2008 年 58 巻 3 号 p. 231-236
国際地球観測年(IGY:1957/58)を契機に開始されたわが国の南極地域観測事業は、現在半世紀を超え、南極域での各種自然科学に関する研究・観測が展開されている。その活動拠点としての「南極昭和基地」の名称は、広く国民に知れ渡っていることと思う。ここで研究・観測活動に携わるためには、「日本南極地域観測隊員」として国家事業を担うべく職務を委嘱され、砕氷船に乗り、現地へ向い、ひと夏(11月〜3月)、あるいは1年4ヶ月間活動をするのが一般的なスタイルであった。近年になって傭船での南極海観測、航空機を用いた南極への研究者の輸送、大学院学生の野外研究実施のための同行者参加など、「南極観測」は時代に合わせて多様化してきている。これらを受け、来年、新たな砕氷船が就航されるのを機に、国立極地研究所はこの先の南極観測を(1)開かれた南極観測、(2)先進的な南極観測、(3)安全で効率的な南極観測、(4)国際連携する南極観測、(5)情報発信とアウトリーチ、という5つのキーワードを掲げ、南極観測新時代のグランドデザインを描きなおそうと取り組んでいる。本稿ではここ10年ほど、ほぼ毎年のようにこの南極昭和基地での観測活動に携わってきた研究者(工藤)と、大学院生として南極での野外研究を実施してきた学生(田邊)という二つの視点から生態学的野外研究サイトとしての「南極」を紹介してみたい。