サービソロジー
Online ISSN : 2423-916X
Print ISSN : 2188-5362
巻頭言
サービスのイノベーションをデザインする
堀井 秀之
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2017 年 3 巻 4 号 p. 1

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サービスを,価値を提供する活動と捉えれば,製品の提供を除く全ての価値提供活動はサービスである.サービスの守備範囲はあまりにも広く,どれもこれも皆サービスである.今やサービスは当たり前のものになっている.そのような状況で,今サービスデザインに求められることは何であろうか.既に存在する優れたサービスと同様のサービスを生み出すことであろうか.もちろん,それは重要であるが,そのような努力はこれまでにも数多くなされて来た.今,求められているのは,画期的で有効なサービスを生み出すこと,すなわちサービスのイノベーションではなかろうか.

では,どうすればサービスのイノベーションを生み出すことができるのだろうか.イノベーションを新規性が高く,大きな影響をもたらす手段と捉えれば,新規性の高い手段のアイディアを生み出すことがポイントであることが分かる.大きな影響をもたらすサービスはこれまでにも数多く生み出されてきた.新しいサービスを生み出すことによって,これまでに提供されてこなかった価値や,これまでの大きさを超える価値を生み出すことが可能となる.新しいアイディアは演繹的推論,論理的思考によって生まれるのではなく,アブダクションという発想的思考によって生み出される.サービスのイノベーションを実現するためには,発想的思考をベースに新しいアイディアを生み出すことのできる人を育てることが必要である.

筆者は,2009年より東京大学で i.school というイノベーション教育プログラムを実施してきた.人間中心イノベーションという概念を重視し,新しい製品,サービス,ビジネスモデル,社会システムなどを生み出すことができる人材の育成を目指してきた.ワークショップ形式を採用し,年間に7回程度のワークショップを開催する.1回のワークショップの参加者は30名程度で,長いもので週に1回3時間,全10週間でイノベーションのアイディアを練り上げる.修士課程の学生を中心に全ての部局の学生が参加できる.異なるバックグラウンドの参加者が協働するところに特長がある.

i.school では,ワークショップのプロセスを重視している.1950年代から積み重ねられてきた認知科学における創造性研究の成果に基づき,ワークショップのプロセスをデザインすることによって,新規性の高いアイディアが生まれる可能性が高まると考えている.i.school生は,異なるテーマ,異なるプロセスのワークショップを複数経験することを通じて,新規性が高く,大きな影響をもたらすアイディアを生み出すためのワークショップのプロセスをデザインする方法を体得する.

サービスのイノベーションを生み出すためには,サービスデザインを行う人材に対するイノベーション教育が必要ではなかろうか.具体的なサービス領域を設定し,サービスのイノベーションをテーマとしたワークショップを実施することにより,新規性が高く,大きな影響を生み出すサービスをデザインできる人材を育てることができると考えている.イノベーションを生み出すサービスデザインは,これからの日本の大きな課題でもあり,また大きな期待でもある.

著者紹介

  • 堀井 秀之

東京大学教授,i.school エグゼクティブ・ディレクター

 
© 2020 Society for Serviceology
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