雪氷
Online ISSN : 1883-6267
Print ISSN : 0373-1006
大陸性氷河における通年蒸発量
大野 宏之大畑 哲夫
著者情報
ジャーナル フリー

1994 年 56 巻 4 号 p. 341-351

詳細
抄録

大陸性氷河における蒸発量,融解量,再凍結量を通年(1992年5月14日~1993年5月13日)にわたって熱輸送数値モデルと気象データから計算した.その結果,タングラ山脈Xiao Dongkemadi氷河の平衡線付近では,融解期に74±10mm,非融解に46±14mmの蒸発が推定された.この地点では年消耗量の約10%が蒸発によると推定される.より乾燥した気候下の西コンロン山脈Chongce氷帽の末端付近では,この割合は30%以上と推定される.湿度が低い条件下では,氷河が受け取る熱量は増えるが,消耗量は減少することが数値実験から示された.大陸性氷河には非融解期に氷河氷が露出するものがあるが,その場合蒸発量は3∼5倍に増加する.氷の露出は引き続く融解期の内部涵養も妨げる.気象要素によって,蒸発量に強い影響を与える季節は異なる.水蒸気圧のそれは融解期で,日射量のそれは非融解期である.これは,蒸発が与えられる熱量と拡散のための環境の二つの条件により律速されていると考えることで理解できる.Xiao Dongkemaidi氷河の日蒸発量は春と秋に1~1.5mmの極大を示すが,緯度や乾燥度が違う氷河では,秋の極大が無い季節変化や春の極大が遅い季節変化も考えられる.

著者関連情報
© 公益社団法人 日本雪氷学会
前の記事 次の記事
feedback
Top