日本生態学会誌
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最新号
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特集1 花と種子の微生物
  • 武田 和也, 酒井 章子
    2025 年 74 巻 2 号 p. 139-140
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/21
    ジャーナル オープンアクセス
  • 藤川 貴史
    2025 年 74 巻 2 号 p. 141-
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/21
    ジャーナル オープンアクセス
    植物病原体は様々な手段で植物に伝染する。風雨や土壌を介して葉や根部に伝染するもの、虫の吸汁や食害に便乗して伝染するもの等々、植物を取り囲むあらゆる環境を利用して病原体は植物に伝染しようとする。多くの病原体は傷口や自然開口部(気孔や水孔等)から侵入したり、自ら積極的に植物体内に侵入したりするが、これらは宿主の生育や発達のステージによらず起こり得る。一方で、受粉や種子形成といった、植物の繁殖のタイミングをうまく利用して植物体内に侵入する病原体もいる。このような病原体は、すぐに宿主植物に病気を引き起こさずに、花器や種子において生息し、一気に発病する機会をうかがっているものもいる。産業として花粉も種子も国際流通している現状において、花粉や種子に汚染した病原体が広く伝搬されるリスクが高まっており、これによってパンデミックと呼ばれる広範囲に爆発的な被害を出す病害が懸念されるようになった。本稿では、パンデミックを引き起こす病原体の中で、花器伝染や種子伝染することが知られている植物病原細菌に着目し、植物体上での侵入や発病に関する生態や他の常在菌との関わりについて紹介したい。
  • 武田 和也
    2025 年 74 巻 2 号 p. 153-158
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/21
    ジャーナル オープンアクセス
    花器官における植物と微生物との相互作用は種子への微生物の垂直伝播や送粉者の誘引の促進・阻害によって、植物の生存・繁殖に大きな影響を及ぼしている。花上微生物叢(そう)の形成過程に関しては送粉者による分散について盛んに研究がなされてきたが、近年のメタバーコーディング研究の蓄積の中で、様々な要因が花上微生物叢の形成に関わっていることが明らかになってきた。雌しべや雄しべ、花弁などの器官はそれぞれ異なる生育環境を微生物に提供しており、花弁表面のUV反射率などの形質は微生物が直面する環境を変化させる。加えて、宿主植物のパターン誘導免疫等の免疫機構も花上微生物への強い選択圧となっている可能性がある。送粉者や盗蜜者を含む多様な生物と植物の相互作用は微生物に花への分散機会を提供したり、宿主植物の生理応答を促すことで花上微生物の群集組成を間接的に改変しうる。さらに、開花する微環境の違いや周囲に生育する植物といった環境要因は花に運ばれてくる微生物の違いを生むことで、花上微生物叢の状況依存性の原因となっている可能性がある。これらの要因の複合的な作用によって花上微生物群集が形成されると考えられる一方で、これらの要因による微生物叢改変の詳細なメカニズムや宿主植物の生育への影響に関してはほとんど明らかでなく、今後実験的検証を含む多角的アプローチを進めていく必要がある。
  • 中村 祥子
    2025 年 74 巻 2 号 p. 159-184
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/21
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録
    花上に生息する微生物(花の微生物)と訪花動物の関係性に関する研究は、微生物のメタゲノム解析の普及にも後押しされ、2000年以降、急速に発展している。本総説では両者に関する研究を、1.花の微生物群集形成における訪花動物の役割、2.花の微生物が訪花動物の行動や健康に与える影響、3.訪花動物に運ばれる花の微生物が植物の健康や繁殖成功に与える影響、の3つに分類し、研究の歴史と最新の知見を紹介する。花の微生物と訪花動物が相互に影響しあう関係性は、微生物と訪花動物の種の組み合わせによって多様である。さらに、訪花動物の行動は、彼らが直面する環境変動を受けて可塑的に変化するため、野外の訪花動物と植物の相互作用や、相互作用の進化における花の微生物の役割は明らかでない。本総説では、一義的には決まらない、花の微生物による多様な影響の例をできるだけ多く紹介し、訪花動物と花の微生物、植物の間の複雑で興味深い相互作用の世界を案内する。本総説を通じ、花の微生物と訪花動物の研究に残されている広大なフロンティアを感じ、興味を持っていただければ幸いである。
  • 小茂尻 真凜, 酒井 章子
