日本生態学会誌
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降雨時とその後の森林で起こる生理生態学的現象の解明に向けて
東 若菜 上原 歩香川 聡河合 清定才木 真太朗Jiao Linjie南光 一樹
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論文ID: 2406

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要旨

降雨や霧の発生頻度が高い場所は日本列島をはじめ地球上に数多く存在しており、広い地域で年間100日以上も植物表面が濡れていることが報告されている。一方で、光合成や物資分配、成長といった植物のふるまいは、晴天時の「理想的な」条件で調べられることが多い。固着性である植物がさらされる変動環境でのふるまいを理解するためには、晴天時だけでなく降雨時とその後植物体が乾いていく期間にも着目する必要がある。本総説では、複雑な立体構造を持つ樹木と森林を対象に、降雨開始から降雨直後にかけて森林内で起こる、物理的および生理的な現象を明らかにするための先進的な試みによってわかってきた知見を概説する。樹冠の濡れ具合は、樹冠通過雨における雨滴のサイズ分布から推定することが可能である。葉が濡れた後、雨水の一部は葉から吸収され有機物に固定されるが、降雨中および降雨直後に形成された葉バイオマスの多くは、葉から吸収した水に由来することが重水ラベリング法によって明らかになった。また、降雨中および降雨直後の森林では個葉の光合成速度が低下することが示唆されているが、エンクローズドパス型分析計を用いた解析により、森林全体のガス交換フラックスが降雨中でも大きくは低下しないことが明らかになってきた。以上のような先進的な技術の活用と分野横断的な情報交換によって、雨の日に森林で起きている様々な生態学的現象の理解が進むと期待できる。

Abstract

Rainfall and fog are common in many regions worldwide, including the Japanese archipelago, and plant surfaces remain wet for more than 100 days annually in many areas. To date, most knowledge about plant processes such as photosynthesis, biomass partitioning, and growth is based on observations under ideal sunny conditions. A comprehensive understanding and prediction of plant responses in fluctuating environments requires investigating plant behaviors under both sunny and rainy conditions, but the quantification of physiological and physical processes in forests during rainfall can pose technical challenges. This review summarizes recent advances in elucidating physical and physiological phenomena within forests from the onset of rainfall to the immediate aftermath, focusing on trees and forests with complex three-dimensional structures. Wetting processes within the forest canopy can be estimated by analyzing throughfall drop size distributions. After leaf wetting, rainwater is absorbed by the leaves and assimilated into organic matter. Isotope labeling experiments have revealed that a substantial portion of leaf biomass that forms during and immediately after rainfall originates from absorbed water. Some studies of individual leaves have reported lower photosynthetic rates in forests during and immediately after rainfall, while analyses based on enclosed-path analyzers have revealed minimal decreases in overall forest gas exchange flux during rainfall events. We anticipate that integration of advanced technologies and cross-disciplinary information exchange will improve understanding of the diverse ecological phenomena occurring in forests on rainy days.

はじめに

一般的に野外へ調査に行くのはどんな天気のときだろうか。晴れや曇りの日が選ばれがちだが、調査中に雨に降られた経験がある方も少なくないのではないだろうか。実際に、日本で1年間に1 mm以上の雨が観測された日数は、2022年の都道府県平均で112日と少なくない(総務省統計局 2024)。野外で雨に降られたときには、木の下での雨宿りは定番である。枝葉のある樹冠の下に入り、足下を見ると地面が濡れていないことに気づき、上からは大小さまざまな大きさの雨粒が葉や枝からしたたり落ちてくる。地面に落ちた雨粒が樹木の水資源となることは想像に難くない。では、地面に到達しなかった雨は一体どこへいってしまうのだろうか。葉を濡らした雨は蒸発するばかりで、葉に吸収されることはないのだろうか。葉が濡れていても森林の光合成は変わらないのだろうか。降雨は頻繁に発生するイベントであるにもかかわらず、雨の日の森林のふるまいについては意外にも良く分かっていないことが多い。

これらの疑問に答えるためには、雨によって樹木がどのように濡れていくかや、降雨中の生理特性の測定が不可欠であるが、技術的な困難さから研究事例は限られていた。一方、森林における降雨中や降雨後の水文学的研究と樹木の水利用に関する生理生態学的研究は、これまで各分野での知見が蓄積されてきていることから、分野横断的な情報交換が促進できれば、雨の日に森林で起きている様々な生態学的現象の理解が進むと考えられる。そこで本総説では、樹木や森林の降雨応答について最新の技術を用いて明らかになってきた知見を共有し、降雨開始から降雨直後にかけて森林内で起こる物理的および生理的な現象を明らかにするための先進的な試みについて、分野横断的に概観する。まず、雨が降ると樹木がどうやって濡れ、林内雨が生まれるのか、雨滴や植物の濡れのプロセスについて着目したい。続いて、雨由来の水がどのように樹木に吸収・利用されるのかについて、同位体分析を用いた研究により明らかになってきた知見を概説する。最後に、気象観測タワーを用いて、降雨直後から濡れた樹冠が乾くまでの過程において、森林群落レベルの蒸発散やガス交換の生理応答に過程に着目する。

