2019 年 6 巻 2 号 p. 62-63
経済産業省では,サービスに関するノウハウの体系化及びサービス産業における実践的な経営・マネジメントに特化した大学主導での教育プログラム開発支援を通じて,サービス産業の活性化・生産性向上に資する産学連携の取組を最大3か年に渡り支援を行った.本支援の終了を受け,著者らは各大学がプログラムを開発する中で蓄積したノウハウの収集・整理や共有を目的として,実施大学へのヒアリング調査,大学関係者/大学関係者と産業界とのワークショップや有識者検討会を実施し,サービス産業における経営人材を育成する上でのノウハウや取組を整理した事例集を作成した(平成30年度委託事業).
サービス学会第7回国内大会のオーガナイズドセッションでは,各大学の取組や委託事業の成果発表の場として,①サービス経営人材育成に関する経済産業省の政策動向,②産学連携を通じたプログラム開発の課題とポイント,③京都大学「インテグレイティッド・ホスピタリティ国際連携コース」及び関西学院大学「診療所経営を中核とした地域医療経営人材育成プログラム」事例の紹介と併せてパネルディスカッションを実施した.各大学による取組事例や政策動向は『産学連携サービス経営人材ガイドブック(https://www.meti.go.jp/policy/servicepolicy/management-jinzai/pdf/service-management-guidebook.pdf, last accessed on May. 20, 2019 )』を参照いただき,本稿では特に②産学連携を通じたプログラム開発の課題とポイントの要点を報告する.
主要大学へのヒアリングや成果からは,産学連携によるプログラム開発を実施・継続に際して大学側が直面した問題点として,「開発や運営に向けた資源の継続的な確保が難しい」,「連携先企業の確保や拡大が進まない」といった点が明らかになった.これら問題の解決を図るには,「大学個別の取組にとどまらないプログラムのスケールアップや連携方向性の検討」,「産業界の短期/中長期的なニーズに即した連携メリットや効果の明示」等が課題として考えられる.
2.2 課題解決に向けた取組の現状と考察 2.2.1 大学間連携の深化と方向性専門的かつ実践的な教育プログラムは,プログラム開発のコストが嵩むだけではなく,受講者層が限定的になり,受講料収入のみでの運営は困難な場合が多い.類似テーマや領域を扱う大学間が連携したプログラム開発による開発コストの低減や,単位互換制度を用いた受講者拡大により,費用面への効果が期待できる.
例えば,京都大学はコーネル大学と連携してダブルディグリープログラムを開発,関西学院大学では小樽商科大学との共同講演会の実施や独自開発したケース教材を共有し,大学間連携を通じたプログラムのスケールアップに向けた取組が行われている.一方で,これら大学間連携はプログラムの充実に主眼が置かれており,効率的な運営につながる他のプログラムとの接続や大学間連携の在り方は今後の検討事項である.
2.2.2 産学連携を行うメリットの接合点大学が産業界の連携先を確保するにあたり,教員が持つ既存のコネクションを活用している事例が多いが,その背景には大学が産業界に連携のメリットを明示できず,新規開拓が困難であることが挙げられる.
メリットを明示するプロセスには,①メリットの整理,②メリットの言語化,③メリットの発信の3ステップが想定される.①は人材育成像やプログラムの方針に関する検討,②は①の構造化や産業界の課題と紐づけた整理,③はシンポジウム等による外部発信を指す.この3ステップに当てはめて支援先大学のプログラム状況を見ると,①は全てのプログラムで実施され,③も2/3以上で実施されている一方で,②は約4割での実施にとどまっており,多くの大学がプログラムのメリットを整理,発信しているが,大学目線でのメリットになってしまっており,産業界の期待や求める成果とのミスマッチが生じている可能性がある.
ミスマッチ解消に向けた事例として信州大学のインターンシップの取組を紹介したい.取組では,学生が企業を訪問,企業の経営課題を抽出し,課題解決に向けた活動を行うものである.インターンシップを通じて,大学側は学生への実践的な教育が可能であり,企業側は自社の経営課題解決に向けた取組加速につながる.大学と産業界の双方にメリットのある産学連携により持続可能な関係構築や新規連携先の開拓につながっている.プログラム開発のプロセスにおいて,産業界との連携をデザインする際には,企業目線のメリットを探索・模索し,双方のメリットが結びつけることが重要となる.
2.3 今後の課題解決に向けた提言ワークショップ等の議論の場では,産業界のニーズとして『アウトプットを重視した教育内容』『受講者が柔軟に科目を選択できるプログラム設計』『産業界の知見拡充が必要なAIやデータ利活用等の第4次産業革命スキルに対応したプログラム開発』『社会人が働きながら学びやすい環境の整備』等が挙げられた.
これら産業界のニーズと大学が抱える課題を踏まえると,将来的なプログラム構造としては,a.全産業で共通の経営に関する科目群,b.AI・データ利活用等の第4次産業革命スキルに対応した科目群,c.各プログラムが対象とする専門的なサービスに関する科目群の3段構成で考え,体系化したプログラムの構築や受講環境の整備を通じた課題解決が一案である.例えばaとbは,複数の大学でオンラインプラットフォームを構築・共通化することで,高品質な科目の充実,社会人学生の受講負担の軽減,開講コストの低減が期待できる.cは,企業の課題解決を行うプロジェクト型や専門的な知識付与の講義とすることで,企業が大学と連携する際のメリットを明確化しやすくなると期待される.
産学連携でのサービス経営人材育成という新たな試みだからこそ,既存の教育手法や開発プロセスとは一線を画するチャレンジが生まれることを期待したい.
本稿では産学連携でのサービス産業での経営人材育成に関する現状分析や産業界との議論を基にした成果を報告した.今後も引き続き大学関係者や産業界と議論を深める中でブラッシュアップに向けた取組に携わる予定である.
PwCコンサルティング合同会社 公共事業部 Senior Manager.大学経営や科学技術政策に関する公共プロジェクトに従事.東京工業大学環境・社会理工学院技術経営専攻修了.
PwCコンサルティング合同会社 公共事業部 Senior Associate.労働政策や人材育成に関する公共プロジェクトに従事.同志社大学ビジネス研究科修了.