地下の状況を把握する物理探査は,鉱山や資源探査のみならず,防災関連,洋上風力発電施設,土木・環境調査,CO2貯留適地の調査,そして海底ケーブル敷設など社会インフラ分野に波及しており,ターゲットの把握に必要なスケールに合わせた探査は,克服課題の設定および技術開発やデータ取得に多くの余地があり,研究開発を進める上で分野を跨いだ科学者の連携が欠かせない。
これまで実施された物理探査として,海域で1980年代後半から本邦周辺の浅海域における探査技術の適用が始まり,陸域では1990年代に関東平野における反射法地震探査が精力的に実施された。これと時期を同じくして,会誌物理探査でも1982年の35巻3号や2004年の57巻4号ほかを通して,浅海域での調査における問題点や対策および調査機器の開発について,例えば主に土木建設用の浅海高分解能ディジタルマルチチャンネル音波探査装置の開発,浅海域の電磁法調査,エアボーン時間領域電磁探査を用いた浅海域の基盤深度計測などについて,会員の皆さまに当時の最新の開発動向を紹介した。さらに2008年7月に開催された主要8ヶ国首脳会議(G8)北海道洞爺湖サミット首脳宣言があり,低炭素社会実現のためCarbon dioxide Capture and Storage(二酸化炭素回収・貯留:CCS)に係る革新的技術開発が推進され貯留地に関する検討が進み,そして2020年10月26日の臨時国会において,菅義偉首相(当時)の所信表明演説から温室効果ガスの排出を2050年までに全体としてゼロにする方針が表明されたことを契機に,CCSの貯留適地を対象とした海底下浅層調査への関心が高まった。また海洋再生可能エネルギー発電設備に係る海域の利用の促進に関する法律案が2018年11月6日に閣議決定され,着底式洋上風力発電設備の設置に係る海底地盤調査の検討が進んだ。
そこで物理探査学会会誌編集委員会では,近年において計算機の処理能力やノイズ軽減技術で大きく進展した浅層に関する物理探査技術を用いた探査事例や,地盤調査の開発を取り巻く状況を会員の皆さまにいち早くお届けするため,特集「海底浅層の探査技術と開発」を企画した。簡単に本特集の紹介をしたい。中核となる探査技術に関しては,水中スピーカーを用いた音波探査(鶴),海底浅層高分解能地震探査の開発(寺西ほか),海底微動アレイ探査システムの開発(井上ほか),海底堆積物浅層を対象とした音響探査技術の開発(水野)の4編,また海底地すべりについては,川村が沿岸開発において避けて通れないリスクや課題に加えて最新の研究動向を述べている。エンジニアリング関連は,自己昇降式作業台船(SEP船)を用いた新しい地盤調査法(松原ほか),海底ケーブルルート調査における物理探査の解説(北ほか)の2編が掲載されている。そのほか,大型の物理探査船を用いた浅海調査仕様の解説(池)は今後調査仕様を検討する際,本学会の会員に大いに参考になると思われる。
本特集の著者の皆さまからは,日程調整が難しい中,探査やシステムの開発・研究の最新の成果についてご寄稿頂き,また査読などご協力下さった方々に,会誌編集委員会から厚くお礼申し上げる。今回の特集は,幅広い対象者に親しんでいただける内容として,論文やケーススタディ,そして解説を中心とした構成にしている。本特集が,浅層を対象とした物理探査技術の活躍する海域を大きく広げ,今後開拓すべき技術分野や研究の進め方などを考える一助となれば幸いである。
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