雨が降ると森林はどうやって濡れていくのか

樹冠に降る雨(以降、林外雨と表現する)は樹冠に到達後、樹冠通過雨、樹幹流、遮断損失の3つの要素に再分配される(図1)。樹冠通過雨は森林の中で雨滴の集合体として降ってくる雨であり、樹幹流は幹を伝って流れてくる雨である。一方で、遮断損失は、樹冠に到達した雨の一部が地面に到達することなく、その場からの蒸発や植物体への吸水により失われる量のことである。通常、森林水文学の分野では樹冠への水の付着量を樹冠貯留量(canopy water storage)と呼ぶが、植物生理学では葉や幹などの植物体内に水を貯留する性質やその量を貯水性や貯水量と呼ぶため、これらを混同しないように本稿では付着雨水量と表現する。温帯において、年降水量に対する遮断損失率は、落葉樹で11~36%、針葉樹で9~48%である(Hörmann et al. 1996)。日本の代表的な造林種であるヒノキChamaecyparis obtusa(Siebold et Zucc.)Endl.やスギCryptomeria japonica(Thunb. ex L.f.)D.Donでは、年降水量に対して、樹冠通過雨率は59.9~84.2%(Sun et al. 2017)、樹幹流率は2.4~21.9%(Jeong et al. 2020)、遮断損失率は14.4~26.1%である(Saito et al. 2013)。これらの量や配分比は森林構造や気象環境によって変動し(Crockford and Richardson 2000)、この樹冠遮断プロセスや樹冠による降雨の再分配プロセスを明らかにすることが森林水文学の目的の一つである。本節では、樹木が濡れていく様子を、樹冠による再分配プロセスに沿って説明する。なお詳細は、南光(2020, 2022)も参考にされたい。

図1. (a)樹冠の降雨分配プロセスと樹冠通過雨を構成する3成分(直達、飛沫、滴下)。(b)雨滴粒径分布を活用した樹冠通過雨の成分分離。ヒノキ林で測定した一例。Fig. 1. (a) Tree throughfall partitioning into free throughfall, splash throughfall, and canopy drip. (b) Drop size distributions for the three throughfall types and open (non-canopy) rainfall. Data were derived from measurements taken in a cypress forest.

濡れ・付着

濡れとは、固体表面に接触している気体が液体に置き換えられる物理現象である。雨滴や雨水が植物表面に到達すると、その場にあった空気が水に置き換えられる。植物表面の濡れ性は、樹種によって違い、同じ樹木でも若い葉と年を取った葉とで違い、また葉と枝とでも違う(Klamerus-Iwan et al. 2020)。濡れやすい葉や枝の上では水滴が広がりやすく、植物表面に水膜ができることがあるが、濡れにくい葉や枝の上では水滴はそのままの形状を維持して広がりにくく水膜ができない(Holder 2020)。この違いは、植物表面の表面張力の大きさによって決まる(図2)。植物表面に水滴が付着する場合、水滴は自らの表面積を最小限に保とうとして球状になろうとする。しかし、植物表面に存在する表面張力が水滴を引っ張ることで、その形状が変化する。表面張力が高い植物表面では、水滴に対する引っ張る力が強くなるため、水滴は平らな形状に近づく。このような植物表面は撥水性が低い。一方、表面張力が低い植物表面では、水滴に対する引っ張る力が弱く、水滴はより球形に近い形状を保つ。この時の水滴面と固体面とのなす角を接触角といい、固体表面の撥水性の程度を示すバロメータとして用いられる。接触角の値により葉の濡れ性が分類されている(表1)。ちなみに、葉の高い撥水性は、表面のワックスのような化学的な影響もあるが、微細な凹凸構造やトライコームの存在により葉表面と水滴との間に空気が入り込むことで水と葉表面の接触がさらに起こりづらくなるという物理的な影響も大きい(例.ロータス効果、ペタル効果)(Neinhuis and Barthlott 1997)。

図2. 撥水性の違いによる付着水滴の形状Fig. 2. Differences in water drop shape caused by variation in leaf water repellency.
表1. 接触角による葉の撥水性の分類(Aryal and Neuner 2010に基づく) Table 1. Classification of leaf water repellency by droplet contact angle (based on Aryal and Neuner 2010).

接触角(°)分類
<40Superhydrophilic(超親水性)
40–90Highly wettable(非常に濡れやすい)
90–110Wettable(濡れやすい)
110–130Non-wettable(濡れにくい)
130–150Highly non-wettable(非常に濡れにくい)
>150Superhydrophobic(超撥水性)

撥水性が低いほど植物表面で水を引っ張る力が大きいため、より多くの水を保持することができる。撥水性の低い葉ほど、単位面積当たりの葉表面への水の付着量が大きく(Holder 2013)、より大きな滴下雨滴を形成する(Nanko et al. 2013)。また、枝は葉よりも撥水性が低いため、より大きな滴下雨滴を形成する(Nanko et al. 2016; Levia et al. 2019; Nanko et al. 2022)。植物表面の水の保持において枝葉の傾斜の影響は大きく、傾斜が大きいほど水滴が滑落しやすく水の付着量が小さくなり(Konrad et al. 2012)、風が強い時の方が枝葉の揺れの影響で滴下雨滴が小さくなる(Nanko et al. 2006)。