    2025 年 74 巻 2 号 p. 185-192
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/21
    ジャーナル オープンアクセス
    ほとんどの植物器官には多様な微生物が存在し、植物と緊密に影響を及ぼし合い、植物の生態や進化と大きく関わっていることが近年の研究で明らかになってきた。それらの一部は種子を介して親から子へ伝えられるが、種子の微生物については研究が始まったばかりである。種子の微生物の網羅的解析により、多くの植物の種子から見つかる『コア微生物』を始め、さまざまな微生物が種子に存在することが明らかになっている。これらの微生物は、維管束を介して母植物から、花を介して母植物外から、あるいは開花後花以外の経路で環境中から、種子に定着すると考えられている。種子の微生物の中には、発芽した植物に耐病性を付与したり、種子の休眠解除に関わったり、植物の形質を変化させるものが存在する。このことから農学分野での応用も期待されているが、生態学的な視点からの研究はまだ多くない。種子の微生物の生態学的な機能を理解するためには、野生植物の種子の微生物はこれまで研究されてきた栽培植物のものとどう違うのか、個々の種子の微生物叢(びせいぶつそう)にはどのくらいの変異があって、それはどのような要因によるのか、といった研究に取り組むことが第一歩となるだろう。種子は、植物の生活史において、世代を繋ぎ厳しい環境を凌ぐための重要なステージである。種子の微生物の研究は、植物と微生物の共生関係の鍵となる知見をもたらすと期待される。
特集2 無神経な行動生態学
  • 深澤 遊
    2025 年 74 巻 2 号 p. 193-194
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/21
    ジャーナル オープンアクセス
  • 萩原 拓真, 豊田 正嗣
    2025 年 74 巻 2 号 p. 195-201
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/21
    ジャーナル オープンアクセス
    オジギソウMimosa pudica L. は、接触や傷害といった刺激を感じ、刺激の情報を運動器官である葉枕まで伝播させ、素早く葉を動かすことができる。しかし、刺激情報を伝える長距離シグナル分子や、高速運動の仕組みや適応的意義に関しては、あまり理解が進んでいない。筆者らは、広視野かつ高感度の蛍光顕微鏡システムに電気生理学的測定法を組み合わせることで、Ca2+バイオセンサーを発現させた遺伝子組換えオジギソウの葉の、細胞質のCa2+レベルと表面電位の変化を同時に測定した。これらの解析によって、電気シグナルと共役したCa2+シグナルがオジギソウの高速運動を介在する長距離シグナルであることを明らかにした。さらに、薬理学的および遺伝学的手法を用いて高速運動できないオジギソウを作出し、運動の適応的意義について解析した。高速運動できない葉は、高速運動する葉と比較して、約2倍昆虫による食害を受けやすいことがわかった。これらの結果に基づき、筆者らはオジギソウの防御応答の一連の流れを説明する次のようなモデルを提案した。昆虫による食害はCa2+・電気シグナルを発生させ、これらのシグナルが葉枕に向かって伝播し、その後Ca2+によって介在される葉の高速運動が起こる。この高速運動によって、昆虫に対する足場が不安定になり、オジギソウの葉は外敵の攻撃から身を守っていると考えられる。
  • 越後谷 駿, 西上 幸範, 佐藤 勝彦, 中垣 俊之
    2025 年 74 巻 2 号 p. 203-213
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/21
    ジャーナル オープンアクセス
    原生生物とは、概ね単細胞性の真核生物である。単細胞生物といえども必ずしも一細胞で孤立して生息しているとは限らず、複数の細胞が集団で運動したり、構造をつくりあげたり、役割分担をしたりすることもあり、細胞間の協調はすでに認められる。とはいえ、単細胞で生活する能力は保持しており、細胞の行動能力は多様化しているといえる。彼らの生息するミクロな環境は、空間的にも時間的にも決して定常ではなく、変動著しい。たとえば、沼地に住むゾウリムシの住環境は、その体のサイズよりも大きい空間形状や小さい空間形状が複雑に組み合わさってできている。当然、他の生物の往来もあり、水流もあれば、物の流出入も絶え間ない。一方、1日の中で光環境や温度環境は変動する。このように十分複雑な住環境に対して、原生生物は、どの程度対応できるのか、またどのように対応できるかが、ここでの主題である。この総説では、原生生物の環境対応能力の高さについて、変形体性粘菌を中心に、また加えて繊毛虫にも言及して紹介する。
  • 深澤 遊
    2025 年 74 巻 2 号 p. 215-227
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/21
