物理探査
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特集「創立75周年記念シンポジウム「持続可能な社会と物理探査」(その1)概要」
  • 渡辺 俊樹, 小田 義也
    2024 年 77 巻 p. sp1-sp2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/25
    ジャーナル 認証あり

     公益社団法人物理探査学会は,2023年5月に創立75周年(3/4世紀)を迎えました。2008年に創立60周年を迎えてから15年,私達を取り巻く社会や国際情勢は大きく変化しています。世界的なエネルギー供給不安や脱炭素社会の実現に向けた急速な動き,パンデミックの発生,地球温暖化に起因する気候変動と災害の激甚化,また,我が国ではさらに高齢化・人口減少社会を迎えようとしており,「持続性」がキーワードとしてますますクローズアップされています。一方,技術面ではデジタル革命,AI革命が急速に進展しています。

     このような背景の中,創立75周年記念事業では「持続可能な社会と物理探査」をメインテーマに掲げ,記念式典や祝賀会,記念シンポジウムなどを実施いたしました。

     記念シンポジウムでは,「持続可能な社会と物理探査」というテーマの元に,物理探査が適用されている主要な分野を網羅した6つのセッションが設けられました。すなわち,①資源(石油・ガス・金属・地熱),②環境(土壌・地下水・CCS・地層処分),③宇宙や空中からの物理探査(リモートセンシングとドローン物理探査),④防災(斜面・地震防災・河川堤防),⑤土木(維持管理・農業),⑥学術(地球科学・遺跡文化財)です。各セッションにおいて,物理探査技術者とユーザ・発注者の双方が一堂に会し,最新の成果と課題,将来への展望について活発な意見交換が行われました。シンポジウムは,物理探査が社会のさまざまな分野を支える技術として使用されており,特に,エネルギーや資源の安定供給,脱炭素社会の実現とSDGs,環境保全と安全安心の実現,人類の過去と未来への挑戦といった観点から将来への貢献が期待されている,その全体像を把握できる場となりました。そして,物理探査の技術研究をさらに進展させる上で物理探査学会が果たす役割の重要性について改めて認識する貴重な機会となりました。本特集号は,記念シンポジウムのセッションコンビーナに,それぞれの分野について論説または解説を執筆していただいたものです。

     「資源」分野の論説「エネルギー・資源の安定供給実現のために物理探査技術が果たすべき役割:不確実な時代におけるエネルギー動向と探査結果の解釈における不確実性」(松島)は,不確実性に包まれた時代において物理探査技術が果たすべき役割について論考し,主観的要素が不確実性を低減する重要な役割を果たすと指摘しています。

     「環境」分野の解説「地圏における環境保全のための物理探査技術の役割」(光畑・新部)では,シンポジウムにおける環境セッションの概要を紹介するとともに,環境問題の重要性と物理探査技術の役割や期待が述べられています。

     「宇宙や空中からの物理探査」分野の解説「宇宙や空中からの物理探査(リモートセンシングとドローン物理探査)」(吉川ほか)では,リモートセンシングや近年その利用が加速しているドローンによる物理探査について,現状や今後の展望がまとめられています。

     「学術」分野の論説「埋蔵文化財研究・保護における物理探査の意義」(金田)は,地中に存在し,可視不能な埋蔵文化財の研究・保護における物理探査の重要性と有効性について,具体例を示しながら分かりやすく論じています。

     「防災」分野の論説「物理探査の災害レジリエンス強化への活用」(佐藤)は,令和6年能登半島地震を通じて,創立60周年で取り上げた4つの視点(液状化,斜面崩壊・地すべり,S波速度構造推定,減災)から物理探査の活用や課題について示唆に富んだ考察を行なっています。

     「土木」分野の論説「土木分野への物理探査の利用動向と将来展望」(尾西)は,統計情報から土木分野における物理探査の利用動向を分析し,その上で,将来にわたり土木分野で物理探査が利用されるためのポイントについて言及しています。

     以上のように,本特集号では,持続可能な社会の実現に向けた物理探査の役割や課題が,網羅的かつ具体的に示されており,我々物理探査学会会員にとって示唆に富んだ内容になっています。本特集号は,不確実性の高い時代における持続性の追求というチャレンジに必ずや役立つものと確信しています。

論説
  • 松島 潤
    2024 年 77 巻 p. sp3-sp13
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/20
    ジャーナル 認証あり