濡れの進行に伴う、林内の雨の生まれ方

一般的には、雨が降ると樹木は上から順に濡れていくが、樹木の構造は複雑であり、その濡れ方は単純ではない。樹冠が濡れていく様子を直接観察することは難しいため、濡れが進行する過程で林内において雨がどのように発生するかを考察する。雨の降り始めは、樹冠の隙間をすり抜けて直達雨が地表に到達する。この直達雨は、枝や葉に触れずに地面に直接届く雨である。次に、樹冠に付着した雨水が枝葉から滴下してくる滴下雨や、雨滴が枝葉に衝突して破砕されることで飛沫雨が発生する(Levia et al. 2019)。また、枝葉で付着した雨水は枝を伝って幹へと集まり、樹幹流として地表に達する。樹冠が「ろうと」のように雨を集めて根元に雨を集中させるため、根元周辺の狭いエリアだけに着目すると、林外雨として降る雨量に対して樹幹流により平均的に10~15倍、時には100倍以上の水量が集中する(Carlyle-Moses et al. 2018)。これにより、根元周辺では集中的に水が侵入し、森林域の根の動態、さらには栄養塩循環にも影響を与える(Carlyle-Moses et al. 2018)。なお、樹皮に凹凸が多い樹種、幹にコケが繁茂している樹木、また一次枝が幹から鉛直下向きに傾斜する樹木では、樹幹流量が少なくなる(Hutchinson and Roberts 1981; Levia and Germer 2015; Dezhban et al. 2020)。

次に、樹冠通過雨に焦点を当てる。樹冠通過雨は、直達雨、滴下雨(大粒径化した雨滴)、飛沫雨(小粒径化した雨滴)の3つの成分で構成され、林外雨に比べて雨滴サイズの多様性が高い(図1)。林内でも雨滴のサイズと落下速度を測定できるレーザーディスドロメータ(ディスドロメータとは雨滴を測定する機器を意味する専門用語)が開発され(Nanko et al. 2006)、これまで国内外の様々な森林で雨滴が測定されてきた(Levia et al. 2019; 南光 2020)。そして、林内外で測定した雨滴データを活用して、樹冠通過雨の成分を分離する手法が開発された(Levia et al. 2019)。具体例として、アメリカブナFagus grandifolia Ehrh.林での秋から冬にかけての林内雨滴の解析を行った研究例を以下に示す(Nanko et al. 2022)。落葉が進むにつれて直達雨の割合が増加し、粒径4–6 mmの雨滴の量は減少したが、粒径6.6 mm以上の雨滴の量には変化が見られなかった(図3)。これは粒径4–6 mmの雨滴は主に葉から生じ、粒径6.6 mm以上の雨滴は主に枝から生じていることを示唆している。降雨イベント内の時間経過にともなう樹冠通過雨の成分変化を分析した結果、粒径が小さい滴下雨は少量の降雨で発生し量が少なく、濡れ始めてからすぐに発生していた。そして濡れが進むにつれてこれらの雨滴の割合が増加し、より多くの葉が濡れて滴下雨を生成していることが観測された。一方で、粒径が大きい滴下雨は生成に必要な降雨量が多く、濡れが進んでもその割合は変わらなかった。これは、枝が濡れても滴下雨を生成する滴下点の数があまり変わらないことを示している。

図3. アメリカブナ林で測定された樹冠通過雨の直達雨、飛沫雨、主に葉から生成された滴下雨、主に枝から生成された滴下雨の林外雨量に対する比の季節変化。Nanko et al.(2022)を改変。Fig. 3. Seasonal changes in the ratios of the three throughfall types compared to open rainfall. Data were derived from measurements taken in American beech forests (modified from Nanko et al. 2022).

また、雨滴の落下速度を測定することで、その雨滴がどの高さから落下してきたのかを推定できる。雨滴は、落下距離に応じて落下速度が増加し、例えば粒径3 mmの雨滴は、林外では8 m/s程度の落下速度に達するが、その速度を得るのに約12 mの落下距離が必要である(Wang and Pruppacher 1977)。樹高12 m未満の下層の枝葉や低木やで発生する滴下雨は、これよりも遅い落下速度で地面に到達する。滴下雨の落下速度を分析したところ(Nanko et al. 2008)、滴下雨の発生が始まった際には落下速度が速い雨滴が多く、樹冠上層からの滴下が確認された。雨が続くにつれて、滴下雨の落下速度は多様化し、樹冠の様々な高さから雨滴が滴下していることがわかった。林外雨が止むと、樹冠への雨の供給が途絶え、樹冠上層からの滴下雨が減少し、樹冠下層からの滴下雨が観測された。滴下雨は枝葉が十分に濡れていないと発生しないため、樹冠通過雨の雨滴の測定結果から、樹木のどの高さの枝や葉が十分に濡れていたかを推定することが可能である。

今後の展望

ここまで述べてきた通り、樹木が雨により濡れていく過程を詳細に把握するためには、雨滴データの活用が有効である。今後は、フラックス観測や森林水文観測のサイトで雨滴を同時に測定することで、現場で起きている濡れと乾きの現象の理解が進む。また、葉面吸水やガス交換の観点から、葉がどのように濡れ、どれだけの時間滞留し、そしてどのように乾いていくかを理解することが、森林生態系全体の水分動態を把握する上で重要である。雨滴データは、この一連のプロセスの理解に貢献する。

