日本生態学会誌
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特集1 カルタヘナ議定書にある「生物の多様性の保全及び持続可能な利用への影響」はどのように評価できるのか?
細菌群集多様性の動態を生態系評価にいかにとりこむか
横川 太一
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2016 年 66 巻 2 号 p. 301-308

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抄録

細菌群集は生態系を構成する3機能群(生産者、消費者、分解者)のひとつである分解者の役割をおもに果たしている。細菌群集は地球上において生物量として優占し、その代謝を介して有機物を無機物へ変換する能力が、生態系における物質循環過程の大きな枠組みの1つを構成している。また近年の16S rRNA遺伝子を基にした系統解析からは、この生物群が系統的に非常に多様であることも明らかになりつつある。しかし細菌群集の生物地球化学的な重要性が理解される一方で、その多様性の時空間分布および変動要因に関する普遍的な知見は少ない。そのため生態系の保全という観点において、細菌群集多様性の機能とその重要性についての議論はほとんどされていない。  現時点における「生物多様性の保全」を目指した規定(例えば生物多様性条約)の作成は、生産者および消費者として存在するマクロ生物(肉眼で観察することのできる生物)の多様性を対象にした生態系将来予測と、そこから導かれる生態リスク評価に基づいている。つまり現在の「生物多様性の保全」という観点には分解者である細菌群集の多様性は含まれていない。そこで本論文では、まず生態系の分解者としての機能を担う細菌群集の特徴とその重要性について紹介する。つぎに多様性の評価方法を中心に、細菌群集多様性の研究のこれまでの歩みと現状を整理する。そして最後に、本特集号の企画趣旨(松井・横川 2016)において示された、「生物多様性を対象とした生態学研究の成果を基にした生態リスク評価」の一環として、細菌群集多様性の動態を定量的に観測することの重要性を示し、定量的観測値を基にした細菌群集多様性の把握が生態リスク評価の指標の一つとして重要な要素になることを説明する。

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© 2016 一般社団法人 日本生態学会
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