社会経済史学
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1883/84年プラハ商工会議所の役員選挙規約改正問題 : 「近代チェコ民族の確立」への分水嶺
長濱 幸一
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2007 年 73 巻 4 号 p. 419-434

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抄録

本稿は,1890年代の「近代チェコ民族の確立」に向けた一大分水嶺として,1883/84年のプラハ商工会議所の役員選挙規約の改正をめぐる,ドイツ人とチェコ人の論争を取り上げる。本稿が明らかにしたのは,次の2点である。第1に,この論争が,工業化と民族対立の双方に根ざす問題であったということだ。ハプスブルク帝国の商工会議所は,州議会・帝国議会議員の選出母体の一つとなっていた。そのため,チェコ人による商工会議所における発言権の拡大の要求は,工業化による彼らの社会経済的力量の高まりを反映していただけでなく,国制問題にも直結する民族利害にも触れるものだった。第2に,帝国政府が,チェコ人との協調に力点を置いた解決を目指していたことだ。商工会議所の自治権を理由に,改正に強く抵抗したドイツ人に対して,帝国政府は,チェコ人の意見を加えた最終案を自ら作成し,議論を収束させた。これは,チェコ人を排除した国家運営が,もはや不可能であり,それまでより踏み込んだ諸民族の対等な関係を構築する形で,帝国の統一性の維持を目指したことを意味しているのである。

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© 2007 社会経済史学会
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