さらに、レーザーディスドロメータは雨滴を非破壊で測定できるため、測器の下に容器を設置すれば、雨滴を測定しながら雨を収集でき、栄養塩濃度や安定同位体比との関連を探ることができる。これにより、濡れと乾燥のプロセスに対する理解が深まる。特に、水の安定同位体比を通じて、蒸発強度や樹冠通過雨の特性をより詳細に解析することができる。樹冠で蒸発が起きるため、樹冠通過雨の酸素安定同位体(18O)は林外雨よりも大きい。ヨーロッパアカマツPinus sylvestris L.林での一例ではあるが、降雨イベント内での変化を見ると、降雨初期で飛沫雨が多いときほど18Oの濃縮が進むことを確認している(Pinos et al. 2020)。

樹冠通過雨の雨滴はこれまであまり注目されてこず、実測例が少なかった(Levia et al. 2017)が、最近追随する研究が出てきた(Zabret et al. 2017; Brasil et al. 2022; Alivio et al. 2023)。今後は、異なる国や気候帯、様々な樹種や森林構造における測定事例を増やし、樹木の濡れ過程の解明をさらに進めていく必要がある。また、LiDARデータや写真を用いた樹木の3D再現技術を活用し、雨が樹冠を通過した際に地表に与える衝撃エネルギーを推定する手法の開発も進行しており(Senn et al. 2020)、これもまた今後の研究の重要な方向性となるだろう。

降雨が植物に取り込まれてから樹木のバイオマスを構成する酸素・水素になるまで

前節では、雨滴がどのように樹木を濡らすかについて解説した。本節ではこの雨がその後どのように樹体内に吸収され、有機物の形成に利用されるかを説明する。

セルロースを構成する酸素原子・水素原子の起源

植物は葉から取り込んだ二酸化炭素(CO2)と、根から吸い上げた水(H2O)を原料として、太陽の光エネルギーを利用した光合成反応により、糖(C6H12O6)などの炭水化物と酸素(O2)を生産する、と多くの生物学の教科書で言及されている。光合成は簡略化すると以下の化学反応式で表せる。

  
(1)

ここで糖を構成する酸素原子は二酸化炭素の酸素原子ではなく、植物中の水の酸素原子が起源であり、糖を構成する水素も水の水素原子が起源であることが分かっている(Deniro and Epstein 1979)。ちなみに光合成により生産される酸素ガス(O2)も水の酸素原子が起源である(Ruben et al. 1941)。葉内では、二酸化炭素の酸素原子と水の酸素原子は速やかに交換するが、葉内の二酸化炭素の酸素原子の数は水の酸素原子の数に比べて無視できるほど小さいため、二酸化炭素の酸素原子の寄与の割合はほぼゼロとなる(Deniro and Epstein 1979)。

セルロースをはじめとする植物バイオマスは、主に炭素・酸素・水素で構成されており、例えば平均的な木材の元素構成比は、重量比にして炭素が50%、酸素が43%、水素が6%、それ以外の元素が1%である(原口 1985)。植物バイオマスの半分を構成する炭素の起源についてはよく分かっている一方、残りの半分を構成する酸素・水素の起源となる水がどこから吸収されるのかについては、有効な研究手法が少ないという問題もあり、最近まで謎に包まれていた(Dawson 2022)。

そもそも、陸上に生育する維管束植物はどこから水分を吸収するのだろうか。教科書にある光合成を説明する図では、陸上に生育する維管束植物が利用する全ての水は、根から吸収された水だと描かれている(図4a; Simon et al. 2018)。ところが、今世紀に入ると植物が有意な量の水を葉や表皮を含めた地上部全体からも吸収しうることが明らかにされた(Burgess and Dawson 2004; Binks et al. 2020)。前節で述べた樹冠遮断損失の要因の一つに、葉面からの水分吸収があると考えられている(Breshears et al. 2008)。

図4. (a)従来の光合成の図、および(b)Kagawa(2022)の結果から予想される修正を加えた光合成の図。セルロースを構成する酸素原子・水素原子のうち、根から吸収された水起源のものを赤色で、葉から吸収された水起源のものを青色で示してある。Kagawa(2022)を改変。Fig. 4. (a) Idealized schematic of photosynthesis processes showing root water uptake as the sole source of hydrogen and oxygen in plant biomass. (b) Suggested modification shows foliar uptake as an additional water source. Red and blue coloring indicates oxygen and hydrogen atoms within cellulose derived from water absorbed from the roots and leaves, respectively (modified from Kagawa 2022).

では、葉から吸収された水分もセルロースの酸素・水素の起源となりうるのだろうか。実際、曇りの日だけではなく、雨の降っている間も、昼間は光合成生産を行うのに十分な量の放射量があり、実際に光合成が行われていることが分かっている(Ishibashi and Terashima 1995; Hanba et al. 2004)。そして、葉面から吸収された水が、樹体内に一時的に存在する非構造性の有機物である糖を構成する酸素の起源となりえることが、最近解明された(Lehmann et al. 2018)。しかしながら、樹体の大部分を占め、半永久的に存在する細胞壁のような構造性の有機物(セルロース等)については未解明だった(Dawson 2022)。その理由として、従来の研究は1種類の重水(または同位体比が非常に小さい水)しか用いなかったため、植物バイオマスへの葉面吸収水と根吸収水のそれぞれの寄与の割合を定量することは困難だったことが挙げられる。そこでKagawa(2022)は2種類の重水を用いた世界初の試みにより、上記の疑問に対する答えを探った。

