2017 年 3 巻 4 号 p. 42-43
2016年9月6日~9日に,東京農工大学(小金井市)にて開催されたヒューマンインタフェースシンポジウム2016において,講習会「ユーザーリサーチとサービスデザイン:演習で理解する革新的なサービス改善の考え方と実践法」を実施した.ヒューマンインタフェースシンポジウムは,ヒューマンインタフェース学会(HI学会)が1年に1度開催する全国大会である.本講習会は,このシンポジウムの中で実施する講習会の1コースとして,HI学会ユーザーエクスペリエンスとサービスデザイン専門研究委員会(SIG-UXSD)が企画し,9月6日に実施した(ヒューマンインタフェースシンポジウム 2016報告 2016).講師は,SIG-UXSDの運営委員でもある安藤 昌也教授(千葉工業大学),中谷 桃子氏(NTTアイティ)にお願いした.
講習会においては,ユーザーリサーチに基づいたサービスデザイン(SD)のアプローチを体験的に理解することを目的として,現実的なサービス改善プロジェクトを想定し,ワークショップ形式でSDの過程を演習した.具体的には,「農工大食堂の仕組みの改善提案」をテーマに,15名の参加者(企業・官公庁の方11名,大学の方4 名)が4チームに分かれて,調査計画の立案,調査(フィールドリサーチ),結果の分析,分析を踏まえた改善アイデア発想を行い,最後に提案内容を発表した.
各チームには,UX・SDの経験があるSIG-UXSD(HI学会ユーザーエクスペリエンスとサービスデザイン専門研究委員会)の運営委員がメンターとして加わって,一連の活動をサポートした.また,食堂の実ユーザーである農工大の学生も1名ずつ加わり,どのような使い方をしているかや,満足点,不満点などのインタビューに応えた(調査への協力).さらに,参加者による改善アイデアに対してユーザーの視点でコメントし(評価),これを通じて提案のブラッシュアップにも協力した.
UXデザインやサービスデザインでは各活動に適用できる「○○法」と呼ばれる手法が複数あるが,本講習会ではあえてこれらを取り上げた講義をせず,調査,アイデア発想等の活動単位で,講師が進め方についてポイントを絞って説明するのみに留めた.
手法を理解し使えるようになることは,UXデザインやサービスデザインを進める上で重要である.しかし,1日の講習会という限られた時間の中では,体験はできても,習得まで至るのは難しい.さらに,日頃馴染みのない手法であれば,手法を使うことそのものに意識が集中し,手法利用の目的となる「ユーザーリサーチのサービスデザインへの結び付け」を,掘り下げる体験にならない可能性もある.そこで,本講習会では,「ユーザーリサーチのサービスデザインへの結び付け」を参加者自身が掘り下げる体験そのものに焦点をあてて,そこから「サービスデザインにおけるユーザーリサーチの重要性」を体感してもらうべく,特定の手法を取り上げずに進めることとした.
これにより,実際のワークにおいて,参加者自身が,ユーザーがどのような状況で食堂を利用しているか,またその中でのユーザーの本質的なニーズが何か,を把握するためにとるべきアプローチを,メンターの助言を受けながら,またメンターと共に考え,試し,工夫する姿がみられた.
参加者は,昼食時間の食堂を中心にした大学内でのフィールドワークも含めて,チーム毎に集中して活動に取り組んでいた.一連の活動から,4チーム各々で全く異なる方向性のアイデア(ハイテク食堂,学内コミュニケーション空間・地域交流・貢献の場,食費を中心にした生活費の管理アプリ,等)が生まれ,スキット(寸劇)形式の提案発表も創意工夫に溢れて大いに盛り上がった.発表終了後に,参加者が自チームだけでなく他チームの活動過程を示す模造紙を写真に収めあう印象的なシーンも見られた.10時から17時30分という長丁場だったが,密度の濃い充実した講習会になったのではないかと考える.
本講習会でのサービスデザイントライアルが,参加者による実際のサービス設計,サービスにおけるUX向上の活動に,少しでもフィードバックされることを期待したい.
(写真掲載については,すべて講師・参加者の許可を得ている)
〔谷川 由紀子,福住 伸一 (日本電気株式会社)〕