日本生態学会誌
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特集1 外来種の定着プロセス-森林、河川、湖沼、草原に侵入した 外来種の侵略性と多様性
照葉樹林に侵入した外来木本種の拡散にニホンジカが与える影響
前迫 ゆり
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2022 年 72 巻 1 号 p. 5-

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抄録

本稿では,照葉樹林に侵入した外来種として、国内外来種ナギNageia nagi (Thunb.) Kuntzeと国外外来種ナンキンハゼTriadica sebifera (L.) Smallの拡散と定着について述べる。春日山原始林に隣接する御蓋山の天然記念物ナギ林から拡散したナギは照葉樹林に侵入し、シカが採食しないことから、数百年かけて拡散し、イチイガシQuercus gilva Blume林の一部はナギ林に置き換わった。ニホンジカCervus nippon subspp.の採食環境下において、耐陰性の高い常緑針葉樹ナギ林から照葉樹林に戻る可能性はきわめて低いことから、この植生変化はシカの影響による森林の不可逆的変化ともいえる。一方、1920年代に奈良公園に植栽されたナンキンハゼは奈良公園一帯および春日山原始林のギャップに広域的に拡散し、ナンキンハゼ群落を形成している。照葉樹林における空間分布の調査から、生態的特性が異なる外来木本種2種の拡散を定量的に把握した。シカの不嗜好植物でもある外来木本種の群落形成にはシカが大きく関与していると考えられた。過密度シカ個体群が生息する照葉樹林の保全・管理についても議論する。

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© 2022 一般社団法人 日本生態学会

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