2種類の重水を用いる新しいラベリング方法

Kagawa(2022)が行った実験では、梅雨期間中に、重い酸素の同位体が多く含まれる水(H218O)をスギ苗木3本の葉から吸収させ、同時に重い水素の同位体が多く含まれる水(2H1HO+2H2O)を根から吸収させた。酸素と水素の化学的性質の差が実験結果に影響を及ぼすかもしれないので、スギ苗木をもう3本追加し、上下の重水を入れ替えて同様の実験を行った。葉内の水の重水濃度の経時変化を測定したところ、葉の表面が重水により濡れ始めてから12時間以内に葉内の水の約4割が重水に置き換わることが分かった。次に、重水を3日間与えてから数週間~数か月後に採取した葉、根、枝の木部を乾燥・粉砕したもの、およびこれらから抽出したセルロースに含まれる重い酸素の同位体(18O)と重い水素の同位体(2H)の濃度を測定した。そして、これらの値を用い、乾燥試料およびセルロース試料中に取り込まれた重水起源の酸素・水素全体のうち、何割が葉面吸水起源で、残りの何割が根吸水起源であるかを計算した。すると驚いたことに、葉のセルロース中の重水起源の酸素・水素のうち、69%が葉面吸収させた重水起源、31%が根から吸収させた重水起源であり、逆に根ではそれぞれ20%、80%、木材ではそれぞれ55%、45%という結果が得られた(図4b、乾燥バイオマスでも同様の傾向が見られた)。言い換えると、降雨中および降雨直後に形成されるバイオマスに限れば、葉は主に葉面から吸収した水で、根は主に根から吸収した水でできており、枝部の木材は葉から吸収した水と根から吸収した水を半分ずつ使ってできていた。このような結果になった理由だが、我々は以下のように考察している。糖が師部を通って葉から樹体各部に転流され、形成層で細胞壁(セルロース)が形成されるまでの間に、糖(例えばスクロース)は他の物質(ホスホグリセリン酸、でんぷんなど)に変換されたり、再び糖に戻ったりする。この相互変換反応が降雨時~降雨直後に繰り返される結果、糖の酸素・水素の多くは周囲の水(形成層付近の水など)の酸素・水素と入れ替わってしまう。降雨時および降雨直後は、図4bのように葉面吸収水が樹体上部に多く分布しているので、成長が旺盛な樹体の上部(葉に近く、根から遠い部位、枝先や頂端など)で形成されるセルロースには葉面吸収水起源の酸素・水素が多く取り込まれたと考えられる。一方、降雨直後に陸上植物が光合成により生成する酸素ガス(O2)の一部もおそらく葉面吸収水が起源であることが推定される。わたしたちが木の下で雨宿りしている間に呼吸する酸素の一部は、葉から吸収された水から出来ているのかもしれない。

今後の展望

Kagawa(2022)が行った実験は梅雨期などの雨が多い時期に植物に起こる現象を解き明かしている。梅雨期間中は曇りや雨の日が多く、蒸散量が少ないため、樹体の上部(葉に近く根から遠い部位)には葉から吸収された水分が、樹体の下部には根から吸収された水が停滞している、という状況(図4b)が長時間続く。また、根から吸収された水分に比べ、葉から吸収された水分の割合が大きい幹や枝の頂端は、比較的成長が旺盛である部位でもある。一方、樹木が成長する、すなわち細胞が膨らんで大きくなるためには、細胞内の膨圧が高いことが必要である。このような状況が起こるのは、晴れた昼間の膨圧が低いときではなく、葉に結露が起こる夜間や降雨中および降雨直後の膨圧が高いときであり、この時に樹木の伸長および肥大成長が起こることが知られている(Zweifel et al. 2021)。タケノコが降雨後の一日で1メートル以上も成長することからも分かるように、植物は降雨中および降雨直後は非降雨時に比べて数倍以上のスピードで成長することもあり、スギでも梅雨期間中は伸長成長速度が最大になることが観測されている(酒本ほか 2020)。以上をまとめると、1)梅雨期間中は樹体上部には葉から吸った水が多く分布しており(図4b)、2)そのような条件下でシュート先端部の旺盛な成長が起こる結果、3)細胞壁(セルロース)に葉から吸った水起源の酸素・水素が多く取り込まれると考察できる。日本のような湿潤な気候条件下で生育する樹木を含む維管束植物では、梅雨期以外の成長期全体を通して見ても、そのバイオマス中の酸素・水素全体に占める、葉から吸収された水を起源とする酸素・水素の割合は従来の想定(Simon et al. 2018)よりも多い可能性がある。

そして、今後の研究により、成長期間全体を通して見た場合でも葉面吸収水の寄与の割合が無視できないという結果が得られた場合、将来、教科書の光合成の図は図4bのように修正されるのかもしれない。二種類の重水を用いて葉面吸収水および根吸収水を別々に標識し、必要に応じて液体窒素で樹体を凍結し、樹体内の重水の分布を同位体分析により経時的に明らかにできる新しい手法(Kagawa 2022; Xiang et al. 2024)は、樹木が水分を吸収してから、その水をバイオマス形成に使うまでのプロセスの研究に応用でき、今後樹木水分生理学、森林水文学、同位体年輪気候学などの多分野でのブレークスルーが期待できる(Dawson 2022)。当面は日本が同手法を応用しながら、「雨の日の生態学」の研究を推し進めることであろう。

