物理探査
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技術報告
独立成分分析を用いた複合信号の波形分離に関する検討
─地震動と列車振動の混合波形を対象として─
津野 靖士岩田 裕一
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2015 年 68 巻 1 号 p. 39-47

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抄録

  近年,新しい多次元信号解析法として,独立成分分析 (Independent Component Analysis)が注目され,多くの分野で研究・開発が行われている。音響場では会話中に複数の人が同時に発する音の中から特定の音を分離・識別する能力をカクテルパーティ効果 (Cocktail-party effect)と呼び,工学的にはブラインド信号分離 (Blind signal separation)の問題として扱われている。独立成分分析法は,音声や画像,無線通信,脳波などの生体計測信号に対して利用されることが多く,物理探査や地震学の研究分野で利用された例は少ない。一方で,地震記録に混在する地震動とノイズ (例えば,車や列車による振動)の識別や大地震後の余震活動で同時多発的に発生する地震による地震動分離は,ブラインド信号分離の問題であり,このような地震学の課題に対してもカクテルパーティ効果の発展・開発が期待される。本研究では,地震記録に混入した列車振動の分離問題を対象として,観測データを利用した数値実験より,ICAを用いた地震動と列車振動の波形分離に関する検討を行った。
  まず,独立成分分析(ICA)により地震動と列車振動が混在した合成データから地震動と列車振動の分離が可能かどうかを検討した。その結果,理想的な条件の下 (2観測点の距離のみを考慮した混合行列を仮定したBSS問題)では,地震動と列車振動を精度良く分離することが出来た。また, 2つの観測点の振動源に対する距離比が0.99の場合でも,地震動と列車振動を同程度の精度で分離することが出来た。次に,地震動と列車振動の観測データを用いた混合データから地震動と列車振動の分離が可能かどうかを検証した。その結果,地震動と列車振動ともに観測と概ね一致しており,地震動に対しては 0.5Hzから30Hzの周波数帯で観測と分離結果が一致した。地震動と列車振動データの高次統計量である尖度は大きく,それらの頻度分布は優ガウス分布に従っているため,地震動と列車振動を分離する問題に対してICAの利用が適していることが示唆された。

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© 2015 社団法人 物理探査学会
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