社会経済史学
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戦間期播州綿織物産地のダイナミズム : 工場からの接近
宝利 ひとみ
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2012 年 78 巻 3 号 p. 445-463

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抄録

本稿は,産地を構成する個々の工場の属性変化と属性別工場群の産地内における構成変化とを長期的に観察することにより,産地としての発展の背景にある工場のダイナミズムを解明しようとするものである。播州は工場の激しい新陳代謝を伴う産地であり,競争による工場の淘汰が産地としての発展に大きく寄与した。産地構成企業の入れ替わりの画期は1927年前後と1932年前後であった。前者は輸出向製品生産が盛んになった時期だが,内地向製品からの転換はリスクを伴う行動であり,転換直後のリスクの高い時期を乗り越えられたものだけが存続可能であった。輸出向綿布の売れ行きはターゲットとする海外市場の激しい状況変化の影響を受け,機業家たちは好況時には大きな利益を得,不況時には大きな損失を被った。1932年前後には新工場が多く設立された。それらは,為替安と創業費の低下に刺激されて他業種から参入してきた工場群と,既存工場の分工場によって構成された。好況時にうまく利益を得た企業は分工場を作り,そこで本工場と異なる製品を生産することで企業全体としてのリスクを分散し,経営の安定化を図っていた。

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© 2012 社会経済史学会
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