降雨による葉の濡れが森林生態系のガス交換にどのように影響するのか

前々節で述べたように、降雨が地面に到達する前に植物の葉や枝、林床で捕捉されることを遮断損失と呼び、日本を含むアジアのモンスーン地域の森林の地上部の水収支における主要な構成要素である。そのため、葉の濡れによって光合成能力が低下するなど、植物の蒸発散や光合成にどのように影響するかについてはこれまで多くの研究がなされてきた(例えば、Ishibashi and Terashima 1995; Hanba et al. 2004; Aparecido et al. 2016, 2017; Yokoyama et al. 2018; Berry and Goldsmith 2019)。一方、これら個葉レベルの研究と比較して、葉の濡れが生態系規模のガス交換にどのような影響を与えるかについての研究例は少ない。本節では、雨の日とその後における生態系規模のガス交換の計測および解析について、ヒノキ林での研究例(Jiao et al. 2021, 2023)を中心に説明する。

生態系規模のガス交換の計測と評価

生態系規模のガス交換の連続的かつ長期的な観測には、渦相関法(eddy covariance; EC)が広く用いられている(Baldocchi et al. 2001)。一般的に用いられるオープンパスやクローズドパスのガス分析計は、降雨時や降雨後の安定性や精度に欠けるため、雨の日のデータが欠損することがある。例えば、滋賀県南部のヒノキ林では降雨による欠測が1年の17%を占めた(仙福ほか 2018)。そのため、遮断損失が生態系規模のガス交換に与える影響は未解明な部分が多い。一方、近年開発されたエンクローズドパス型ガス分析計(例えば、LI7200、Li-Cor社、米国)は、測定セルが装置の内部にあることで防水仕様であり、EC法を用いた生態系ガス交換の測定精度と安定性を高めることができる(Burba et al. 2010)。また、葉レベルでの測定と比較して、樹冠レベルのガス交換の観測では、降雨時のみならず降雨後の時間経過にともなうガス交換の連続的な変化について、森林生態系における気象変化と対応させながらよりよく理解することができる。

Big-leafモデルによって算出される群落コンダクタンス(gc)は群落全体を一枚の葉と見立てて気孔コンダクタンスをアップスケールし(Monteith 1965)、晴天時における森林と大気との間のガス交換の評価に広く適用されている(例えば、Baldocchi and Amthor 2001; Kosugi et al. 2007, 2013; Jiao et al. 2018)。また、光合成経路からgcを推定する拡張Big-leafモデルは、樹冠が濡れた後の時間経過にともなうgcの変化に対する気象要因の影響を評価できる(Kosugi et al. 2005)。一方、Big-leafモデルと比較して、多層モデルは森林群落をいくつかの垂直的な層に分割し、これらの層を介したガス交換を推定する。多層モデルは複雑なパラメータを必要とするが、森林のガス交換を駆動する要因の解析に広く用いられている(例えば、Kosugi et al. 2006, 2013; Kumagai et al. 2006)。樹冠が濡れているときのガス交換や樹冠のどの層が濡れているかを評価するためにも、遮断損失を考慮した多層モデルが広く適用されてきた(Tanaka 2002; Park and Hattori 2004; Kume et al. 2008)。

濡れた樹冠におけるガス交換

近年、エンクローズドパス型分析計を用いることで、降雨時を含む森林のCO2および蒸発散の連続観測が実施されてきている(Jia et al. 2015; Ouimette et al. 2018)。降雨時のヒノキ林においてはCO2の吸収が観測され(仙福ほか 2018; Jiao et al. 2021)、雨によって濡れたヒノキの樹冠においても光合成が維持できていることを示している。ヒノキ林では、降雨後の濡れた樹冠における正味の生態系CO2交換量(net ecosystem exchange; NEE)の平均値は、晴天時の乾いた樹冠における平均NEEよりも小さかったものの、総CO2吸収量の約7.2%(152 g C m−2)、時間比率にして19.5%を占めていた(Jiao et al. 2021)。つまり、いくつかの先行研究で報告されているように濡れた樹冠では光合成は低下するものの(Dawson and Goldsmith 2018)、樹冠が濡れている期間の炭素吸収の累積量は無視できないといえる。濡れた樹冠の光合成が低下する理由としては、気孔が水に覆われる(Ishibashi and Terashima 1995; Letts and Mulligan 2005)以外にも、Hanba et al.(2004)は豆の葉を濡らした後にルビスコ量が減少することも報告している。しかし、ヒノキにおいてこのメカニズムは検証されていない。

一方、樹冠内の葉では、気孔が多く分布する背軸面は降雨を遮断しにくいことが推測される(Berry and Goldsmith 2019)。針葉樹の場合、鱗片葉の隙間から水滴が流れ落ち、向軸面で遮断蒸発を起こす可能性がある。Jiao et al.(2023)は、ヒノキの葉の向軸面のみで遮断蒸発が起こる場合と、向軸面と背軸面の両方で遮断蒸発が起こる場合の2種類のモデル(図5)から、樹冠が濡れている時のヒノキ林の遮断蒸発をシミュレーションした。その結果、降雨強度が大きくなるにつれて、葉の向軸面での遮断の確率が高くなっていた。葉の背軸面は向軸面よりも遮断損失が少なく、葉の両側による遮断は樹冠内で均一でない可能性がある。

図5. 樹冠が濡れているヒノキ林の遮断蒸発における2つのモデル。(a)モデル1は一般的に適用されているもので、降雨が葉の向軸面のみで遮断されることを仮定。(b)モデル2は降雨が葉の向軸面と背軸面の両方で遮断されることを仮定。Jiao et al.(2023)を改変。Fig. 5. Conceptual models of interception by the wetted crown of a Japanese cypress forest. (a) Conventional model, assuming interception by the adaxial side of leaves. (b) Modified model, assuming interception by both the abaxial and adaxial sides of leaves (modified from Jiao et al. 2023).

