物理探査
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論説
火山噴火予知研究の課題と構造探査
鍵山 恒臣
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2006 年 59 巻 6 号 p. 539-548

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抄録
火山噴火予知研究は,これまでに多くの成果をあげているが,なお多くの課題を抱えている。たとえば,岩手山では,マグマの貫入を示唆する地殻変動や地震活動の移動などを捉え,噴火を想定した防災対応もとられたが噴火に至らなかった。また,近年の浅間山の噴火を見ると,マグマが容易に上昇している場合には,火山性地震の群発に続いて噴火が発生するので噴火の予測は容易であるが,マグマが容易に上昇できない場合には,地震の群発と噴火との対応がくずれてしまうので噴火の予測が困難である。これらの問題は,マグマが容易に上昇できない,あるいは途中で停止することに起因している。本稿では,3つの視点でこの問題を考えた。第1に,マグマがどこで停止しているかを精度よく知ることが重要である。第2に,マグマと周囲の媒質との密度差を精度よく知ることが重要である。マグマは高密度の媒質中では容易に上昇するが,低密度の媒質にあたると上昇を停止すると考えられる。したがって,構造探査では,地震波速度構造にとどまらず,密度の推定にまで到達することが必要と思われる。第3に,揮発性成分のマグマからの散逸を議論できる観測を行うことである。雲仙における比抵抗構造調査によれば,マグマの上昇経路に沿う領域で比抵抗がきわめて低下していることが見出された。これは,マグマが上昇していく途中で揮発性成分が散逸し,熱変質によって比抵抗を下げたことによると考えられる。そのためにマグマの発泡が阻害され爆発的な噴火とならなかったと考えられている。これからの火山噴火予知は,以上の問題に解答することが求められており,物理探査にもこの問題を解決するための方策が求められている。
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© 2006 社団法人 物理探査学会
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