日本生態学会誌
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長野県中部における断片化した小規模ブナ林の更新動態
帶刀 彩奈井田 秀行
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論文ID: 2407

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抄録

長野県松本市牛伏寺において人為的に断片化された小規模ブナ林の更新動態を明らかにするため、林分構造とブナの種子生産特性を把握した。胸高断面積合計(調査面積0.555 ha、樹高≧3 m)は66.15 m2/haで、アカマツが48.2%、ブナが22.0%、コナラが18.0%を占めた。胸高直径分布はアカマツが25–85 cmに偏り、コナラは25–30 cmにピ一クをもつ一山型、ブナは95 cmまで連続的でL字型を示した。低木層(樹高0.5–3 m)ではブナ1個体のみが確認され、更新は停滞していた。これは、2000年頃までのスズタケによる被圧と、その後のシカ食害の影響と考えられる。稚樹(樹高<0.5 m)では、ナラ類(コナラ・ミズナラ)が全域に分布し、密度は0.47個体/m2であった。ブナ稚樹は全体の約3割の区画で確認されたが、密度は0.0176個体/m2と極めて低く、ほとんどが8年生以下であった。アカマツ稚樹はごく少数しか確認されなかった。2005–2024年の既報の種子モニタリングではブナの豊作はなく、並作が2回のみだった。先行研究が指摘する遺伝的多様性の低下により稔性が劣ると推察される。ブナの更新は困難であり、今後はナラ類が優占する林分への遷移が進むと予想されるが、シカの食害が続けばその更新も停滞する可能性がある。

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