雌雄の形質の違いは、性淘汰や性的対立など、同種他個体間の相互作用を反映するものとして捉えられてきた。しかし、形質に雌雄差がある種では、他種との関わりも性別により異なる可能性がある。またその結果、雌雄差が複数の種からなる群集構造に影響を及ぼすこともありうる。雌雄差は種内の現象、群集は種間の現象として、別々に研究される傾向があり、雌雄差と群集構造の関係についてはあまり実証されてこなかった。この関連を明らかにすべく花形質に雌雄差がみられる雌雄異株植物、ヒサカキEurya japonica Thunb.を対象に研究を行っている。本総説で紹介する研究は、ヒサカキの花を食害するソトシロオビナミシャクChloroclystis excisa Butlerの幼虫が雄花でしか見つからないことの発見から始まった。この発見を起点に、花の雌雄差が花食性昆虫や送粉性昆虫、花蜜内微生物に与える影響、昆虫や微生物が植物の繁殖成功に与える影響などを解明した。これら一連の研究から、ある一種の生物の雌雄差は多岐にわたる分類群から成る生物群集に影響を与え、また逆に、群集が雌雄差の進化に影響を与える可能性があることが示唆された。今後、様々な生物種を対象として、生物間相互作用網を介し雌雄差と群集がどのように関わりあっているのかを調べることで、群集形成過程や雌雄差の進化をより深く理解できると期待している。
長野県松本市牛伏寺において人為的に断片化された小規模ブナ林の更新動態を明らかにするため、林分構造とブナの種子生産特性を把握した。胸高断面積合計(調査面積0.555 ha、樹高≧3 m)は66.15 m2/haで、アカマツが48.2%、ブナが22.0%、コナラが18.0%を占めた。胸高直径分布はアカマツが25–85 cmに偏り、コナラは25–30 cmにピ一クをもつ一山型、ブナは95 cmまで連続的でL字型を示した。低木層(樹高0.5–3 m)ではブナ1個体のみが確認され、更新は停滞していた。これは、2000年頃までのスズタケによる被圧と、その後のシカ食害の影響と考えられる。稚樹(樹高<0.5 m)では、ナラ類(コナラ・ミズナラ)が全域に分布し、密度は0.47個体/m2であった。ブナ稚樹は全体の約3割の区画で確認されたが、密度は0.0176個体/m2と極めて低く、ほとんどが8年生以下であった。アカマツ稚樹はごく少数しか確認されなかった。2005–2024年の既報の種子モニタリングではブナの豊作はなく、並作が2回のみだった。先行研究が指摘する遺伝的多様性の低下により稔性が劣ると推察される。ブナの更新は困難であり、今後はナラ類が優占する林分への遷移が進むと予想されるが、シカの食害が続けばその更新も停滞する可能性がある。
遺伝資源に関するデジタル配列情報(DSI)とは、遺伝資源のアクセスと利益配分(ABS)の文脈で使われる用語である。少なくともDNA配列情報を含むことが各国の共通認識となっているが定義はされていない。生物多様性条約では、2022年の第15回締約国会議(COP15)で、DSIの使用を利益配分の対象とする多数国間メカニズムの構築が決定された。それに続き、2024年のCOP16では、利益配分を行うための具体的なメカニズムが決められた。この決定によって、DSIの利益配分は、名古屋議定書のような二者間(提供者–利用者)ではなく、多数国間メカニズムという国際的に統一された基準の下で、公的データベースのDSIを対象として行うこととなった。学術研究機関は金銭的利益の供試者としての義務は免除されたものの、公的データベースの管理者はユーザーへの情報提供を行う必要があり、データベースへのDSIの登録者には配列の公開が禁止されていないという確認を求める内容となっている。本稿では、このようなCOP16でのDSIの利益配分に関する決定について、おもに学術機関の研究者を対象に解説を行う。