サービソロジー
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会員活動報告
企画セミナー開催レポート「サービス学の理論と実践~多様な業種での事例を通じて~」
村本 徹也
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2019 年 5 巻 4 号 p. 54-55

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1. はじめに

近年,サービス領域の学問の進展はめざましく,またAI,IoT,ロボティクスなどの技術進展により,サービス学の実務への適用可能性は拡大している.一方で,サービス領域の学問の成果を現場課題と結び付け解決に役立てられる人材は限られているのが現状である.

このような中,サービス現場での問題意識をテーマに,サービス学の現場への適用事例を共有し,理論と実践の橋渡しを目的に今回のセミナーを開催した.

2. 講演テーマの構成と内容

本セミナー*1は,10月29日に首都大学東京秋葉原サテライトキャンパスで実施された.本章では,セミナーの構成と内容について述べる.

2.1 テーマの構成

今回サービス現場での問題意識として,「サービス業における人材不足への対応」と「製造業のサービス化(IoT)」の2つのテーマを取り上げ,それぞれ産業界と学術界から最新の研究成果,実践事例を講演いただいた.講演者と演題は表1のとおりである.

表1  講演者と演題
テーマ1:サービス業における人材不足への対応
Future Convenience Store Contest
首都大学東京 システムデザイン学部
准教授 和田一義氏
Future Logistics
-物流の未来とそれを支える技術・サービス-
NEXT Logistics Japan株式会社
代表 梅村幸生氏
テーマ2:製造業のサービス化(IoT)
IoTが加速する製造業のサービス化
東京都立産業技術研究センター IoT開発セクター
副主任研究員 根本裕太郎氏
製造現場のWell-Beingに着目したIoT活用サービスの導入
日本電気株式会社 ものづくりソリューション本部
本部長 佐藤美和子氏

2.2 テーマ1:サービス業における人材不足への対応

本セミナーでは,流通サービス,特にトラック輸送とコンビニエンスストアの人手不足解消に向けた取り組みをご紹介いただいた.

2.2.1 Future Convenience Store Contest

労働人口の減少に対するひとつの解はロボットによる自動化である.しかしながら,多品種少量生産となるサービスロボットの産業化へのハードルは高く,ベンチャーや中小企業が育ちにくい.和田氏は,海外ではDARPAなどコンテストが技術推進の原動力となっていることにヒントを得,コンビニ店舗をフィールドとしたデザインとロボットコンテストを企画・運営している.講演では,自動運転車による移動コンビニのコンセプトデザインやコンビニの品出しやトイレ掃除ロボットコンテストの様子を紹介いただいた.

2.2.2 Future Logistics -物流の未来とそれを支える技術・サービス-

冒頭,梅村氏から「ドライバー不足により,運びたいけど運べない未来の拡大.このままでは日本経済は物流から崩壊する」との強い危機感が提示された.物流危機の原因は,工場オペレーションのIoT化,ライフスタイルの多様化,Eコマース拡大による運送量の増加とロードファクター(積載率)の低下(現状の平均積載率は40%)にあるとし,トラックの無駄を減らし「トラックを使い切る」技術が紹介された.例えば,自動運転技術を応用した,荷台の積載量を見える化する技術や自動荷役システムなどである.

NEXT Logistics Japanは日野自動車のスタートアップ企業である.トラックの利用効率を上げると車が売れなくなるが「そんなことは言っていられない.日野が課題解決を主導する」と,梅村氏は課題解決企業の姿勢を鮮明に示した.

2.3 テーマ2:製造業のサービス化(IoT)

本セミナーでは,学問という観点から製造業のサービス化とIoTについて概観し,実践事例としてITサービス企業のIoT活用事例を紹介いただいた.

2.3.1 IoTが加速する製造業のサービス化

製品をモノとして売るのではなく,サービス提供のための装置としてとらえ,メーカーがサービスビジネスで稼ぐ動きを「製造業のサービス化」という.そして,提供から共創へと企業と顧客の関係性が変化していることが示された.

サービスにおけるIoTの意味として,ミクロには情報という資源の流動性を高め,モノに粘着していた情報資源を引きはがす意味があり,マクロにはサービスシステムにおける創発を起こし,サービスとサービスがつながり,エコシステムを形成する意味があると,根本氏は指摘する.

2.3.2 製造現場のWell-Beingに着目したIoT活用サービスの導入

製造現場へのIoT活用導入と定着には,現場の人の困りごとに着目し,うれしさを作る「現場のWell-Being」に着目することが重要と佐藤氏は説く.

当初反発の声が多かったIoTツールが,現在では朝礼で利用される必要不可欠なツールに至るまでの経緯を振り返りながら,「現場利用者とのIoT利用目的の共有(朝会の情報,カイゼン活動のKPI)」,「班長の困りごとを解決」など具体的なノウハウが紹介された.

3. 聴講者の反響

本章では,セミナーに参加いただいた聴講者の属性や,講演に対する評価について述べる.

3.1 聴講者の内訳

聴講者の内訳をみると,会社員が17名中14名と大半を占めており,所属部門も研究部門5名に対し事業部門からの参加が9名と,実務を担う方が多く参加していることがわかる.これは,本セミナーの開催趣旨にも合致していると考える.

3.2 講演に対する評価

講演に対する評価は,5段階評価で全体平均4.3であり,概ね高い評価であった.特に運輸サービスの先端事例を紹介したNEXT Logistics Japanの梅村氏の講演は4.8と最も高い評価であり,企業の先端事例への関心の高さが伺える.

4. 終わりに

聴講者からいただいた声から,サービス学の成果を実践に生かす事例共有の場が求められていることを実感できた.構成も「産」と「学」の両面から取り組みを紹介することで幅広い視点からの紹介ができたと考える.

一方で,聴講者の数が定員の半分以下にとどまったことは今後の課題である.今後はより多くの人にセミナーに参加いただけるよう,募集の方法などを工夫していきたい.

最後になりましたが,快くお引受けいただいた講演者の皆さま,運営にご協力いただいた方々に心より感謝の気持ちを伝えたく,謝辞にかえさせていただきます.

*1  サービス学会セミナーページ:http://ja.serviceology.org/events/seminar2018_1st.html

著者紹介

  • 村本 徹也

富士通株式会社 フィールド・イノベーション本部 シニアFIer.社会福祉法人ラルシュかなの家 理事.博士(知識科学).サービス現場のウェルビーイングに向けた知識創造の方法論に興味を持つ.

 
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