 初期段階に観察されること, その後の発達過程で, 中級レベルではL1文法の特性によって習得結果が異なることを示し, 言語獲得の移行過程を理論に組み込んだ動的習得モデルが有望であることを示唆する2

PART III
研究論文
  • ポール・N ネルズ, 荒巻 倖大, 藤井 友比呂
    2024 年 23 巻 p. 79-100
    発行日: 2024/12/15
    公開日: 2025/03/01
    ジャーナル フリー

    尺度含意 (Scalar implicature, 以降SI) 生成の説明として2つの異なるアプローチがある. SIはデフォルト推論であるとする考え方と文脈に基づいて行われる語用論的な計算の結果であるとする考え方である. これらのアプローチが正しいかどうかを調べるために3つの実験を実施した.真偽判断タスクを用いて, 日本人英語学習者を英語母語話者および日本語母語話者と比較した.先行研究では第2言語 (L2) 学習者は困難なくSIを生成したことが報告されているが, 本研究ではL2学習者が量化詞someに対してよりも, mostに対してSI生成に苦労することが分かった.この量化詞の扱いにおける非対称性は, 英語および日本語L1参加者では観察されなかった. この非対称性は, 理論的文献でしばしば示唆されているように, mostがsomeよりも意味的にも形態統語的にも複雑であることを考えると, 驚くにはあたらないかもしれない. しかし, それでもなおデフォルト語彙アプローチでは, L2学習者は本実験結果よりもうまくデフォルトであるSIが生成できるはずだと予測される. また, 語用論的アプローチでは, mostとsomeの間でパフォーマンスが異なると考える根拠がないため, 実験結果は語用論的アプローチも支持しない.これらの結果から, 本研究は尺度含意生成に対する第3のアプローチ, すなわちSIがそれぞれの量化詞の意味内容の一部であるが, デフォルトではないというアプローチを提案する.

  • 屈 佳伸
    2024 年 23 巻 p. 101-128
    発行日: 2024/12/15
    公開日: 2025/03/01
    ジャーナル フリー

    本研究は、日本語母語話者(動詞フレーム言語)と中国語母語話者(衛星フレーム寄り言語)が、第二言語である英語(衛星フレーム言語)において、どのように移動事象のナラティブを習得するかを調査した。日本語と中国語母語話者が作成した英語の移動事象ナラティブを、様態の顕著性、原因の顕著性、経路の区切り、経路の融合、場所の顕著性及び場面設定に着目し、英語母語話者との比較を行った。その結果、第二言語の移動事象ナラティブを習得する際に、第一言語の移動事象スキーマが移転されるとともに再構築されることが示された。さらに、様態の顕著性、原因の顕著性、経路の融合が他の意味構成要素よりも第二言語学習者にとって習得の難易度が高いことがわかった。これは、移動事象のスキーマにおける構成要素の位置づけの違いや、起点言語に存在しない目標言語の表現の習得難易度に起因していると考えられる。

  • 田崎 佑
    2024 年 23 巻 p. 129-147
    発行日: 2024/12/15
    公開日: 2025/03/01
    ジャーナル フリー

    1970年代以来, 第二言語習得研究では, 英語の過剰受動化 (Overpassivization) が多くの研究者の関心を集めてきた.この現象に対する近年の研究では, 主語の有生性が非対格動詞の受動文の過剰生成において重要な役割を果たすと考えられている.具体的には, 過剰受動化は主語の有生性に依存し, 非対格動詞が有生主語を取る場合よりも, 無生主語を取る場合の方が過剰受動化が多く観察されることが知られている.この分析は多くの研究者に支持されているが, その予測可能性に関する詳細な検証は十分には行われていない.本論文では, これまで提示されてきたデータと第二言語としての英語学習者コーパスから得られたデータを用いて, 主語の有生性に基づく分析の予測可能性について論じる.今回使用したデータの詳細な分析をとおして, 主語の有生性は一見過剰受動化に影響を与えているようにみえるものの, 主語の有生性だけでは過剰受動化を適切に説明することはできないことを示す。本論文では, 非対格動詞の過剰受動化の要因について, 従来提案されている主語の有生性ではなく、主語の動作主性が重要な役割を果たしていると主張する.

PART IV
研究論文 <国際年次大会からの投稿 SUBMISSIONS FROM J-SLA INTERNATIONAL CONFERENCES (J-SLA 2022, J-SLA 2023>
  • 岡田 千佳
    2024 年 23 巻 p. 151-175
    発行日: 2024/12/15
    公開日: 2025/03/01
    ジャーナル フリー

    本研究では, 東アジア言語母語 (L1) 話者がヨーロッパ言語を第二言語 (L2) または第三言語 (L3) として習得する場合に, 類型的近接性が及ぼす影響を検討する.具体的には, 英語をL2, スペイン語をL3とする日本語L1話者によるスペイン語の空目的語と, それに伴う素性の習得に着目した.スペイン語と日本語は共に空目的語を許容するが, その類型的近接性はスペイン語と英語の関係に比べてより遠い.スペイン語の接語は, 性別, 数, 人称が付与されているため, 英語には存在するが日本語には存在しないファイ素性であると仮定される.本研究における仮説は, (1) スペイン語の接語がgrammatical gender agreementの獲得に肯定的な証拠を提供し, (2) 空目的語の習得は接語の習得の前提条件となる, である.実験参加者はまず空目的語に焦点を当てた英語文法性判断課題と別途実施した英語試験の結果をもとにグループに分類され, その後, 主実験であるスペイン語の文法性判断課題に参加した.その結果, 目的語に関連する知識に関してL1とL2からL3へ与える影響は複雑であり, 学習者のL3の知識にL1の影響は確かに確認された.また, 参加者はL3スペイン語の接語の習得に困難さを示し, これは参加者のL2英語にはないGender featureがL3スペイン語の接語にあることに起因すると考えられた.本研究結果は, 先行研究で示唆されている習得順序, 類型上・統語上の近接性を支持するものではなく, 参加者のL1/L2にはないL3のファイ素性の過剰生成, 及びスペイン語の接語そのものに関してさらなる研究の必要性を強調するものであった.

  • ―タイ語母語話者を対象とした行為授受文と形容詞比較構文調査を通して―
    宮沢 知恵
    2024 年 23 巻 p. 177-192
    発行日: 2024/12/15
    公開日: 2025/03/01
    ジャーナル フリー

    VanPattenは, インプット処理ストラテジーが文解析能力が発達途上にある学習者に使用された場合, 誤った意味理解につながる可能性を指摘している (VanPatten, 2007).本研究では, 日本語学習者が実際にこのインプット処理ストラテジーを使用しているかについて調査した.日本語教育において, 最も言及の多いインプット処理ストラテジーは「最初の名詞原理」である.そこで, 「最初の名詞原理」の使用が想定される行為授受文と形容詞比較構文を対象に, 日本語学習者の「最初の名詞原理」の使用状況について調査した.調査では, タイ語を母語とする日本語学習者に実施した日本語文の意味理解テストの結果を分析し, その結果, 「最初の名詞原理」は使用されないことがわかった.そこで, 学習者が使用する日本語教科書が提示する文型を分析したところ, 学習者が日本語教科書によるインプットから意味理解ストラテジーを生成, 強化する可能性が示唆された.また, 意味理解に母語の文法構造が影響することが推察されたが, 意味理解において, 母語の影響による誤りより, インプットから生成されたストラテジーによる誤りが日本語能力が向上しても改善されにくいことが明らかになった.

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