乾いた直後の森林のガス交換

Jiao et al.(2021)では、ヒノキの樹冠の各層の葉に濡れセンサーを設置して、樹冠が濡れている時間帯を特定することで、樹冠の濡れが終了して直ぐ、すなわち、樹冠が乾いてから“0~3時間”、“3~6時間”、“6時間以降”の3段階におけるヒノキ林のgcと潜熱フラックス(λE)について調べた。その結果、“0~3時間”のgcとλEの平均値は“6時間以降”よりも高い値を示した(表2)。いずれの季節においても、“0~3時間”のgcの平均値は乾いてからの3段階の中で最も大きく、特に夏に顕著であった(13.3 mm s−1)。λEについても、特に夏において“0~3時間”が最も大きく(250 W m−2)、樹冠が乾いてからの3段階による違いは冬に最も小さくなっていた。NEEからは、春と夏は秋と冬に比べ、“0~3時間”のCO2吸収量が大きいことがわかった。また、λEと大気飽差(VPD)の相関を見ると、季節を通して、λEの値は同じVPDの下では“0~3時間”が“6時間以降”よりも高かった。また、樹冠が乾いてからの3段階によるλEとNEEの乖離は、春から冬にかけて小さくなった。gcはVPDや純放射量(Rn)との関係において、季節を通して“0~3時間”で大きな値が観測され、特に春と夏で顕著であった(図6)。2017年と2018年のNEEをまとめた結果、“0~3時間”は日中の総CO2吸収量の9.1%(191 g C m−2)、時間比率にして5.5%を占め、“3~6時間”は総CO2吸収量の6.0%(126 g C m−2)、時間比率にして4.6%を占めた。このように樹冠が乾いた直後のガス交換量が増加した主要因のひとつは、気孔コンダクタンスの増大であり、これは“0~3時間”から“6時間以降”までのgcおよびNEEの変化に反映されていた。一般的に、降雨後の気孔コンダクタンスの低下は降雨終了によってVPDが増大することに起因するとされているが(Turner et al. 1984; Monteith 1995; Grossiord et al. 2020)、VPDが同じであっても、濡れが終了してからの異なる段階の間でλEgcが一致しないことがあることが明らかとなった。したがって、降雨後の樹冠が乾くときにgcが低くなる理由は、降雨終了によるVPDの増加だけでは説明できないことがわかった。一方、樹冠が乾いた直後の最初の数時間に観測された高い気孔コンダクタンスは、葉が濡れた後の高湿度やVPDの低さといった周囲の微環境が寄与していると考えられる(Kawamitsu et al. 1993; Munne-Bosch et al. 1999; Hanba et al. 2004)。さらに、樹冠が濡れている時に葉面吸水や蒸散抑制によって葉の水ポテンシャルや水分量は改善され(Breshears et al. 2008; Berry et al. 2014)、葉温調整によって光合成の最適温度に近づき蒸散による水分損失は抑制される(Dawson and Goldsmith 2018)ことが知られている。そのため、葉が濡れることで、乾いた直後の気孔コンダクタンスは大きくなり、森林のガス交換に寄与する可能性がある。

表2. 各季節における、樹冠の濡れが終了してからの時間にともなう、ガス交換に関わる指標の15分間の平均値。Jiao et al.(2021)の改変。 Table 2. Gas exchange variables (15-min averages) for different stages after rainfall (modified from Jiao et al. 2021).

ガス交換に関わる指標樹冠の濡れが終了してから春(4~6月)夏(7~9月)秋(10~12月)冬(1~3月)
群落コンダクタンス(gc, mm s−10~3時間12.213.311.211.9
3~6時間11.79.77.510.9
6時間以降7.610.37.68.2
潜熱フラックス(λE, W m−20~3時間1362509267
3~6時間1461895960
6時間以降1172006853
正味の生態系CO2交換量(NEE, µmol m−2 s−1濡れているとき−1.3−2.9−4.5−1.6
0~3時間−8.9−9.8−7.5−5.3
3~6時間−9.3−6.2−6.7−7.3
6時間以降−4.7−7.9−7−6.1
図6. (a, b)春(4~6月)および(c, d)冬(1~3月)における樹冠の濡れが終了してからの時間ごとの大気飽差や純放射量にともなう群落コンダクタンスの変化。Jiao et al.(2021)を改変。Fig. 6. Relationships between canopy conductance and (a, c) atmospheric vapor pressure deficit and (b, d) net radiation during three stages after rainfall in (a, b) spring and (b, c) winter (modified from Jiao et al. 2021).

