森林の種多様性を説明するモデルの1つに成長と生存のトレードオフモデルがある。このモデルは、明るいギャップで成長率が高い種は林内では生存率が低く、逆に暗い林内で生存率が高い種は明るい林冠ギャップでは成長率が低いといった、光環境傾度に沿った成長と生存のトレードオフを仮定している。ギャップが形成された光環境の不均一な森林でこの関係が成立すれば、これらの種は共存できるというものである。林内での生存率には病原菌や植食者などに対する被食防衛能力、あるいは一旦被食された後での再生能力が大きく関わっている。しかし、これまで、防御や被食後の回復のためにどれくらい植物が投資しているのかについての知見は少なく、防御・貯蔵両者への分配を同時に測定した研究は少なかった。そこで、耐陰性の異なる落葉広葉樹2種の実生を対象に、ギャップと林内での成長・防御・貯蔵への炭素分配パターンを調べた。ギャップと林内の両方で、耐陰性の高い種は低い種に比べて成長よりも防御へより多く炭素を分配し、逆にギャップで耐陰性の低い種は成長に多く分配した。このような種間の物質分配パターンの違いが結果的に成長と生存のトレードオフを成立させているものと考えられた。さらに、耐陰性の高い種では貯蔵より防御に優先的に炭素を分配していた。これら2種の物質分配パターンの違いは、個々の種にとって最適な物質分配パターンがあることを示唆している。