2019 年 6 巻 2 号 p. 50-53
2019年3月2日(土),3日(日)の2日間にわたり,サービス学会第7回国内大会が東京工業大学大岡山キャンパスにて開催された.大会テーマは「サービス・テクノロジーの真価:社会的価値創出に向けたサービスへのテクノロジーの融合」であり,普及が進むテクノロジーへの社会的期待と東工大という場所柄を汲んだテーマが掲げられた.今大会では,大会場での基調講演2件とパネルディスカッション,3会場パラレルでの口頭発表セッションとオーガナイズドセッション(OS),さらにポスター発表セッションが企画された.それぞれの発表件数は,口頭発表セッションで43件(13セッション),OSで17件(5セッション),ポスター発表セッションで22件,合計82件であった.大会には,産学官それぞれの立場から289名(招待者含む)が参加し,活発な議論がなされた.
本稿では,筆者らが聴講したセッションの報告を中心に大会当日の様子をお伝えしたい.なお,OSについては本誌の会員活動報告記事にて各オーガナイザが報告するため,詳細はそちらに譲る.
今大会では,2件の基調講演が行われた(図1).初日は,亀田総合病院の院長である亀田信介氏が登壇し「人口爆発の地球,少子人口減少の日本:持続可能な社会のために公共サービス,社会基盤の将来はどうあるべきか?」と題して,同院が提供する患者参加型医療のサービス像,そして医療の域を超えた「南東京市構想」について講演した.南東京市構想とは,人口の一極集中の加速により機能不全に陥ることが予想される首都東京の機能を,同院がある房総半島を活用し補完するというビッグピクチャである.日本を変えるような大きな構想に,現学会長で今大会の実行委員長でもある日髙一義氏が「元気をもらえる」とコメントするなど会場も熱を帯びた.2日目には,トヨタ自動車 Mid-size Vehicle Company BR中国生技室主査である伊藤敏弘氏が「モビリティカンパニーへの変革」と題して講演した.自動車の製造業者からモビリティサービスの提供者へと変わっていくことを目指す同社,筆者の印象に残ったのはe-Palleteと呼ばれるコンセプトである.箱型デザインの自動運転車が(デザインは,あくまでイメージであるそうだが),移動を介してユーザーの目的を叶えていく未来が映し出された.

初日の開会式の直後には,大会テーマでもある「サービス・テクノロジー」と題したパネルディスカッションが行われた.パネリストは,サービス・テクノロジーの提供者を代表して,画像認識によるAIレジBakeryScanを提供している株式会社ブレインの原進之介氏とパワードウェア(ロボットスーツ)を提供している株式会社ATOUNの藤本弘道氏,サービス企業を代表してヤマト運輸株式会社の野口修一氏,サービス学の立場から産業戦略研究所の村上輝康氏,テクノロジーの活用を推進する立場から産業技術総合研究所の本村陽一氏というメンバーで,富士通研究所の丸山文宏氏がモデレータを務めた.
多彩なパネリストから興味深いサービス・テクノロジーの事例が紹介されるとともに,それに伴う困難や課題も指摘された.日本経済にとってのサービス・テクノロジーというマクロな視点の話題にも及び,最後は,「サービス・テクノロジーはサービスの提供者だけでなくサービスの受益者にもメリットをもたらすか?」という会場からの質問に対する議論で締めくくられた.
2.3 口頭発表セッション 2.3.1 1日目午後1日目午後から口頭発表セッションおよびOSが3会場で並行して始まった.1つ目のスロットでは「社会的価値・持続可能性・ウェルビーイング」「ビッグ&ディープデータ活用とELSI」「OS:サービスとプラットフォーム」の3つのセッションが執り行われた.筆者が聴講した「社会的価値・持続可能性・ウェルビーイング」では,人の働き方や趣味,企業の持続可能性,生物の多様性保全などを切り口として,サービスが個人や社会,地球環境のウェルビーイング(善いあり方)に与える影響を分析する,あるいはそれらを考慮しながらサービスを構成する研究が発表された.例えば,3件目の発表では,“企業らしさ”と“らしくなさ”というユニークな観点から,持続的発展を遂げる企業の調査・分析を行った結果が報告された (原他 2019).
次の時間帯には,「サービスデザイン(1)」「サービス測定・行動観察(1)」「OS:産学連携によるサービス経営人材の育成に向けて」の3つのセッションが開催された.「サービスデザイン(1)」では,流行したサービスの事例分析を通じて,サービスの設計指針を抽出する研究や,他分野で用いられる手法をサービスデザインに取り入れ,新しいツールを構成する研究が発表された.
2.3.2 2日目午前2日目は前日からの続きとなる「サービスデザイン(2)」「サービス測定・行動観察(2)」と,「OS:実学としてのサービス科学・知識科学A.地域・コミュニティ・ウェルビーイングに対するサービス研究」の3セッションで幕を開けた.筆者が聴講した「サービスデザイン(2)」では,前日と同様,いくつかの異なる視点からサービスデザインに関する研究が発表された.象徴的であったのは,サービスデザイン研究の歴史を振り返る研究(赤坂他 2019)であり,一口にサービスデザインと言っても,学術的背景の異なる5つの流れがあること,異なる背景をもつサービスデザイン研究者間での相互理解やコラボレーションが不十分であったことが指摘された.
続く時間帯には「サービス・エコシステム」「サービス品質・顧客満足・ロイヤルティ」「OS:実学としてのサービス科学・知識科学 B.ビジネスにおけるサービス価値創造」の3セッションが行われた.「サービス・エコシステム」のセッションでは,サービス・エコシステムの本質を問い直す研究や,IoTのような特定の技術に関わるエコシステムを分析・展望する研究が発表された.
2.3.3 2日目午後2日目午後は,まず「価値共創」「従業員理解」「OS:行動変容のためのサービスデザイン」が開催され,計13件の発表が行われた.筆者は,「従業員理解」セッションを聴講した.例えば,2件目の発表は従業員満足度に着目したサービスシステムの設計に関する研究であり,飲食店の店舗,従業員,顧客の三者間関係に焦点を当ててエージェントシミュレーションを構築し,シミュレーション実験を実施していた (土倉他 2019).本セッションで発表されたいずれの研究も,これまで実施されていなかった観点に着目した研究であると言え,今後の更なる発展が期待される.
本大会最後となる時間帯には,「サービス・イノベーション」,「サービス経験」,「製造業のサービス化とプロダクト・サービス・システム」の3つのセッションが行われ,計11件の発表が実施された.筆者は,「サービス・イノベーション」セッションの前半2件と,「サービス経験」セッションの後半2件を聴講した.「サービス・イノベーション」では,例えば,社会的影響に配慮したデジタル化のためのサービス研究として,デジタルテクノロジーの活用とリスクへの対応に関する各種議論や社会的取り組みの紹介と,そこでの将来的なサービス研究の貢献可能性が議論された (渡辺他 2019).また,「サービス経験」での最後の発表は,宅配サービスの利便性が顧客心理と行動にもたらす影響の研究であり,大規模なアンケートデータの分析を通して課題にアプローチしていた(濱野他 2019).いずれのセッションでも,それぞれの分野で新規性を有する研究が発表され,将来的な発展が期待される研究報告であったと感じた.

