日本生態学会誌
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原著論文
  • 新井 孝尚, 福澤 加里部, 黒川 紘子, 彦坂 幸毅, 中静 透, 柴田 英昭
    2024 年 74 巻 1 号 p. 1-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
    森林生態系における土壌窒素の形態変化は、生態系の一次生産や養分循環にとって森林生態系における土壌窒素の形態変化は、生態系の一次生産や養分循環にとって重要なプロセスである。本州北部の八甲田山において、標高別の土壌窒素無機化・硝化速度の特性、標高に沿った地温の違いによる速度変化を調べた。標高400$301C1,400 mの範囲で、標高200 mおきに計6地点を調査地に設定した。各調査地においてバリード・バッグ法とレジンコア法を用いて標高別の正味窒素無機化・硝化速度を求めた。正味窒素無機化・硝化速度は標高傾度に沿った単調変化を示さなかった。全体として正味アンモニウム態窒素(NH4-N)の生成が正味硝酸態窒素(NO3-N)の生成よりも高い傾向が認められた。また、土壌内で生成したNH4-Nは降雨浸透によって速やかに下層へ溶脱し、それがNO3-N動態や正味窒素無機化速度に影響を及ぼしていることが示唆された。これらの結果と、標高600 mおよび1,000 mで採取した土壌を用いた現地移動培養実験の結果を組み合わせると、将来の地温上昇によって土壌微生物によるNH4-NやNO3-Nの正味生成速度が上昇することが示唆された。
学術情報
  • 角田 裕志, 江成 広斗, 桜井 良
    2024 年 74 巻 1 号 p. 11-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録
    大型食肉目のオオカミCanis lupusは駆除や生息地破壊によって広域的に個体群が衰退し、欧米や東アジアで地域的に絶滅した。しかし、欧米を中心に保護が行われ、移入によって分布域が回復した地域や、移送による再導入が行われた地域がある。オオカミの復活後に被食者である有蹄類の生息数や行動が変化し、栄養カスケードによって地域の生物多様性や生態系が変化した事例が報告されている。オオカミが絶滅した日本でもその再導入が議論されることもあるが、栄養カスケードに関する日本語の包括的なレビューはなかった。そこで、オオカミの生態的機能を把握する目的で、オオカミ・有蹄類・植物の三栄養段階に関わる栄養カスケードに関する既往の事例をレビューした結果、米国10地域、欧州6地域の計16事例を確認した。このうち12事例において栄養カスケードが支持され、オオカミ復活後に有蹄類(主にシカ類)の個体数の減少や行動の変化によって植物に対する採食強度が減少し、樹木の生長率や生残率の増加または種数の増加が報告された。レビューから、オオカミ復活による栄養カスケードの有無や強度が景観構造や人為撹乱などの影響を受ける可能性が示唆された。その一方で、既往研究では栄養カスケードに関する調査項目が統一されていないという課題があった。今後はサンプリングバイアスや時間的・空間的スケールを考慮した長期モニタリングによる詳細な検証が必要と考えられる。
  • 小野田  雄介, 大西  信德, Kyaw Kyaw Htoo , 穂垣  佑輔, Rahman MD Farhaduhar, 竹重  龍 ...
    2024 年 74 巻 1 号 p. 25-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
    1950-60年台に、吉良竜夫博士らによって「日本を代表する11の樹林型」が、大阪公立大学附属植物園(旧大阪市立大学附属植物園)に造成された。この試みは、大規模な移植実験と捉えることが可能で、同じ環境で様々な樹種を比較でき、また温暖化の長期影響を評価できる貴重な研究機会でもある。それぞれの樹林型は、1978年から毎木調査が5年おきに行われているが、研究報告は少なく、研究者も含めて、その認知度は低い。また、各樹林型は、植栽後、ほぼ自然に任せて生育しているため、植栽木以外にも、自然に加入した個体も混交し、これらは毎木調査の対象になっていない。したがって、この貴重な研究素材を活かすためには、まずは、植栽木だけでなく、樹林型全域の現状を評価する必要があると考えた。近年、UAV-LiDAR(Unmanned Aerial Vehicle - Light Detection and Ranging)による測量技術や、機械学習による画像解析が発展しており、我々はこの技術を取り入れ、広域かつ高解像度の地形図、樹高分布図、樹冠地図、樹種分類図の作成を行なった。本論文ではこの取り組みを紹介する。同様の手法は、森林や緑地の現状評価に応用することが可能であろう。
特集1 再生可能エネルギー促進と生物多様性保全を考える
  • 和田  直也, 吉田  正人
    2024 年 74 巻 1 号 p. 35-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
  • 関島 恒夫
    2024 年 74 巻 1 号 p. 39-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