     現在,世界を取り巻くエネルギー危機において,エネルギー・資源の安定供給を実現することは極めて重要な課題であるにも関わらず,将来的な展望は深い不確実性に包まれている。最近のエネルギー・資源の動向の流れを把握するとともに,物理探査技術が果たすべき役割を明確にし,今後必要な技術開発の方向性について論考する。これまで物理探査データに関する取得技術や解析技術の技術革新は不断に行われてきたが,探査結果の解釈における技術革新があまり目立たないため,解釈における潜在的なブレークスルーの可能性を述べる。とりわけ,不確実性の概念が有する多面性やその中における主観性の意味付けについて述べる。リスクと不確実性の概念の違いを明確にした上で,探査結果の解釈における主観性は不確実性を生じさせる原因ではなく,むしろ不確実性を低減するために重要な役割を果たす点を指摘する。大胆に仮説を立てその仮説を実証することに注力していく過程を通して,不確実性を減らせることが期待され,如何に人間の認知から有益な主観的要素を引き出すのかが探鉱リスクを縮減するための重要な方向になることを示唆する。

  • 金田 明大
    2024 年 77 巻 p. sp32-sp37
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/12
    ジャーナル 認証あり

     地中に存在する埋蔵文化財の研究と保護には,そのままでは可視不能であり,その存在や内容が想定できないという問題がある。物理探査手法による地中の人類痕跡の可視化である遺跡探査は,人類史の情報取得にとどまらず,人類の過去を知るための痕跡をいかに保全し,また記録していくかという社会的な必要性に応える重要な方法と考える。本論では,その重要性と埋蔵文化財保護活動の近年の現状からその有効性を検討し,今までの成果と方向性について述べる。

  • 佐藤 浩章
    2024 年 77 巻 p. sp38-sp49
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル 認証あり

     本稿は,物理探査学会の創立75周年を記念して,「物理探査の防災分野への活用の現状」をテーマに寄稿されるものである。令和6年能登半島地震は,1月1日に石川県能登地方の深さ16 kmで発生したMj7.6の地震で,震度7や6強の強い揺れや津波,地殻変動が観測された。この地震では人的被害や住家被害,さらに複数のライフラインの被害が報告され,特に断水や道路被害についての復旧の遅れが災害レジリエンスの観点での課題となっている。本稿では,物理探査の災害レジリエンス強化への活用について,液状化,斜面崩壊・地すべり,S波速度構造推定,減災という4つの適用先を取り上げ,令和6年能登半島地震で発生した事象を通して考察した。物理探査は,災害の予防や予測に有効な技術であり,これまでも活用されてきた。一方で,迅速な復旧や減災の視座を加えた災害レジリエンスの強化に対しては,迅速かつ広域な調査への適応やリアルタイムモニタリングの導入といった方向での既存の物理探査技術のブラッシュアップの必要性が,今回の地震から読み取れた。また,物理探査を活用してレジリエンスの高い社会を目指すには,物理探査そのものの存在や調査結果として得られた知見が,一時の情報共有だけではなく,地域における「在来知」として定着されるまでの根気強い情報の発信と連携の取り組みを進めていくことも必要である。

  • 尾西 恭亮
    2024 年 77 巻 p. sp50-sp60
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/02
    ジャーナル 認証あり

     公共業務実績を収集したデータベースであるテクリスを用いて物理探査の利用件数を分析した。この集計は,非民間業務の土木分野に限定した統計情報となる。この結果,最近10年では土木分野への物理探査の利用件数は増大傾向であることがわかった。特に利用の多い手法は,地中レーダ探査,磁気探査,PS検層であり,利用の拡大もこれら3つの手法が多い。そして,これに続き,屈折法探査,電気探査,表面波探査,常時微動測定の利用件数がこの順で多い。また,地盤や岩盤の調査を対象とした利用が全体の半分以上を占めることがわかった。ここで,地盤ではPS検層が,岩盤では屈折法探査が主要な探査手法として,多く利用されていることがわかった。また,維持管理の用途が多くなっている傾向が読み取れた。土木現場において様々な対応方法がある中で,現在の土木物探は効率の向上が利用選択を受けるために不可欠となっている。しかし,古くから使われてきた手法は,横ばいかやや利用件数を減らしていることから,事業全体の生産性向上を図るためになくてはならない要素としての役割を増やさなければ,将来の利用数は縮小しかねない。本分析結果が将来の土木物探のあり方を考える基礎資料になれば幸いである。

解説
  • 光畑 裕司, 新部 貴夫
    2024 年 77 巻 p. sp14-sp25
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/20
    ジャーナル 認証あり