2日目の昼休み明けに行われたポスター発表セッションでは,21件のポスターが並んだ(22件の予定であったが1件は発表者の体調不良のため取り下げとなった).本セッションは50分間であり,非常に濃密で盛況な場となっていた.なお,会場入り口においては例年通り,産業技術総合研究所の山本吉伸氏が提供する「足跡シール」が配布された.本シールは,各ポスターに聴講者が貼り付ける形式となっており,貼り付け票は定期的に回収された.これにより,どのポスターが各時間帯においてどれほど聴講されていたかを分析するようである.
ポスター発表の内容としては,工学系,理学系,医療系,心理系,経営系,商学系など,多種多様な発表がなされていた.研究アプローチは,実験室内実験,数理的理論構築,機器作成と評価,アンケート調査と分析,インタビューやエスノメソドロジー,概念的フレームワーク構築,臨床実験など,こちらも様々であった.
2.5 懇親会懇親会は,会議初日のセッション終了後に,東京工業大学蔵前会館ロイアルブルーホールにて立食形式で行われた(図3).和やかな雰囲気の中,参加者が一堂に会して,昨年度大会の各賞受賞者の授賞式等が執り行われた.多種多様な和食・洋食が振る舞われ,盛況な懇親会となった.

国内大会の場を活用し,1日目の昼には賛助会員ランチミーティングが開催された.3社の賛助会員企業が参加し,当学会の会長,副会長,理事を含めた十数名の間で,サービス事業に関する日頃の問題意識や学会活動について意見交換が行われた.
2.7 若手ランチミーティング・懇親会大会2日目には,若手研究者が集うランチミーティングと懇親会が高橋裕紀氏(東京大学)の司会のもと開催された.ランチミーティングでは,まず34名の参加者が各々自己紹介をした.初めての参加者も多く,その中でも驚きが起きたのは,筑波大学附属駒場高等学校3年(当時)の石井秀俊氏の存在であった(図4).石井氏は,西野成昭氏(東京大学)が日本経済新聞電子版に掲載したサービス学に関するコラム(西野 2019)を読み,関心をもって参加したという.高校生にして学会に飛び込む気概は素晴らしく,またその先として選んでもらえたことを嬉しく思う.自己紹介の後,学会理事が本誌やサービソロジー論文誌,下剋上SIGなど学会の諸活動を紹介し,質疑を行った.そこでは「サービス学を学べる教科書が欲しい」といった意見があがった.大会終了後の若手懇親会には,17名が参加し親交を深めた.

以上の通り,本稿では第7回国内大会の様子をまとめ報告した.次回の第8回国内大会は,2020年3月12日(木)~13日(金)に大阪成蹊大学で,ICServ 2020(3月13日~15日)とジョイントでの開催となる.大会テーマは「観光の未来とサービス学―新しい観光の時代―」,発表の応募締め切りは11月下旬を予定している.会員各位においては奮ってご応募いただきたい.
最後になったが今大会の実行委員を代表して,参加された方々,また日々サービス学会に様々な立場からご支援をいただいている方々に,心から御礼を申し上げたい.

東京都立産業技術研究センターIoT開発セクター副主任研究員,博士(工学).専門分野はサービス工学,設計学,Product-Service Systems.近年は,サービスにおけるテクノロジー活用とウェルビーイングに関心をもつ.

産業技術総合研究所人間拡張研究センター特別研究員.プラットフォームエコシステム,ビジネスエコシステム,イノベーションマネジメントの研究に従事.博士(技術経営).

株式会社富士通研究所人工知能研究所特任研究員.人工知能,サービスの研究・開発に従事.東京工業大学非常勤講師.博士(工学).