今後の展望

雨の日とその後の生態系規模のガス交換について、樹冠が濡れている期間を特定し、濡れた葉において光合成を測定するための標準的で体系化された手法が確立されていないことから、測定値の取得とモデル化については様々な不確実な要因の影響を潜在的に受けている可能性がある(高梨ほか 2003; Jiao et al. 2024)。たとえば、本節で概説してきた温帯ヒノキ林でのモデリングにおいては、濡れた葉から光合成関連のパラメータを得ることは困難であったことから、乾燥した葉で測定されたパラメータが適用されている。つまり、これらのモデルは、濡れた葉の表面が乾いた後にガス交換が生じることを仮定しており、モデル化されたガス交換パラメータと気孔コンダクタンスの妥当性を担保することを意味する。今後の研究では、降雨があっても濡れなかった葉の背軸面の気孔コンダクタンスが、降雨中やその後に実際にはどのように変化するのかを明らかにするため、気孔コンダクタンスの測定精度を改善することや部分的に濡れている葉の観測方法を検討していく必要がある。

モデリングにおける潜在的な不確実性に加えて、樹冠の濡れの程度を正確に測定することも課題に挙げられる。上述したように、樹冠の各層の葉に設置した濡れセンサーによって樹冠の濡れている期間を検出する方法が考案されているが、センサーの設置数には限りがあるため、樹冠全体の正確な評価は困難である(Jiao et al. 2023)。葉に設置した濡れセンサーでは、センサー表面上の水分の有無を検出することで葉の濡れを評価するが、センサーと葉ではその物性の違いにより表面における水分とエネルギーバランスの相互作用が異なる可能性がある。そのため、センサーによって樹冠が乾いたと判断された時点の評価精度には限界があるかもしれない。また、葉の背軸面は向軸面よりも付着雨水量が小さいため(Holder and Lauderbaugh 2023)、モデルのシミュレーションにおける樹冠の濡れは終了して直ぐの時点で、葉の背軸面はすでに乾いている可能性がある。今後の研究ではシミュレーションと実測との値のギャップをより小さくするべく、葉の背軸面の付着雨水量に関するパラメータを改良し、葉の向軸面の濡れている表面積の比率との関連性について評価する必要がある。

濡れた樹冠のガス交換についての研究は、観測からシミュレーションへ、そして現象からメカニズムへと進展してきている(Binks et al. 2021; Nakai and Lai 2024)。地球温暖化における降水の大きな役割(Boulton et al. 2022)を考えると、異なる降水シナリオに応じてこれらのガス交換モデルをさらに最適化することで、様々な生態系や生物相にまたがる広域な研究に適用することができる。葉レベルの研究に比べて、異なる種や様々なタイプの生態系を対象とした群落レベルのガス交換に関する研究は未だ不足している。今後、生態系レベルのガス交換の研究では、生態系の気象やフェノロジーの影響にも留意することで、気候の変化に伴う生態系機能をより適切に評価することが期待される。

まとめ

植物は土壌水だけでなく植物表面に付着した水も利用することが明らかとなってきた。これまでも、砂漠に生育する低木の中には空気中の水分を獲得している樹種がいることや(Mooney et al. 1980)、セコイアメスギSequoia sempervirens(D.Don)Endl.やスギが樹高を高くできるのは、高い位置の葉や枝で空気中の霧や雲の微粒水滴が付着し貯水することができるためだと考えられてきた(Ishii et al. 2014; Azuma et al. 2016)。最近では、これらの一部の植物だけでなく、世界中のさまざまな生態系で葉表面からの水吸収が確認されている(Berry et al. 2019)。そして本総説で説明したように、1)雨によって樹木は樹冠から濡れ始め葉や幹に水を保持することができ、保持できない水は樹冠通過雨か樹幹流を形成することや、2)雨の日に樹冠上部の葉が濡れることで吸収された水が糖やセルロースに利用されること、そして3)雨によって樹冠が濡れている期間は光合成能力が低下するものの、炭素吸収の累積量は無視できないことが明らかになっている。このように、植物がどのくらいの雨を集め、利用しているかを評価できるようになってきた。

一方で、雨を効率的に利用するための植物の特性や、雨の利用が成長や生存戦略にどのように関連しているのか、植物の生理生態学的な理解はまだ不十分である。さらに、植物の表面が濡れる現象は雨だけでなく霧や朝露も関与し、降雨として観測されない植物表面の濡れ現象は、世界中で年間100日以上も起こっていることが知られており(Dawson and Goldsmith 2018)、植物の濡れ現象に対する関心は尽きない。今後は、本総説が概観してきた、植物が濡れる際の水文学的プロセスから、濡れた樹木による資源分配や物質生産のパラダイムシフトや、群落スケールでの生理応答の変化のみならず、分野横断的な視点が相互に組み合わさり、雨の日の植物のふるまいが解き明かされることが期待される。

謝辞

本稿は2022年3月に開催された第69回日本生態学会大会における自由集会「植物生理生態—雨の日の森林に思いをはせてみませんか?—」での発表と議論を発端としている。集会に参加してくださった多くの方々に感謝いたします。京都大学・小杉緑子博士には原稿の一部において助言をいただきました。本解説で紹介した筆者らの研究成果の一部は、JSPS科研費(JP17780119、JP05J11212、JP15H05626、JP17KK0159)、JSPS外国人招へい研究者(S16088)、日本林業技術協会学術研究奨励事業、JST/CREST「森林荒廃が洪水・河川環境に及ぼす影響の解明とモデル化」及び「荒廃人工林の管理により流量増加と河川環境の改善を図る革新的な技術の開発」、US Fish and Wildlife Service Agreement (122004J001)、日本学術振興会科学研究費補助金(20H00434)、コカ・コーラ財団、農林水産研究会議プロジェクト「農林水産分野における気候変動への影響・緩和・適応に関する技術開発」の助成を受けたものである。

引用文献
 
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