    地球温暖化対策として、わが国は2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを推進することを宣言した。その実現のために注目されているのが、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの大幅な導入である。特に、わが国は北海道や東北を中心に風況が良いエリアが多いこともあり、風力発電の大量導入が計画されている。一方、世界各地で風力発電の運用が始まるにつれ、生物多様性や生態系サービスに与える影響も顕在化してきた。生物多様性に対する影響については、風車に対する飛翔動物の衝突死などの深刻な影響が多数報告されている。生態系サービスに対する影響としては、家畜の放牧、農地・漁場など供給サービスの喪失や利用制限、あるいは重要な景観への視覚的影響など文化的価値の喪失があげられている。脱炭素社会の実現に向けて、風力発電の一層の導入を図るためには、顕在化しつつある風力発電の問題を速やかに掌握するとともに、有効な対策を適切に施していくことが急務といえる。本稿では、陸上風力発電と洋上風力発電が生物多様性および生態系サービスに与える影響を概説した上で、風力発電による影響が大きいとされる鳥類に焦点をあて、わが国の環境アセスメントで実施されている影響予測の評価手法およびその課題と、風力発電に対する主な影響緩和策について紹介する。
  • 石濱 史子, Ji Yoon Kim, 西廣 淳
    2024 年 74 巻 1 号 p. 51-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
    気候変動緩和は生物多様性保全の観点でも不可欠であり、太陽光発電施設を中心とした再生可能エネルギーの大幅な導入拡大は避けられない一方で、その導入拡大は自然生態系の保全と調和的に進める必要がある。自然生態系への影響を効果的に軽減するためには、個別の施設建設の影響だけでなく、複数の施設が集積した場合の累積的影響も考慮した対策を取ることが重要である。近年のリモートセンシングを活用した太陽光発電施設の分布情報の整備により、累積的影響の評価が進みつつある。当初は位置情報の把握が容易な大規模施設に限った評価が行われ、保護地域と施設立地の重複が世界的に問題視されていたが、中小規模の発電施設の分布情報の整備が進むにつれ、農耕地や草地などの二次的自然への累積的影響が相対的に大きいことが国内外で明らかになってきた。今後、これらの生態系への影響を軽減し、気候変動緩和策としての太陽光発電施設導入拡大と生物多様性の保全を両立していくためには、ゾーニングによる太陽光発電施設建設立地の適正化が必要である。また、二次的自然の多くが既存の保護地域外にあり、今後、二次的自然にも配慮したゾーニングを実現するためには、生態学の専門家が積極的に適切な情報提供を行っていくことが重要と考えられる。
  • 丸山 康司
    2024 年 74 巻 1 号 p. 61-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿の目的は、再生可能エネルギー事業による環境影響について、科学的不確実性と価値の多様性を踏まえた合意形成の方法を示すことである。理論的な整理の方法としてリスクガバナンスの考え方を応用した上で、事実認識と価値判断両方が一意に定まらない場合の合意形成手法として熟議の可能性をしめした。改正された「地球温暖化対策の推進に関する法律」で示されている実行計画とポジティブゾーニングの推奨がリスクガバナンス上も適切であることを示した上で、具体的な課題について検討した。生態学の専門家が貢献する方法として、生態系や生態系サービスについての知見を提供する以外にトレードオフへの対応やネイチャーポジティブの可能性について検討した。
  • 和田 直也, 吉田 正人
    2024 年 74 巻 1 号 p. 65-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
特集2 COP15 昆明・モントリオール生物多様性枠組解説
  • 池上 真木彦, 角 真耶, 石田 孝英
    2024 年 74 巻 1 号 p. 69-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
  • 大澤 隆文, 香坂 玲
    2024 年 74 巻 1 号 p. 71-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
    生物多様性条約の2022年以降の世界目標として、2030年までを対象期間とした「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択された。本稿では、特集の全体背景として、2010年に合意された「生物多様性戦略計画2011-2020及び愛知目標」(以下:愛知目標)と、後継目標となった「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework、以下:KMGBF)を、SMART(Specific/Measurable/Ambitious/Realistic/Time-bound)という観点で比較・概説した。その結果、KMGBFは、10の定量要素(30by30を含む)から構成され、愛知目標の4個(追加的に決定された要素を含む)から増加する等、相対的にSMARTなものになっていた。また、保護地域外の空間保全、遺伝子(遺伝的多様性)、海洋等の諸要素も反映し、愛知目標より包括的になっていた。更にこの枠組、資源(資金)動員及び遺伝資源に関するデジタル配列情報(Digital Sequence Information、以下:DSI)の利用から得られる利益配分に係る議論との関係については、KMGBFの議論過程において、途上国が資源(資金)動員及びDSIの利用から得られる利益配分に係る議論の進展を求め、これらがKMGBFに盛り込まれた。
  • 池上 真木彦, 角 真耶, 石田 孝英, 山野 博哉, 香坂 玲, 石濱 史子, 亀山 哲, 小出 大, 小林 邦彦, 富田 基史, 角谷 ...
