サービソロジー
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Print ISSN : 2188-5362
特集:サービスデザインの世界を俯瞰する ~アカデミアの観点より~
「サービスデザインの世界を俯瞰する~アカデミアの観点より~」にあたって
木見田 康治佐藤 那央
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2017 年 3 巻 4 号 p. 2-3

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近年,製造業,サービス業に係わらず,多くの業種業態において「サービスデザイン」に関する取り組みが活発化している.ここでのサービスとは,サポート業務などの個別的・限定的なものではなく,新たな成長事業や差別化の源泉として位置付けられる幅広い概念である.また,デザインにおける取り組みも,インダストリアルデザイナーによるものだけでなく,マーケターやエンジニア,あるいはユーザーも含めた幅広い活動を示す.このように,サービスデザインは目的や対象,活動主体が多岐に渡ることから,その捉え方も三者三様である.そのため,社内外で共通の認識や言葉を持つのが難しいことは想像に難くない.このサービスデザインに多様な見方がある理由の1つとして,そのルーツやアプローチが多様であることが挙げられる.つまり,異なるバックグラウンドの研究者や実務家がそれぞれの強みや特徴を活かし,サービスデザインに取り組んでいるのが現状である.

サービスデザインに関する研究は,古くは1980年代にサービスマーケティング分野においてShostackらにより行われている(Shostack 1982).当初は,マーケティング戦略の立案やオペレーションの効率化を主な目的としていた.その後,1980年代後半からNew Service Developmentの名のもとに,Operations Managementなどの知見を活用し,サービスイノベーションを創出するためのプロセスに関する研究が活発化し始めた(e.g. Fitzsimmons 2000).2000年に入ると,サービス工学やサービスサイエンス,Product-Service Systemsなどの研究分野が立ち上がり,それぞれの分野の中でサービスデザインに関する研究が発展してきた(e.g. Morelli 2002; Shimomura 2005; Spohrer 2009).これらの研究の特徴は,大量生産からの脱却や,製品の差別化,新たな成長事業の獲得などを目的として,製造業に係わるサービスを中心的に取り扱っている点である.一方,Interaction DesignやExperience Designの分野でもサービスデザインに関する研究が盛んに行われている(e.g. Mager 2008).これらの研究では,ユーザーとのインタラクションを,人工物やシステムに対するものからサービス全体に視野を広げることで,ユーザビリティやユーザー体験の更なる向上を目的としている.また,近年では,デザイン思考を取り入れたサービスデザイン研究も活発化している(e.g. Stickdorn 2012).また,サービスにおける価値は,提供者と顧客との相互作用を通じて共創されるため,サービスデザインにおいても,Participatory DesignやCo-Designの方法が積極的に取り入れられている(e.g. Alam 2002).サービス現場の従業員や顧客がデザインに参加することで,より顧客のニーズにマッチした製品・サービスを設計することや,サービス提供時のトラブルを事前に回避することが期待される.また,近年では,Transformation Designの分野で,社会や公共サービスをデザインの対象とする研究も行われている(e.g. Cottam 2004).本特集では,このようなサービスデザインの多様性と共通性を議論すべく,それぞれバックグラウンドやアプローチが異なるサービスデザインの取り組みを4つ紹介する.

武山は,サービスデザインが専門的デザイナー以外の様々なステークホルダーとともに実行される一方で,イノベーションの観点からはユーザー理解を超えた先見的な発想が求められるとの問題意識のもと,Design-Driven Service Innovation(DDSI)と呼ばれる手法を解説している.DDSIは,現状の課題認識にそのまま応えるソリューション型のサービス提案ではなく,現状の生活文脈の背後に見られる認識のあり方やフレームそのものを転換することによって,新たなサービスのビジョンやコンセプトの導出を目指すものである.これは,従来のユーザーや人間を起点としたデザインとは異なるサービスデザインの特長の1つであると言えよう.

山内は,サービスデザインが人間中心設計の延長として捉えられていることに対して,「ユーザー体験」や「共創」という概念に内在する問題点を自身のサービス研究の理論的視座から指摘している.このようなサービス研究の理論を踏まえた視点は,現状のサービスデザインの議論に不足している点であり,サービスデザインと他のデザインとの不連続な点を捉え直す上で重要な示唆を与えるものである.また,サービスデザインをより力強い営みにするために,従来の人間中心設計の枠を超えた独自の方法論を持つ必要性を主張しており,サービスデザインの今後の発展に繋がる課題とその議論の余地についても示唆的な内容であると言える.

須永は,デザイナーがものを形づくる際のデザインのあり方として「ことのデザイン」について紹介している.人工物と人間が引き起こす出来事をデザインするという視点から,その問題意識と具体的な事例を解説する.さらに,出来事のデザインには,現場従業員などの当事者が参加することが必要不可欠であるとした上で,プロフェッショナルデザイナーが果たすべき役割について議論している.この「ことのデザイン」は,インダストリアルデザインを出発点としながらも,「もの」ではなく「自己を包含する活動」をデザインの対象として捉えている.そのため,サービスデザインにおける議論との共通性も非常に高く,サービスにおけるデザイン問題やデザイナーの役割を捉える上で重要な取り組みであると言える.

下村は,サービス工学やPSS分野におけるサービスデザインのための工学的手法とその適用事例を紹介している.特に,ものづくりというサービスを高度化させる「製造業の(再)サービス化」を実現する上で,造る者と使う者による文脈と必要知識の共有の必要性に着目している.その上で,コンテキストのそのものを設計することで,サービスに係わるステークホルダーのコンテキストの変容と共有を促すコンテキスト設計を紹介している.本記事で紹介されている手法や事例は,製造業におけるサービスデザインが,単に製品に対して付加的なサービスの設計をして組み合わせることに止まらず,コンテキストなどの広範な設計対象を含むものであることを示す一例であると言える.

サービスデザインは,サービス学における重点テーマの1つであることは多くの方が感じていることであろう.その一方で,今回の特集が示すように,その議論は各分野で個別的に行われている部分も多い.本特集を機に,文理融合,産学連携を謳うサービス学会において,サービスデザインに関する横断的な取り組みが活発化することに期待したい.

著者紹介

  • 木見田 康治

首都大学東京 システムデザイン学部 知能機械システムコース 助教.博士(工学).2011年首都大学東京大学院システムデザイン研究科博士課程修了.東京理科大学 工学部第二部 経営工学科・助教を経て,2013年より現職.主としてサービス工学,Product-Service Systems,設計工学の研究に従事.11年日本機械学会設計工学・システム部門奨励業績表彰受賞.

  • 佐藤 那央

京都大学大学院情報学研究科博士後期課程所属.京都大学デザイン学大学院連携プログラム一期生.2009年3月,早稲田大学理工学術院先進理工学研究科修了.4年間メーカーにて研究開発職に従事した後,2013年4月京都大学経営管理大学院入学.2015年3月同修了.2015年4月より現所属に至る.日本学術振興会特別研究員(DC2)

参考文献
 
© 2020 Society for Serviceology
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