2022 年 72 巻 1 号 p. 85-
海洋環境は深度によって温度が大きく異なり、水柱内を自由に移動する能力のある魚類は深度を変えることで能動的に体温を調節することができる。また、身体が大きい魚ほど熱慣性が大きくなり、好適温度外の環境中に滞在できる時間が長くなる。本研究では、魚類が好適温度外の環境にいる餌を利用する際の効率的な採餌様式について、深い潜水を行って深海性のクラゲ類を食べるマンボウMola molaを例として、体温調節の観点から考察した。マンボウが潜水を行って餌のいる低水温の深場で採餌した後に高水温の海面付近で体温を回復することを1回の潜水サイクルと定義し、潜水時間を変化させた時に餌場滞在時間、移動時間、海面滞在時間の時間割合がどのように変化するかのシミュレーションを行った。潜水時間が短いと移動時間の割合が増え、潜水時間が長いと体温回復に要する時間の割合が増加し、餌場滞在時間を最大にするような潜水時間が得られた。この潜水時間は、餌場が深くなるほど長くなり、また体サイズが大きくなるほど長くなると推定された。これは餌資源ではなく熱資源を効率的に利用することで採餌に充てられる時間を最大化するという最適採餌理論の一例になると考えられる。