     物理探査学会創立75周年記念シンポジウムにおける環境セッションの概要について報告する。本セッションでは,近年の環境問題に関する社会的重要性,地圏における環境問題に関して述べ,土壌汚染や地下水保全,さらに高レベル放射性廃棄物の地層処分事業,二酸化炭素の地中貯留事業に関して,我が国の関連する法律や計画,物理探査の役割や適用事例について報告があった。具体的な物理探査の適用事例にとしては,土壌汚染については,鉱山開発に伴って設置される鉱滓ダムの健全性調査,地下水保全については,土木工事に伴う近傍井戸水(温泉水)への影響評価調査,地層処分事業に関しては,各機関の取り組み状況の報告や沿岸浅海域における海底下の淡水性地下水の調査事例,二酸化炭素の地中貯留事業に関しては,各機関の取り組み状況の報告と弾性波モニタリングの例が報告された。

  • 吉川 猛, 六川 修一, 酒井 直樹, 虫明 成生, 竹下 航
    2024 年 77 巻 p. sp26-sp31
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/16
    ジャーナル 認証あり

     「宇宙や空中からの物理探査(リモートセンシングとドローン物理探査)」というテーマについて解説する。

     まず,衛星リモートセンシングの動向として,民間小型衛星の台頭,衛星コンステレーションの構築,日本の衛星関連プログラムについて述べる。近年,光学衛星やSAR衛星は小型衛星の開発が進み,衛星コンステレーションの構築が進んでいる。これにより近い将来,全世界の常時観測が可能になることを示している。次に,リモートセンシングの活用事例として,防災分野と土木分野におけるSAR活用事例を紹介する。これは,洪水発生時の浸水情報の迅速な抽出技術,地すべり災害の事前検知の可能性,道路構造物の維持管理の効率化である。

     ドローン物理探査は国交省が進めるi-Constructionの後押しもあり土木分野で特に活用が進んでいる。土木分野ではUAV測量(LiDARやLP)の事例が多いものの,物理探査学会では空中電磁探査の事例が多い。また,ドローンは海中探査でも自律型無人探査機(AUV)として活用が進んでいる。ドローン物理探査の活用事例としては,ドローンによる空中電磁探査を利用した台風による崩壊斜面の崩壊機構検討,VTOL機を利用した河川巡視実証実験を紹介する。

     今後の展望として,衛星リモートセンシングはセンサの高解像度化,衛星コンステレーションによる観測の高頻度化,データ提供のリアルタイム性の向上が予想される。ドローン物理探査は観測機器の技術開発の進行と共に,様々な物理探査手法への適用が期待される。これらは災害時の迅速な対応や平時のインフラ監視に役立つと考えられる。

解説
  • 天野 博
    2024 年 77 巻 p. 1-14
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル 認証あり

     Madagascarで提供されている各種の重合前深度マイグレーション(PreSDM)に係るソフトウェアを,岩塩が発達する複雑な地下構造を数値モデル化したSigsbee2aモデルについて,汎用パソコンを用いて適用し,同ソフトウェアの使用上の留意点をまとめると供に,各手法の比較検討を行った。現時点のMadagascarでは,ray theoryをベースとしたPreSDM及びone-way approachのwave theoryをベースとしたPreSDMを稼働させるスクリプトが公開されていることから,これらを使用した。また,今般,JOGMECが参加している「米国コロラド鉱山大学が主催するCWPコンソーシアム」に依頼して作成した「two-way approachのwave theoryをベースとしたReverse Time Migration(RTM)法に基づくSigsbee2aモデル用のスクリプト」を用いて同様の比較検討を行った。近年の傾向として,複雑な地下構造に対するイメージングについて,RTM法が最適とされるケースが多くなっているが,昨今のray theoryやone-way approachのwave theoryをベースとしたPreSDMの技術革新により,RTM法と比較して大きな遜色の無い結果が得られる場合があることを確認した。また,RTM法については,顕著な低周波数ノイズが発生することから,そうしたノイズの抑制に加えて,多大な計算時間の削減が望まれることも併せて確認した。なお,本稿に示した各PreSDMでは,真の速度を平滑化して作成された速度モデルを使用した。

論文
  • 岡本 京祐, 今西 和俊, 石橋 琢也, 青栁 直樹, 鈴木 陽大, 浅沼 宏, 藤澤 萌人, 青木 直史
    2024 年 77 巻 p. 24-39
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/31
    ジャーナル 認証あり

