抄録
湯のし専門家によって施される布の伝統的な地直し処理の湯のし工程におけるスチーム・セット時の布の伸長率が布の構造上の変化にあたえる影響についての研究がなされた.そして, 湯のし専門家の意味深い技が, 湯のし処理にともなう布構造の変化という面から概略明らかにすることが試みられた.その結果は次のようである.
(1) 地直し処理の施された布のタテ糸方向の伸長率ε (W) と同じくヨコ糸方向のε (F) は直線的である (γ=0.979) .
ε (W) =a・ε (F) +b, (a, b; 定数)
ここに, aおよびbは, 湯のし工程において湯のし専門家によって通常施される布のヨコ糸方向およびタテ糸方向の伸長率と個々に関連する.そして, 本報ではε (W) より容易に計測しやすいε (F) が地直し処理布の伸長率のバロメーターとする妥当性を述べた.
(2) 布の厚さ, 目付および糸密度はε (F) の増加につれて大幅に減少する.
(3) 布の斜行度および弧形度のε (F) の関係曲線は, V字形を示す.ここに, これらの曲線の最低値は, 湯のし専門家によって通常施される布のε (F) のポイントである.
(4) 布の空隙率は, 湯のし工程中におけるε (F) の増大によって減少する.湯のし工程で湯のし専門家によって通常施される布の伸長率は, 上述の布の空隙の減少するなかで布のかたさに関連する布のヤング率Eの著しく増加しない極限の値である.