社会経済史学
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日本腕時計産業における高精度時計の大量生産 : 服部時計の事例を中心に(1900-1960年)
ドンゼ ピエール=イブ
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2011 年 77 巻 3 号 p. 407-423

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抄録

本稿では,服部時計グループを事例として,日本における高精度時計の大量生産の成立過程を,戦時期から1950年代を中心に,その前史たる戦前期の状況にも言及しながら分析する。1920年代以降,服部時計による小型時計生産は拡大をとげたが,生産されたのはスイス時計の模倣品であり,またその生産において,同社は中核部品と工作機械をスイス等の国外に依存していた。敗戦後,同社は軍需品生産の経験を持つ大卒エンジニアを採用し,互換性部品に基づく高精度時計の大量生産を目指した。同社や関連の企業は,産官学の連携に基づく共同研究の成果にも支えられ,1950年代半ばに,部品の互換性と,中核部品や工作機械の国産化を実現した。これにより同社は,技術的な対外依存から解放された。1956年に同社が開発した腕時計(Marvel)は,互換性に基づく大量生産品であるにもかかわらず,スイス製品並みの高い精度を誇り,1970年代に同社がクォーツ革命という製品革新を実現するまで,同社の国際競争力を支えた。

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