     本研究対象の岩手県葛根田地熱地域を始めとした複数の地域において,地下数kmの浅部にマグマ由来の流体が上昇し,超臨界地熱貯留層(マグマ由来の地熱流体等により構成される非在来型の地熱貯留層)を形成している可能性が指摘されており,開発地域の有力候補の一つとなっている。一方で,地質学,地球化学等の観点からの検討に基づけば,超臨界地熱貯留層の存在可能性が高いことは指摘されているものの,MT探査以外では,物理探査学的観点からの超臨界地熱貯留層の直接的な証拠は見つかっていない。本研究では,葛根田地熱地域における微小地震観測,および自然地震・人工振源を用いた反射法地震探査に基づいて,超臨界地熱貯留層のイメージングを試みた。また,イメージングで得られた反射イベントの信頼性を評価するために,実際に使用した震源・振源・受振点と,得られた反射イベント等を模擬した数値モデルに基づくシミュレーション(波線追跡)を行い,疑似的に反射記録を合成した。これを用いて,P波の多重反射やPS変換波等に起因して発生し得る偽像の影響を検証することで,得られた反射イベントの信頼性評価を行った。その結果,反射法地震探査に基づく手法としては国内で初めて,超臨界地熱貯留層の上面境界に対応し得る反射イベントの検出に成功した可能性が高いことが分かった。

  • 坂上 雄士, 池田 達紀, 辻 健
    2024 年 77 巻 p. 40-48
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/23
    ジャーナル 認証あり

     分散型音響センシング(DAS)は,光ファイバーから振動データを取得できる計測手法である。DASは従来の地震計と比べて,観測点が密に設置しやすいことや,一度光ファイバーを設置すれば何度も振動データを得ることが出来るため費用対効果が高い。本研究では,三陸沖に設置された光ファイバーを用いたDAS観測で得られた23の自然地震データに対して,スペクトルホワイトニングを用いた自己相関解析を適用し,反射面図を作成することで海底下の地下構造を推定した。この際,得られた自己相関関数に対してスタッキング処理を行うことによりS/N比を向上させた。また,自己相関解析の性質上,得られる反射面図は0秒に近い時間で絶対値が大きくなるため,浅い反射面は確認が難しい。そこで,本研究では各観測点で得られた自己相関関数からファイバーに沿った5 km幅の移動平均を算出し,元の自己相関関数からその差分を計算することで浅部に強調される見かけの反射面を抑制した。その結果,本研究では観測地点の一部において基盤構造に起因すると考えられる信号を得ることが出来た。また,雑微動を用いた先行研究では現れていなかった断層の存在に起因する反射波の擾乱や,浅部反射面の存在に起因する反射波を示すことが出来た。これは,自然地震の振動が幅広い周波数で強いエネルギーを持っているため,断層面などで反射したS波が地表まで到達しDAS上で観測出来たことに起因すると考えられる。本研究はDAS観測が高解像度に地下構造を推定することにおいて有用であることを示している。

ラピッドレター
  • 小川 大輝, 平塚 晋也, 浅森 浩一, 島田 耕史, 丹羽 正和
    2024 年 77 巻 p. 15-23
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル 認証あり

     高レベル放射性廃棄物の地層処分において,火山性熱水や非火山性のスラブ起源水の移動経路を地表からの調査を通じて把握することは,処分システムの閉じ込め機能喪失の回避に資する。九州地方の前弧域に位置する宮崎平野及びその周辺には長大な活断層等がほとんど分布せず地下水の顕著な湧出も知られていない。一方で,地震波速度構造や比抵抗構造から,フィリピン海スラブの脱水に起因する流体が上昇することで形成された流体賦存域の存在が地殻内において示唆される。また一部の地下水には,地下深部から上昇するスラブ起源水との関連性が報告されている。こうした九州前弧域の地殻内流体の流入経路となり得る地殻内のクラックの存在や性状について検討するため,当該地域の観測点で取得された震源の深さが20 km以浅の地震の波形に対し,S波スプリッティング解析を適用した。九州前孤域のうち内陸部においては,速いS波の振動方向(φ)が震源メカニズム解に基づく最大水平圧縮応力軸の方向と整合的であることから,S波偏向異方性が地殻応力場にしたがって配向したクラックの存在に主に起因していることが示唆される。一方で日向灘沿岸域では,地殻応力の方向とは異なる北北東-南南西~北東-南西方向または北北西-南南東~北西-南東方向のφの分布が明瞭に認められた。また,各震源と観測点間の平均的な異方性強度も算出した。その結果,霧島火山東方の観測点TAKAZAで取得された地震データからは5.6~7.0%の大きな異方性強度を示す地震波線が少数認められ,それらが火山性熱水の流入経路を反映している可能性が挙げられる。しかし日向灘沿岸域については,各観測点により取得された異方性強度は全て5%を下回ることから,震源から観測点まで連続した流体移動経路を示唆する波線は得られていないと判断される。

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