公益社団法人物理探査学会は,2023年5月に創立75周年(3/4世紀)を迎えました。2008年に創立60周年を迎えてから15年,私達を取り巻く社会や国際情勢は大きく変化しています。世界的なエネルギー供給不安や脱炭素社会の実現に向けた急速な動き,パンデミックの発生,地球温暖化に起因する気候変動と災害の激甚化,また,我が国ではさらに高齢化・人口減少社会を迎えようとしており,「持続性」がキーワードとしてますますクローズアップされています。一方,技術面ではデジタル革命,AI革命が急速に進展しています。
このような背景の中,創立75周年記念事業では「持続可能な社会と物理探査」をメインテーマに掲げ,記念式典や祝賀会,記念シンポジウムなどを実施いたしました。
記念シンポジウムでは,「持続可能な社会と物理探査」というテーマの元に,物理探査が適用されている主要な分野を網羅した6つのセッションが設けられました。すなわち,①資源(石油・ガス・金属・地熱),②環境(土壌・地下水・CCS・地層処分),③宇宙や空中からの物理探査(リモートセンシングとドローン物理探査),④防災(斜面・地震防災・河川堤防),⑤土木(維持管理・農業),⑥学術(地球科学・遺跡文化財)です。各セッションにおいて,物理探査技術者とユーザ・発注者の双方が一堂に会し,最新の成果と課題,将来への展望について活発な意見交換が行われました。シンポジウムは,物理探査が社会のさまざまな分野を支える技術として使用されており,特に,エネルギーや資源の安定供給,脱炭素社会の実現とSDGs,環境保全と安全安心の実現,人類の過去と未来への挑戦といった観点から将来への貢献が期待されている,その全体像を把握できる場となりました。そして,物理探査の技術研究をさらに進展させる上で物理探査学会が果たす役割の重要性について改めて認識する貴重な機会となりました。本特集号は,記念シンポジウムのセッションコンビーナに,それぞれの分野について論説または解説を執筆していただいたものです。
「資源」分野の論説「エネルギー・資源の安定供給実現のために物理探査技術が果たすべき役割:不確実な時代におけるエネルギー動向と探査結果の解釈における不確実性」(松島)は,不確実性に包まれた時代において物理探査技術が果たすべき役割について論考し,主観的要素が不確実性を低減する重要な役割を果たすと指摘しています。
「環境」分野の解説「地圏における環境保全のための物理探査技術の役割」(光畑・新部)では,シンポジウムにおける環境セッションの概要を紹介するとともに,環境問題の重要性と物理探査技術の役割や期待が述べられています。
「宇宙や空中からの物理探査」分野の解説「宇宙や空中からの物理探査(リモートセンシングとドローン物理探査)」(吉川ほか)では,リモートセンシングや近年その利用が加速しているドローンによる物理探査について,現状や今後の展望がまとめられています。
「学術」分野の論説「埋蔵文化財研究・保護における物理探査の意義」(金田)は,地中に存在し,可視不能な埋蔵文化財の研究・保護における物理探査の重要性と有効性について,具体例を示しながら分かりやすく論じています。
「防災」分野の論説「物理探査の災害レジリエンス強化への活用」(佐藤)は,令和6年能登半島地震を通じて,創立60周年で取り上げた4つの視点(液状化,斜面崩壊・地すべり,S波速度構造推定,減災)から物理探査の活用や課題について示唆に富んだ考察を行なっています。
「土木」分野の論説「土木分野への物理探査の利用動向と将来展望」(尾西)は,統計情報から土木分野における物理探査の利用動向を分析し,その上で,将来にわたり土木分野で物理探査が利用されるためのポイントについて言及しています。
以上のように,本特集号では,持続可能な社会の実現に向けた物理探査の役割や課題が,網羅的かつ具体的に示されており,我々物理探査学会会員にとって示唆に富んだ内容になっています。本特集号は,不確実性の高い時代における持続性の追求というチャレンジに必ずや役立つものと確信しています。
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