河川由来の堆積物による急速なデルタの拡大や,過剰取水に伴う河川流量の低下により生じるいわゆる「断流」現象など,水環境の変化が激しい黄河デルタ地域において,観測井を必要としない調査方法の一つである比抵抗法を用いて,デルタ地下の塩水淡水分布の評価を行った。また,デルタ地域の地下水を採取し,放射性炭素年代測定を用いてその起源の推定を行った。その結果,比抵抗法の結果より推定される地下水の塩水淡水分布は,実測された地下水の電気伝導度分布と調和的であり,デルタ南部地域の地下浅層部においては淡水が存在し,その他の地域においてはほぼ全域にわたって塩水が分布していることが明らかとなった。この結果と放射性炭素年代測定法により地下水の年代測定を行った結果により,沿岸部においては近年の黄河由来土砂の堆積により取り込まれた海水起源の塩水が,デルタ中心部においては約4000~12000年前頃に地下にとりこまれた地下水が濃縮を経て高濃度の塩水として賦存している状況が,デルタ南部においては内陸からの淡水地下水の供給により淡水が存在している状況がそれぞれ明らかになった。