2022 年 21 巻 1 号 p. 21-27
現状の前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament: ACL)損傷に対する治療のGolden Standardは,自家腱を用いた外科的再建術である.この事実はここ30年以上変わっていない.しかしながら,様々な理由から手術による治療を希望しない患者も多いというのが現実であるが,最終的には放置すれば変形性膝関節症の発症リスクが高まるという懸念から,止むを得ず再建術を選択している.これに対し著者は,完全損傷ACLを自己治癒へ導く保存的治療法の確立へ向け,前臨床動物モデルによる実験を行ってきた.この成果を所属機関のホームページにて公開すると,実験動物を用いた基礎研究であるにもかかわらず,多くの患者から保存的治療について直接問い合わせを頂いた.幸いにしてその中の何名かの方々については,メール等で連絡をとりながら経過を追わせていただくことができた.当然ながら,全ての方々を最後までフォローできたわけではないが,中にはこまめに経過をご報告頂き,幸にして非常によく治癒する結果となり,スポーツ活動などへも問題なく復帰した例が複数あった.本稿では,そのような患者の経過について紹介することで,ACL損傷に対する自己治癒を目的とした保存的治療法の現在について概観したい.