    2024 年 74 巻 1 号 p. 85-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
    カナダモントリオールで開催された第15回COP15において「昆明・モントリオール生物多様性枠組(Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework:KMGBF)」が採択された。KMGBFは現在の生物多様性の危機を打開し回復基調に乗せるため、30by30などの野心的な目標を多く設定されており、また4つのゴールと23のターゲットのうち、2つのゴールと8つのターゲットが数値目標となっている。先住民や女性といったマイノリティへの配慮が各所に見られ、気候変動枠組条約や持続可能な開発目標(SDGs)等の要素も加わりより包括的な目標となっている。また、KMGBFでは、各国の達成度合いを測定するため世界共通で利用される指標が用意され、その報告と評価のためのプラットフォームも準備されていている。このため、KMGBF全体として愛知目標に比べてSMART(Specific Measurable Ambitious Realistic Time-bound)であると言える。その一方で、包括的であるがために文章が長く複雑となり、目標間で重複する要素も多く差異がわかりにくいものも生じている。また各国で共通して利用可能な指標を優先したためか、目標達成を測るには適さないと考えられる指標も散見され、その一部は今後開かれる専門家会議に委ねられることとなっている。本稿では採択された目標・ターゲットとその達成の目安となる指標に着目し、各目標と指標を愛知目標と比較しつつ、その要点と今後必要な情報、そして国内での整備状況や内外の動向などを解説し、KMGBF達成のために必要な行動を考えるものである。
  • 富田 基史
    2024 年 74 巻 1 号 p. 111-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
    昆明・モントリオールグローバル生物多様性枠組(KMGBF)の資源動員目標では、年間7,000億ドルの資金ギャップを解消(ゴールD)するため、有害な奨励措置の廃止(ターゲット18)と新たな公的資金や民間資金の動員(ターゲット19)が掲げられた。ターゲット19では、途上国に対する国際的な資金、国内資金、民間のそれぞれについて目標が設定され、途上国への国際的な資金については、2025年までに年間200億ドル、2030年までに年間300億ドルという、数値目標が設定された。一方、KMGBFの実施に向けた資金の大半を占める国内資金や民間資金については、数値目標は設定されなかった。これらを動員する手段に位置付けられるのが、生物多様性の主流化である。KMGBFでは、政策や民間等(ターゲット14)、企業の情報開示(ターゲット15)、持続可能な生産や消費(ターゲット16)の3つが掲げられた。特にターゲット15は、KMGBFで新たに追加された要素である。情報開示が追加された背景には、パリ協定を出発点とする気候関連情報開示の影響がある。気候変動分野では、企業による情報開示を受け、金融機関が排出削減のための資金供給を行う流れが形成されつつある。そしてこの流れは、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の発足を始め、生物多様性分野にも波及しつつある。
  • 友居 洋暁, 石井 颯杜, 大澤 隆文
    2024 年 74 巻 1 号 p. 123-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
    生物多様性条約の「昆明・モントリオール生物多様性枠組(以下:KMGBF)」は、「枠組」という名前を冠しているとおり、単なる目標に留まらず、取組を進めていく上での透明性を高めるメカニズム等も含む、包括的な内容となった。本稿では、強化された計画・モニタリング・報告・レビュー制度(PDCAサイクル)について概説し、同制度が今後の我が国の国家戦略や施策の実施、日本国内のステークホルダーに与えうる影響について考察した。まず、各国の義務であった生物多様性国家戦略と国別報告書については、ガイダンスに沿って内容を標準化することが決まった。特に、世界目標の達成に向けて重点的なモニタリングが必要な項目(指標)を念頭に置いた計画策定・報告が求められることとなり、各国の取組の透明性や比較可能性が強化されることとなった。また、KMGBFの実施状況の進捗を点検する機会(グローバルレビュー)が生物多様性条約第17・19回締約国会議(COP17・COP19)に併せて実施されることが新たに決まり、その点検結果を踏まえて、各国が自ら国家戦略の内容等を改善しうることとされた。これらの要素が揃ったことで、自然環境政策においても一定のPDCAサイクルが国際的に確立された。今後は生態学から経済活動に及ぶ幅広い諸データやこれらに立脚する学術研究が、政策の実施状況の進捗や成果を客観的かつ比較可能な形で把握するのに貢献することが期待される。
連載 野外研究サイトから(41)
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