    ジャーナル オープンアクセス
    糸状菌類は、細長い細胞が鎖状に連なった糸状の菌糸と呼ばれる組織が分枝と融合を繰り返して作り上げる菌糸体というネットワーク構造を基本的な体制としている。森林生態系の中で、糸状菌類は枯木や落葉といった植物遺体の分解や、植物の根と共生関係を結ぶ菌根菌として重要な役割を果たしている。菌糸体ネットワークの発達や動態がどのような原理に基づいているのかを理解することは、森林生態系を成り立たせている物質循環や生物間相互作用をよりよく理解する上で重要である。本稿では、1本の菌糸から菌糸体ネットワーク全体で、菌糸あるいは菌糸体の行動特性と、そのメカニズムとしての物質やシグナルの輸送について、わかっていることと今後の課題についてまとめた。伸長成長する菌糸の先端には、極性(成長方向の記憶)があり、それにより迷路を解くといった一見高度な課題も解決することができる。菌糸体全体でも、記憶や決断能力の存在を示唆するデータが得られているが、そのメカニズムに関してはよくわかっていない。菌糸体が形を変化させて行動するためには、不要部分の自己消化と必要部分への物質の転流が必要だが、それらがどのように菌糸体全体で調節されているのか、さらに研究が必要である。菌糸体の行動学は新しい分野であり、課題も多いが、ネットワーク解析手法やマイクロ流体デバイス、バイオイメージングなど新しい技術の発達も著しく、今後の発展が期待される。
  • 潮 雅之, 中嶋 浩平
    2025 年 74 巻 2 号 p. 229-238
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/21
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、ニューラルネットワークを用いたデータ解析法が活発に開発されている。ニューラルネットワークはその応用可能性・性能の高さからあらゆる分野で利用されており、これから益々その応用は広がっていくと考えられる。一方で、低い解釈可能性や高い学習コストなどの欠点も指摘されており、これらを改善するための研究も続けられている。最近、学習コストをかけずに高い性能を発揮できる手法として、リザバーコンピューティングという手法が注目されている。ニューラルネットワークの学習コストのうち大きな部分を占めるのはネットワークを構成するノード間の重みの調整であるが、リザバーコンピューティングは、この重みの調整を必要とせず、高速な学習が可能である。さらに、この「ノード間の重みは固定」という特性を活かして物理物体に計算をさせる物理リザバーコンピューティングという新たな分野も創出されている。例えば、シリコン製の柔らかい物体の動きに情報処理を任せることで、物体を用いたコンピューティングが可能である。また、少数ではあるが生態学に関連した研究でリザバーコンピューティングが用いられ始めている。本論文では、リザバーコンピューティングの概要を解説し、物理リザバーコンピューティングの関連研究を紹介する。また、少数の生態学に関連する研究についても解説し、今後のリザバーコンピューティングの生態学での応用可能性について議論する。
連載 生態教育の今と未来(14)
  • 畑田 彩
    2025 年 74 巻 2 号 p. 239-244
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/21
    ジャーナル オープンアクセス
    本学術情報では、コロナ禍で行われた新たな生態学教育の手法を概観し、今後どのように活用できるか、ポストコロナの生態学教育を展望した。COVID-19は新たな教育方法を考える契機になった。生態学教育でも同期型・非同期型のオンライン授業が取り入れられた。学生の顔が見えないまま授業を行うことに筆者は抵抗があったが、大講義においては、オンライン授業はコミュニケーションツールとしてむしろ有用であった。同期型でも非同期型でも、オンデマンド授業では、チャットなどのツールを介して学生と一対一のやり取りができるため、対面ではなかなかでない質問が多く寄せられ、クラス全体で共有することができた。生物を観察する実習についても、教員の創意工夫により、オンラインで行う手法が編み出された。冷蔵庫の中の野菜やコメの観察、スーパーで買ってきた魚の解剖、教員から送られてきたブロッコリースプラウトの苗の栽培、という3つの事例を紹介した。演習林や農場などに出向いての調査活動は、オンラインで行うには限界があった。各大学あらゆる感染対策を取ったうえで、対面で行われたケースが多かった。ただし、事前学習や事後学習についてはオンラインを活用した大学もあった。野外での調査活動においても、対面とオンラインの併用は、今後も授業形態の一つとなるだろう。最後に、コロナ禍で培ったオンライン技術のノウハウを、ポストコロナで活用する方法として、大講義での双方向性の担保、教室外からの講義、授業コンテンツの共有、緊急時の対面授業の代替の4つを提案した。
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