それは子供の頃のことである.降りたての真白い雪を食べてみたくてしかたがなかった.一と握りの雪をみつめていると, あわてるように母が寄ってきて「雪の中には虫がいるから食べてはいけないよ」と云った.母は, かなり怖ろしい語気で虫のいる訳を話しつづけたようだったが, 話の内容はおぼいていない.
真白い雪.こんなきれいの雪の中に虫なんかおるものか, 雪山へ登って水がほしいときなどには雪をすくって食べる.そのたび毎に「虫なんかいない」と心の中で, 母に言訳をしながら食べている.-これは大人になった今でもそうである.