社会性昆虫であるシロアリのカースト分化は、共通の遺伝的背景を持つ個体が環境の違いによって明確に異なった形質を示す「表現型多型」の代表的な例である。シロアリの兵隊は他の大ーストと比べて顕著な形態的特徴を特っており、表現型多型による形態の分化とその機構を探るための材料として適している。私たちは屋久島産のオ大シロアリHodotermopsis sjostedtiを用いて、肥大化した頭部と長い大顎を特つ兵隊の形態に注目し、どのような遺伝子発現の変化によって兵隊分化過程での形態変化が引き起こされるのか、という課題に取り組んできた。ディファレンシャル・ディスプレー法によって兵隊分化時に大顎で発現が上昇する遺伝子群を探索・同定し、それらの分化過程における発現量の変化を解析した。また、将来的にはシロアリにおいてもゲノムレベルでの解析が必要になるとの考えから、様々なシロアリのゲノムサイズを測定し比較した研究も行ってきた。これらの研究を紹介するとともに、網羅的遺伝子発現解析などのゲノムレベルの研究の可能性と、生態学・進化発生学とゲノム科学の関係について展望したい。