抄録
フィルン中では空気成分が重力分離するため,氷床コア中の気泡の空気組成は自由大気のものと微妙に異なる.氷床コアから空気を抽出することにより過去の大気組成の変動を正しく再現するためにはその効果を補正する必要があるが,窒素同位体を用いた補正法について紹介した.また,氷床コア中の気泡とそれを取り巻く氷の年代に大きな差があるため,氷に記録された気候変動に関する情報と気泡から求めた大気組成変動を比較するには,その年代差を正確に決定する必要がある.氷の酸素同位体比から過去の気温変動が推定できるため,気温と積雪涵養量および気温とフィルン層厚の関係から年代差を推定する方法についても説明した.次に,氷床コアから空気を抽出する際に用いる融解法と低温切削法および空気の分析法を紹介した.さらに,南極およびグリーンランドで掘削された氷床コアに上記の方法を適用することにより明らかにされた過去の二酸化炭素やメタン濃度の変動と気候変動の関係について考察した.